新時代のビジョンと価値

ブレグジットと新自由主義

英国が欧州連合(EU)離脱(Brexit)を選択した。今回の決定の最大の理由の一つは、英国民の「反移民」感情である。つまり、EU 結成による移民の増加が英国の安全や雇用や福祉を脅かしているというのである。このような感情の背景には「貧富の格差」がある。実際、英国ガーディアン紙の分析によると、低所得・低学歴層が英国のEU 離脱を圧倒的に支持した。ところが、このような貧富の格差をもっと深く掘り下げると、「新自由主義(Neo Liberalism)」という思想がその根を形成している。

新自由主義は、国家の市場介入を止揚し、市場機能と民間の自由な活動を重視する理論である。新自由主義は、大恐慌以降、世界経済の思想的主流だったケインズ(Keynes)理論の代案として本格的に台頭した。ケインズ理論が1970 年代のスタグフレーション(stagflation)に代表される不況を正しく説明することができなかったからである。シカゴ学派に代表される新自由主義者の主張は、ニクソン(Nixon)政権の経済政策に反映され、以来、レーガノミクス(Reaganomics)の根幹となった。

1980 年、米国のロナルド・レーガン(Ronald W. Reagan、1911〜2004年)が大統領に当選したとき、レーガン大統領の当選祝賀パーティーに集まった共和党員は皆、アダム・スミス(Adam Smith)の横顔を描いたネクタイを締めていた。英国では、マーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher、1925〜2013年)が執権に成功した。このように、新自由主義は1980 年代にサッチャリズムとレーガノミクスという名で現実で権力をつかんだ後、グローバル化という追い風を受けて主流経済学を掌握した。「グローバル化」や「自由化」という用語は、新自由主義が生んだ産物である。このようなグローバル化と自由化は、世界貿易機関(WTO)やウルグアイラウンドのような多国間交渉を通じた市場開放圧力として現れる場合もあった。欧州統合の思想的基礎となったロバート・マンデル(Robert A. Mundell、1932〜)教授の「最適通貨圏(Optimum currency area)」理論も新自由主義思想の産物である。

ハイエクと新自由主義

新自由主義に関連して絶対に欠かせない人物が「ハイエク(Friedrich Hayek、1899〜1992)」である。ハイエクは、ケインズ主義が注目されていた1950 年代と1960 年代には学界で荒唐無稽なことを言う間抜け者の扱いを受けたが、西側資本主義国家がケインズ主義を離れて古典的自由主義の価値観に立ち返り始めると、大きく注目を浴びた。ついに彼は1974 年に自由市場経済論者としては初のノーベル経済学賞も受賞した。レーガンとサッチャーはハイエクの新自由主義信条を信じる教徒に近かった。レーガンは、最も尊敬する哲学者が誰かという質問に「ハイエク」だと答えたし、ハイエクが死ぬ一年前の1991 年に彼に大統領自由勲章(US Presidential Medal of Freedom)を献呈している。英国のメディアは、マーガレット・サッチャーの執権当時、ハイエクをサッチャーの「舞台裏に隠れた精神的指導者、サッチャー夫人のゴッドファーザー、サッチャーの霊的師匠」と呼んだ。マーガレット・サッチャーの手には常にハイエクの本があった。

新自由主義は、自由放任経済を志向しながら、非効率を解消し、競争市場の効率性と国家競争力を強化する肯定的な効果があった。しかし、不況や失業、それによる貧富格差の拡大、市場開放圧力による先進国と発展途上国の間の葛藤という副作用を生んだ。英国のサッチャー首相が積極的な改革と開放政策で「英国病」を治したと評価されてはいるが、その過程で疎外され、挫折した人が増えたのである。

しかし、ハイエクを中心とする新自由主義は、社会正義と分配正義を露骨に否定した。自由を過度に重視したあまり、「社会正義は自由と両立することはできず、不平等というのは社会的進化の過程で必然的に生じるものだ」というのである。さらにハイエクは、貧困者、労働者、発展途上国は金持ち、資本家、先進国に対して「命の借りがある」とまで強弁した。つまり、金持ちの経済が発展すれば、貧困者はそのおこぼれで貧困を克服することができるというのである。いわゆるトリクルダウン理論(trickle down theory)である。

新自由主義からの脱衣

しかしブレグジットを通して、社会から疎外された人々は権力や富、特権を振りかざす階層に向かって怒りを爆発させた。米国も尋常ではない。米国は、上位20%が全体資産の85%を占めるほど貧富の格差が激しい。大統領選挙の予備選挙の過程での社会主義性向のバーニー・サンダース(Bernie Sanders)候補に対する青年層の熱狂的な支持や「トランプ(Donald Trump)熱風」もすべて経済的に衰退し落後した地域の有権者が作り出したものである。このような状況だから、ブレグジットは過去40 年間に世界経済を支配してきた新自由主義の崩壊の信号弾だという分析も出ている。

このように新自由主義に対する反感が大きくなると、新自由主義の前衛隊の役割をしていた国際通貨基金(IMF)内でも反省の声が出始めた。最近、IMF は「新自由主義:過剰評価だったのか(oversold)?」という論文で、新自由主義が不平等をもたらしたことを認めた。また、「金持ちの所得は、貧困者に流れない」とし、トリクルダウン効果が間違った論理だと説明した。2012年には保守的な色合いが強いダボスフォーラムにおいてさえ「大転換(Great Transformation)のための新しいモデルの模索」を議題に掲げたりもした。

現在、世界では新自由主義擁護と反発という二つの世界観が激しく攻防を繰り広げている。経済学者ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)は、世界経済史の3つの波として、第一のアダム・スミスの「自由放任(laissez-faire)」の波、第二のフェビアン主義者(Fabianist)の「福祉国家」の波、第三のハイエクの「自由市場蘇生」の波に言及した。

では、ブレグジットが現実化した今、果たして新自由主義が最後の波になるのだろうか?今後展開される新しい資本主義がどのような姿なのかは分からないが、1 対99 社会をもたらした現在の新自由主義思想に対する修正は避けられないだろう。アダム・スミスも、個人の自由な経済的利己心が社会の道徳的限界内でのみ許容されると言ったのではないか?

ならば、少なくとも競争を通じて強者だけが生き残る適者生存の社会ではなく、弱者を配慮する社会正義が生きている世界であるべきではないのか?それは新時代の成約の御言葉が提示する社会的価値とビジョンともつながっている。この地上に神様の創造目的が成され、地上天国が成されることを切に願う。

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