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雛祭り

うちには七段飾の雛人形がある。私が生まれたから購入されたものだ。私の記憶に残っているお雛祭りは私が幼稚園児の時に平屋自宅(社宅)で七段の豪華なお雛様を飾って近所と言っても同じ社宅の子供たちがうちに遊びに来た。
今覚えば家は取り立ててお金持ちでもないのに、それに似つかわしくない豪奢な雛人形だった。

今それは誰も住んでいない祖母の家にある。

両親が離婚した時、なぜか母が引越しの日に雛人形の階段持っていくの忘れた!と言っていたのは鮮明に覚えている。

私は想像した。何もかも持ち出した家。帰宅した父は家財道具一切ない真っ暗な部屋で雛人形の階段だけが残っているのをみてどうしたんだろうか。
怒り?悲しみ?寂しさ?

その後雛人形の入った段ボールはしばらく開けられなかった。

母が再婚し、私は祖母の家に引っ越した。
3月前に祖母がせっせと雛人形を出した。それの階段がないものだから、ピアノの上にお内裏様とお雛様と三人官女だけが飾られた。
きっとこの雛人形は祖父母が購入したものだろう。

祖母は呪いのように、
「早くお嫁に行けるように早く片付けないと」、と3月3日の夜には雛人形を段ボールに仕舞った。

私は一度も嫁に行くことなく中年女と成長している。

実はお雛様を見るたびに父のことも思い出していた。その父ももういないし、祖母もお雛様を出してはくれない。私も嫁に行く気はさらさらない。

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