アルファベットも全部言えなかった私が英語で仕事ができるようになるまで④バイトで英語を使う

これまでにたくさん学んできた英語だが、一定以上自分ができるようになったと自信が持てると、どこかで使ってみたい気持ちが大きくなってくる。その機会を私はアルバイト先で得ることになった。

ブライダルのアルバイト

私はブライダルのフロントのアルバイトをしていた。仕事内容は結婚式のスケジュール管理や館内の管理、お客さんへの案内などである。
その式場は、結婚式以外でもパーティーやレストラン、カフェ、バーなどの利用ができる施設で、団体客の食事や、交流会、ビジネスのご接待、祝賀パーティーなどの対応があり、私はフロントの仕事に加えて、料理を運んだりするサービスとして入ることもあった。

式場の施設は、歴史のある和風の建物を改装しており、外国人の観光客やビジネス層のお客さんからも人気だった。そういったお客さん向けに営業や宣伝も積極的に行っているようだった。

英語で対応するチャンス

私は最初は普通にフロントの仕事をしていた。しかしある時チャンスが訪れる。
ある日、結婚式の列席で外国人のお客さんが来ていたのだが、フロント付近で困っている様子だった。声をかけると、英語のみ話せる様子だったので、自然と英語で対応して、困っていることを助けることができた。
今まで自分の勉強として取り組んできた英語だったが、実際に人の役に立ち、感謝されると、頑張ってきてよかったと、とても嬉しかった。そして、その様子を、プランナーや式場の偉い人たちが見ていたのだった。

パーティーへのアサイン

フロント以外の仕事で、パーティーでサービスに入る際も、数十人単位の外国人のお客さんの食事会やパーティーは、だんだんと増えていっていた。たまたまその日にシフトに入っていると、各テーブルを回って、英語で料理の説明をしたり、館内を案内して説明をする役割が割り振られるようになった。式場には建物の歴史やストーリーがあり、
大きな日本庭園や提供するサービスのコンセプトにもこだわりがあった。それをぜひお客さんに知ってもらい、料理だけでなく、空間やおもてなしなどを含めた、より特別な経験を提供したいというお店側の願いがあった。魅力を感じてもらえたら、口コミや知名度も上がり、集客力も上がると考えていたのだ。

私もバイト先の場所は大好きだったので、自分が案内や説明やサービスを実際にすることで、その魅力を知ってもらい、喜んでもらえたり、楽しんでもらえたりするのが嬉しかった。私のほかにも留学経験のあるバイトスタッフはいたが、自分が1番できる自信があった。話し慣れていたためうまくできたのだ。お客さんからのいろんな質問や要望に対応できた。パーティーが始まると、いろんなテーブルに呼ばれて、会場内を駆け回った。

英語の勉強への努力が報われる

外国人のお客さんだと、宗教上の理由などで、食べてはいけない食べ物があったりして、特別な配慮が必要な場合もあった。私は、間違いのないように、失礼にならないように、いつも最新の注意を払って対応した。いつもとても集中しているので、終わってからどっと疲れが出るが、やっている時間はあっという間に感じるのである。

忙しかったが、周りから頼りにされて、お客さんからも喜ばれて、とてもやりがいがあった。サービスの仕事と英語を組み合わせるという自分だからこそできる仕事だと実感できた。英語を使って仕事をする特別感や面白さを知り、また、頑張って勉強に取り組んできた結果が実を結んで、人の役に立っていることに大きなやりがいを感じた。私はだんだんと外国人のお客さんのパーティーに積極的にアサインされるようになっていった。式場のいろんなスタッフの方からも信頼してもらえ、実力が認められていったことがとても嬉しかった。

初めてご指名をもらう

ある日私はパーティーのプランナーさんから直接、サービスに入ってほしいパーティーがあると、ご指名をもらうことがあった。ある業界の経営者たちの食事会で、館内を全て貸し切り状態にしてのVIP特別対応だった。全館のスタッフが総動員で対応するが、
基本的にバイトは入らず、普段ソムリエをしている人やプランナーをしている人たちがサービスに入っていた。
食事のサービスから、館内のツアーで各部屋や場所の歴史やコンセプトを説明するようなプランが組まれていたが、私はその中でも重要な、英語での説明、館内案内、料理の詳細説明やヒアリングなどの役割を任されたのだ。

英語をちゃんと話せるのはスタッフの中でも私くらいだった。社員さんたちもVIPゲストを前に、絶対失敗できないとピリピリした雰囲気を出していた。しかし私に対しては、うまくできるように温かい言葉をかけてくださった。私は緊張と不安と、わくわくした楽しみな気持ちが入り交ざりながら、説明内容が英語で書かれた資料を、お客さんが来るまでの時間で読み込んで頭に入れた。

海外VIPゲストの到着

VIPゲストたちは海外の香水の香りを漂わせて、ただならぬオーラをまとい来館した。普段とは全く違った緊張感のある特別な空気感を存分に味わいながら、いざ始まると集中モードに入って、頭に入れた内容をスラスラとしゃべることができた。しかしこのような場面で、アドリブで対応しなければいけない状況も出てくるものだ。

アドリブ対応

ゲストが皆席につくと、シェフが全員の前で料理のこだわりについて話し始めた。これはシナリオにはないことであり、もちろんシェフは英語は話せなかったので、外国人を目の前に、日本語で話し始めたのだった。一通り説明を終えたが、聞いている人たちは
日本語なので分かっていない。そして皆が後ろにいた私に目を向けて、お客さんの1人が「じゃあ彼女が今から説明してくれるんだね」と言った。お客さんもスタッフも全員が期待のまなざしを私に向けた。いきなり大勢の前でスポットライトが当てられた感じだった。

周りからの大きな期待と、絶対に失敗できないというプレッシャーを感じる場面で、私は集中力を最大限に高めてシェフの話していた内容をよく思い出しながら、もちろん全部そのままを言うことはできないが、重要なポイントを押さえてそれっぽくシンプルに説明することができた。何とかその場を乗り切ることができたのだった。見ていた周りのスタッフたちもほっとした様子だった。無事にパーティーを終えて、ゲストにも満足して帰ってもらうことができた。

この出来事依頼、私のバイト先での知名度がいきなり高くなった。それまでは、フロントのバイトの中の1人という認識でしかなかったがそれ以降、バイト先の偉い人たちからも名前を覚えてもらえ、声をかけてもらえるようになった。自分が努力して得た能力を活かして貢献できる環境があり、感謝され、認めて尊重してくれる人たちがいる、バイト先は私にとって大切な居場所となったのだった。

60名のドイツ人団体客を担当

数多くのパーティーに入らせてもらったが、深く記憶に残った経験がもう一つある。それは60名のドイツ人の団体客の対応をしたことだ。IT関係のイベントで来日したドイツ人のビジネス系のお客さんで、宿泊しているホテルと提携して、団体でのディナーパーティーを提供するというものだった。ドイツ人だが、皆英語は話せるとのことだった。私はプランナーさんから、入らないかと声をかけてもらった。

その日は結婚式も多数あり、フロントとして早朝からシフトに入っていた。
ディナーパーティーは夜なので長時間労働になるが、私は両方とも逃したくなかったので朝から夕方までは、結婚式のフロントで夕方から夜はディナーパーティーに入ることにした。他のスタッフが準備を進める中、私はプランナーさんの運転する車に乗り込み、ホテルへとお客さんを迎えに行った。グローバルな一大イベントがあったのか、ホテルのロビーは各国からの大勢の人でにぎわって異国の雰囲気を作り出していた。

プランナーさんはお客さんの中でも幹事さんを車に乗せて会場へと向かい、私は別で用意していた大型の観光バスに団体のお客さんたちを誘導して会場まで連れて行った。初めてバスガイド席に座った。これから始まるパーティーに、わくわくしてその特別感を味わった。

ひたすら充実感と終えた後の達成感

パーティーは、プランナーと幹事さんと進行や諸注意、要望などを確認しながら進めていく。最初に幹事さんに挨拶をしに行ったとき、私が他のプランナーや社員さんと比べても圧倒的に若かったからか、「君もチームの一員なんだね」と軽く言われた。パーティーが始まると、私はいつものように集中力を高めて、上記の仕事に加えて、いろんなお客さんの要望に応えるべく会場内を駆け回った。いつも通り忙しかったが、役に立てている実感があり、嬉しい、楽しいという気持ちが大きかった。

パーティーを終えた際、最後に幹事さんから「君のおかげで楽しむことができた。ありがとう」と握手を求められた。結局その日は最後の後片付けと次の日の準備まで入ることとなり、勤務時間は史上最長の16時間だった。終わってからどっと疲れが出てヘロヘロになっていたが、それを上回るやりがいと達成感が得られた。

体は疲れているのに、夜寝ようとベッドに入っても、頭は興奮状態でなかなか寝付けなかったほどだ。この経験は、英語で外国人を相手に仕事ができるようになったこと、そして無事成功させたという大きな自信につながった。
今でも深く思い出に残っている。

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