お金と人類文明の発展

お金がなくなったら?!

もし、この世にお金がなくなったら、どんな世の中になるだろうか?多くの人々は、この世界のあらゆる悪や犯罪行為がお金のせいで発生すると信じ、世の中をより良くするためには、お金をなくした方がいいのではないかと考えたりもする。つまり、お金がなくなった方が人間は幸せだと考えている。それで、多くの文学者や哲学者たち、そして宗教家や芸術家たちはお金が社会悪の根源であるという考えを自分の仕事に反映したりした。

19世紀末、フランスの小説家エミール・ゾラ(Emile Zola)は「貨幣は廃棄すべきであり、だから投機、盗難、賭博など、所有欲から生じるいかなる犯罪行為もこれ以上あってはならない」と主張したし、ポーランドの教育者ヘンリク・ゴールドシュミット(Henrik Goldschmidt)は、「人間はすべての貨幣を捨てたまま何も所有してはならない」と主張した。しかし、彼らはお金がなくなった後、世の中にどんなことが起こるようになるかについては、はっきりと答えることができなかった。

お金をなくそうとする試み、しかし失敗

ところで、実際に貨幣をなくそうと試みた人物がいた。彼はほかならぬイギリスの社会改革運動家だったロバート・オーウェン(Robert Owen、1771〜1858)である。ロバート・オーウェンは1832年9月、ロンドンに「労働仲介所」というものを開き、ここで人々が自分が作った商品をいかなる費用も支払うことなく直接交換できるようにした。その代わりに、商品を渡す人は領収書と労働証書を受け取り、労働証書にはその商品を作るためにどのくらいの時間が必要だったかが記録された。人々はその証書によって仲介所の帳簿を介してそれに見合った他の商品を持ち帰ることができた。

しかし結局、商品をバランスよく取り揃えられなかった労働仲介所は利益を残すことができなくなり、すぐに看板を下ろすことになった。結局、貨幣をなくそうとしていた彼の試みは、2年足らずで失敗に終わってしまい、オーウェンは全財産の80%を失った。

困難を通じて、より成熟すること

実際に私たちが生きている世の中で、商品の生産と流通がお金なしには考えられないことは事実である。もしお金がなければ、人間は原始石器時代の物々交換の生から抜け出せなかっただろう。今日のような物質的豊かさと文化的享有を享受することもできなかっただろう。皮肉なことに、お金がなければ、お金をタブー視する一部の文学者、哲学者、宗教家、芸術家たちも存在できなかっただろう。

私たちは、何か困難にぶつかったからといって、それをなくすことだけが解決策ではない。社会と経済が発達すればするほど、貨幣が商品貨幣から金属貨幣に、そして紙幣に、また信用貨幣に発展してきたのは、貨幣の機能をより効率的に発揮するためである。ドイツの作家ハイナー・ミュラー(Heiner Muller、1929〜1995)は、自分の戯曲「建設」で、より良い世界は貨幣を一括廃棄することで建設されるのではなく、貨幣を利用することで可能であると述べた。これと同じく、私たちの生も困難がある時、それをなくすことだけが能ではなく、そのような困難を克服し、利用して、より良い次元に発展していく知恵が必要である。困難を通じて、いっそう成熟することが、もう一つの人生の法則である。

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