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春に紛れる


春風が眠る夜に、泣かないようにと抱きしめる。
地元の桜が咲く頃、この街の桜は、所々に青を潜めていた。鮮やかに移り変わっていく足元の景色に心をときめかせる四月。
地元を離れ、この街で生活を始めて早半年が経つ。染めたての髪を、花を愛でるように撫でてくれた彼と、ふたりで季節を巡る日々。
何年経っても好きになれない夏が、今年は少しだけ待ち遠しい。きっと彼は、夏の暑さも味方にしてキラキラと輝くだろう。
ああ、つくづく実感する。
「これが恋。」
不自由の多いこの世界で、想像もつかないほど幸せな生活を送る。この幸福がいつまでも続くのなら、嫌いな雷にはもちろん耐えるし、苦手な揚げ物も喜んで作るよ。
これから段々と寝苦しい夜が増えていくだろう。
そんな夜が来たら、眠れるまで君と歌っていたい。

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