書棚を買うつもりだったのに

新しい書棚を入れるのよと、人に会うごとに自慢げに話してから随分経った。今の書棚が満杯になり、納めるスペースではない天板の上や、足元の床にまで広がりつつあったし、なんせ書籍は毎日のように発売される。これからも良い本にたくさん出会うに違いないから拡張決定と考えた。オフィス用のコピー機は場所を取り過ぎていたので処分し、壁一面の書棚スペースを用意した。書棚について調べ、家具のプロに話を聞き、お目当の品も見つかると家具店に現物を見に行った。けれど、まだ買えていない。家具で有名な大川市の土手の緑が濃く美しかったので、あれは去年の夏のことだ。現物にも納得し、予算も準備した。なのになぜまだ家にないのかというと、家具店で店員さんから「楽天で注文してください」といわれたというのが大きい。別にむっとしたわけではない。それならいつでもできると思ったのだ。期限がないというのは恐ろしい。振り返ればここが第一のつまづきであった。

その後も仕事をしつつ、書棚予定スペースの白い壁をちらりと見ては「あの重厚な書棚がきたら仕事部屋のランクが上がっちゃうね」などとニマニマする日々を送っていた。並行して増え過ぎた子どもの服を整理したり、台所の鍋をもう一つ増やすか、増やさず使い回すかなど、多少なりとも快適な暮らしを思考し続けていたら、ある真理にぶつかった。洋服箪笥や食器棚にそうであるように、広げれば広げるほど書棚、いや、本ももしかして増える?と。書棚を増やしてもまた本が増えて、またスペースなくなったらどうしよう。また書棚を買う?スペースもうないでしょ。これがつまづきパート2である。

そして先日、ある女性の書棚をたまたま雑誌で目にした。心地よいエッセイを書かれる方で職業からしてさぞかし多くの蔵書をお持ちでしょうと思いきや、意外にも書棚はすごく小さかった。本当にあれで全部なら現在のうちの4分の1ほどだ。スペースには限りがあるので、なくなく手放すのだと本事情が書かれていた。ああ、ここに達人がいたと私は思った。

真似したい、でもできない。だって読み返したい本なんていくらでもあるし、仕事の資料はまた使うかもしれない。何より積ん読の本もあり、積み歴5年ものもあるのだ。そうして悶々とした気持ちを繰り返してはやひと月。ここにきて、彗星のごとく現れ、メスのように切れ味のよい解決策を出してくれるものと出会った。それは誰もが知る『トヨタ生産方式』メソッド。ある仕事の絡みでちらちらと読み始めたのだが、整理の項目をまんま書棚にあてはめてられる気がしたのだ。整理整頓の目標はそれぞれに役割を求めること。書棚にも役割を求める。稼働率をあげる。ムリ・ムダ・ムラは書棚にもいらない。ということでなんとなんと、書棚は増やさず、書棚改革を始めた。着ない服はタンスの肥やし。ならば、しばらく読んでない本も同じかもと新基軸を発見したのだ。今日、リリースを決めた本は30冊ほど。一度引っ張り出したのはその倍で半分はまた戻したりもした。まあ最初だからこんなもんだろう。そんなこんなで、ちょっとしばらくはトライしてみるつもりだ。

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