アルファベットも全部言えなかった私が英語で仕事ができるようになるまで⑦完 大きなチャンス、やり切る

国内のビジネスが担当分野だが、私が入っているプロジェクトの業務でも、ちらほらと英語を使う機会が出てくるようになった。海外のシステムを購入して社内に導入することとなり、契約書や説明資料が英語だったりしたのだ。もちろん専門的な内容になるので、翻訳ツールなども活用したが、内容を和訳してチーム内で共有するような仕事もあった。

大きなチャンスを得る

しかし、そこからさらに大きなチャンスが訪れる。メンバーとして携わっていたプロジェクトに関して、海外の拠点のトップたちに概要を説明して連携や協力を求める場面が出てきた。そして、そこで英語で説明するという大役を私に任せてもらうことになったのだ。私はいつも英語やグローバルをアピールしていたため、いつからか英語のができる人として周りからも認識してもらえるようになってきていた。もともと国内ビジネスを担当する分野であったため、その部署で英語を話せるのは私一人だったのだ。

私と上司とその上の上司とその他関係する幹部社員と、海外拠点のトップの人たちが参加するすごい会議の大役である。最初は資料を英訳して説明するとだけ聞いていたが、そこから質疑応答の通訳をすることになり、さらには会議自体のファシリテーターまですることになった。社会人1年目の秋の出来事である。私は英語で仕事がしたい、自分にはそれができると確かにアピールしていたが、まさかいきなりこんなに大きな役割をもらうとは思っていなかったため、恐れおののいていた。

対応の手順

まずは日本語で作成された概要の説明資料を読み込んで、内容を理解し、日本語の時点で一通りを説明できるようにした。そのあとで資料を英訳して英語での説明を考え、文章に起こしていった。英訳すると意味が変わってしまいそうな表現や言語的な理由で訳すのが困難な時など、ニュアンスの詳細を常に上司に確認し、細部まで調整を重ねた。
作った資料や説明の内容は、隣の部署の英語ができる先輩方にレビューしてもらい、アドバイスをもらって修正を繰り返した。

説明の台本を作り、さすがに丸暗記でやるのは不可能だが、パワーポイントの資料を見せて、どの部分について話しているのかマウスを動かしながら説明ができるように、何度も準備や練習を行った。

やるしかない

資料を英訳したり、説明を考えたりする作業は、かなり難易度が高く、毎日とても頭をひねった。得意な英語を活かして仕事ができることに喜びや面白さ、充実感があったが、大変さも同じくらいあり、毎日ヘロヘロだった。本番が近づくほど緊張やプレッシャーはどんどん増していった。絶対に失敗できないという不安と恐怖で眠れなかったし早朝に目が覚めて号泣することもあった。自分がどこまでできて、どこからができないのかを明確にして、はっきり言えばよかったのだろうが、社会人経験の浅い私は、そういった断るということすらまだ知らなかったのだ。いつからか睡眠不足もあって緊張性の頭痛になっていた。

当日を迎える

普段は基本、毎日在宅勤務なのだが、当日は何かあった時に対応できるように、会議の参加メンバーはオフィスに集まって大きなモニターの前に並んで座って行うことになった。ただでさえ緊張で意識が飛びそうな状態なのだが、上司たちは直前に別の打ち合わせがあったので、接続作業は私一人ですることとなり、ギリギリになって上司たちが入ってくるというバタバタとしたスタートとなった。

説明自体はたくさん練習してきただけあって、最初から最後までスムーズに行うことができた。海外拠点の参加者はインド人だったので、質疑応答では、慣れないインドのアクセントのある英語を聞いて、向こうの言っていることを訳してこっちに伝え、こっちでいうことを向こうに伝えるという通訳をした。このパートに関しては、事前に準備することができず、その場で考えて行わなければならず、かなり難易度が高かった。途中通信が途切れて音が聞こえなくなるというハプニングも発生したが、何とか大きな失敗をすることもなく無事にやり切ったと思う。

集中しすぎたあとの負荷

諸々の対応で自分の中でこれ以上ないくらい集中力を最大限に高めてやっていた。そのせいで終わってから神経が高ぶってしまいオフィスの蛍光灯の光や、人の話し声、自分に向けられる視線などが、鋭く体に突き刺さるような感覚に襲われ、その場にいることができなかった。自分の出来がどうだったのか、過度に周囲の評価を気にして、周りの人の顔が見れなくなってしまった。クラクラして気分が悪かったので、暗くて人のいない狭い場所でしゃがみ込んで少し休憩した。時間が経つにつれてだんだん体が回復していくのが分かった。

自分なりにその時できる全力を出し切って取り組んだ。しかしそれが上司たちの期待レベルに達していたのか、会議の目的はちゃんと果たせたのか、伝え方は大丈夫だったか、認識の違いが生じたりしていなかったか、終わった後も結構気にしてしまった。
次の日、その打ち合わせに関して、上司の何気ない言葉で、私の心は限界に達した。その日の午後は仕事を続けることができず寝込んでしまった。この1カ月ほど、準備に追われて、緊張のためあまりちゃんと眠れていなかった。ここにきてどっと疲れが出た。

上司からの温かい言葉

毎週提出していた業務報告書に、今回の一連の対応について、感じていることや評価を気にして不安になっていることなどをそのまま書いて打ち明けた。すると上司の上の上司からフィードバックとして「非常によくやった」「あまり思いつめたりせず、自分で自分を褒めてあげることも大切だ」という温かいコメントをいただいた。それを読んだ瞬間、私の全身に入っていた力が一気に抜けて緊張感が緩み、いろんなもの全てから解放されて、やっと心が軽くなった感じがした。冷たく冷えていた体にやっとまた熱が戻ってきて、生きた心地が返ってきた。

目標達成!やり切った

かなりの大きな、責任のある仕事だった。でもきっとあの場にいたほかでもない自分こそができる仕事だった気がする。やっと胸を張って自分はやりきったと思えるようになった。私は長年目標にしていた「英語で仕事をする」ということに対してひと段階を達成したのだった。

私の旅はまだ続く

この出来事以降は、英語を使う業務はあまりなくなった。プロジェクトの実務で様々な業務を任せてもらえるようになりそちらで充実感が得られていた。会社全体としてグローバルに力を入れているので、今後も希望すればきっとそういった業務を担当する機会は得られると思う。英語は仕事でつかえるレベルに達したと分かったので、今はひたすらに業務スキルと経験値を高めることに注力している。日本語の環境でうまくできていると自信が持てるようになったら、あとはそれを英語に応用すればよいのだ。私は自分で納得がいくその時になったら、また大きな挑戦をしたいと思い、今は目の前の業務に取り組む日々を送っている。

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