1000年後の君へ


夜空を見上げれば無数の星
あの地平線を辿ればいくつもの街
音を追いかけ速度があがる足並み
水のように滴る感情の可能性

全ての出来事に価値を見出さなきゃいけないし
積み上げた経験の中で成長しなければならない
明日は何が起きるか分からないこの世界で
後悔がないようにと思いながら
無駄に過ごす一日の先には何があるのだろうか

指定難病を患っているあの子は
誰かが笑っている姿を見るのが自分の幸せだと信じ
自分が愛されることは諦めている

あの子にとっての幸せの方法は本当にそれだけなのか
私が贈る幸せはあの子にとってなんの価値があるのか

あの子は言ったよ
「君の病気は治るでしょ、僕と違うんだよ」
私はその時なんと言うべきだったのだろう
そう考える思考を追い越し
何も言ってはいけない気がして黙りこくった

ただ、あの子をひとりぼっちにすることだけは
出来なかったし、そうしたくなかった
長くはない寿命の中であの子の人生に私が現れた
その時点で、私はあの子に何かが出来るはず

こんな事を言っても、あの子にとって
ただのお節介で綺麗事にしか過ぎないのだと思う

試される私の本当の気持ち
言葉で伝わらないなら行動するしかない

あの子の長くはない寿命の中で
私と出会ったことが一番ではなくとも
何番目かに幸せだと思ってもらえるように

私には
守れなかった笑顔がある
叶えることの出来なかった約束がある
大事な人に涙の雨を降らせたこともある
不毛な恋に惑わされ周りを見放したことも

「生きる」
という行為は全てが綺麗なものではない
それぞれの正義と勇気がこの世を創っていて
思考の波を泳いでその存在を強くさせている

風のささやき、雨水の戯れ
海のような恋心、葉が落ちる瞬間と足音
桜の笑い声に、雪の冷たさと孤独

命を絶ったあの子が見た世界は
どんな景色でどんな音がしたんだろう

「死ぬ」
という行為を止めるのは無責任で、止めないのは薄情で
何が正しいのかなんて分からなかったから

でも後悔してるんだよ
いくつもの理由で君の死を肯定も否定もしなかったこと
ひとつのわがままを言って、君が呆れるくらい長い時間をかけて未来の話をして実行すれば良かったと

あの子もあの子もあの子も君も
私はみんなを救いたかったしそれが私の正義だった
今更遅いのかもしれないよね
みんながもがき苦しんだ世界は
今を生きる私たちの生活に未だに存在し続けているよ

私は文章を書くことをやめないよ
君が生きたこの世界に何も残さずして死ぬなんて
悔しいじゃないか
守りたいと思った人たちをただ苦しめたこの世に
私が復讐してやりたいんだよ

神からして私は反逆者になるだろうね
でも、君の正義になれるなら喜んで悪者になろう

私が生きた証はこうやって残されていくし
この証の中に君が生きた証も残せるように
止まらないと決めたんだよ

君を追いかけた
夏も終わって、少しだけ開いた窓から流れ込む
冷気は色が着くと白に染って雪になるだろう
落ちた雪が木に付着して桜が咲いていくんだろう

そうやって少しずつ歳を重ねていくと思うよ
全てを抱きしめて、1000年後に再会しようね

君が、「ひとりぼっちにならなかった」
と笑っているこの先が存在することを信じて。

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