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memory no.2


遊覧船は、小さな海を切り裂いて進んで行く。

200足らずの人を乗せたこの船。なんだか、どこへでも進み逃げれる気がして、清々しく顔を出して笑ってやった。

この船を遠くから見ていた頃は、大きな海に佇む遊覧船を別世界のものだと思っていて、こんな気持ちになれるのならはやくから覚悟や素性を脱ぎ捨ててなにも持たずに飛び乗れば良かったと後悔した。

その世界はたったの50分で終わってしまうのに。それは遊覧船に乗る前から分かっていた決まりごと。


大都会とは言わないこの都


路地を入ったところ、小さな古着屋さん。

1930年代イギリスの男性たちを連想させる整えられた髪型で黄色のシャツを着た店主さんと愛犬のジャムちゃんが出迎えてくれた。

明日がどうなるかも分からないこの世界で、純粋に今を生きている私たちと店主さんの間には、絶望より一番遠い未来の話が意気揚々と飛び交っていた。

作家になりたいという私の話を笑わずに聴いてくれた。
休職中で辛いさなかに居る友達にやめちゃえと言ってくれた。
日常に滞在するモヤモヤとしこり、ぴったりくっついて離してくれない憂鬱、それらが存在しない優しさの空間。

忘れたくない一日になった。
そのお店で買った古い絵本のタイトルは、「What will i be」

取り残された残暑の上で眠る秋空の星

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