情報銀行用グラフイメージ

情報銀行はデータコントロールを個人の手に取り戻せるのか?

世間の関心を集めている「情報銀行」。喧伝されているような機能が発揮できるのか、前回記事で考察してみた。

前回記事「情報銀行は本当にワークするのか」

前回記事要約
・「情報銀行」について、あたかも十分なデータが既に揃っているような前提で書かれていることも多いが、巨大な情報を保有しているGAFAなどにとってはデータを提供するインセンティブはなく、データを集めるハードルは高い
・情報を活用する立場からは、データの質と量の担保、またビジネスに役立つデータであることが必要
・スキームとして成り立つためには、データを活用しようとしている「ビジネス・プロジェクト・案件」を起点にして、その目的に役立つデータを確保する、という観点から仕組みを組み立てることが必要

今回は、情報銀行構想の目的の一つである「個人のデータ管理・コントロール」の実現性を確認しつつ、情報銀行の陥りがちな姿と「データ活用」を主眼としたあるべき姿を考察してみたい。

<目次>
・データをどうやって集めるか
・個人がデータをコントロールできるようになるのか
・より良い社会・生活を目指すデータ活用

データをどうやって集めるか

前回記事のとおり、AmazonやGoogleなど巨大なデータを保有し活用している事業者からすれば、それがビジネス・収益につながるデータであればあるほど、外部提供などせずにデータを囲い込んでいく、自分だけがそのデータの恩恵を享ける戦略に向かう、というのが自然で、よほどの対価などインセンティブがなければデータを提供するとは考えにくく、情報銀行が十分なデータを集めるハードルは結構高い。

その解決策として注目される手法の一つが、GAFAなどの利用者個人からIDとパスワードを受け取り、金融関係で一時期流行った「アカウント・アグリゲーション」のように、Amazonの購買情報などユーザーが照会・取得できるようになっているデータを「スクレイピング」して集める、というやり方である。利用者に成り代わって取得するので、情報保有者の許可を得る必要もないし、情報保有者がデータ提供のための開発や作業をする必要もなく、そこそこ広範囲のデータが取れる、という点で画期的である。
が、しかし、これも「ユーザーが照会できる仕組みが既にあるデータ」の範囲に限られ、例えば購入情報は取得できても、閲覧・照会しただけの商品情報は取得できない、など限定的であることには変わりない。

更には、PCやスマホに特別なアプリを仕込んで、そのPCやスマホのログを全て入手していく、ようなことも技術的には可能であろうが、これではPC・スマホ上の個人の行動が全てフォロー・監視されることになり、個人の抵抗感は強いだろう。また、そもそも、そのPC・スマホの外で行われるオフラインの生活行動や、個人の頭の中にある趣味嗜好・考えなどは取得できない。

このような背景から、これまでのところ設立・試行開始がリリースされているような「情報銀行」では、靴に仕込んだセンサーでの歩数や歩き方情報の取得、キャンペーンサイトを兼ねるようなスキームでキャンペーン参加情報を収集など、極めて多いデータが蓄積されている「銀行」というイメージとは離れた、特定分野のデータを地道に集めていく、というようなスキームが多いようである。
結局は、いろいろな生活での行動や興味関心、趣味嗜好などについて、その行動を記録したり、入力してもらったりして地道に蓄積していくのが近道かもしれないのである。案外、「情報銀行」とは銘打っていない、みずほとソフトバンクが合弁で設立したローン会社(J.Score)あたりのほうが多彩なデータが集まっている可能性もある。

<閑話休題>
中国のアリババなどは大量のデータを集めていて世界の中でも優位、という見方がある。14億人もの国民のデータ、しかも属性・購買・移動・決済などありとあらゆる行動にかかわるデータを集めているので、あながち嘘ではない。
しかし、これは中国の中だけの「ガラパゴス・データ」ではないだろうか。
他の国では同じような広範囲のデータを集めることができるわけではないので、同様のスキームを中国以外の各国に展開できるわけではない。
また、中国国民のデータ分析結果を、他国での戦略展開やマーケティングにそのまま使えるか、というとそうではない。当たり前だが、個人のビヘイビア・行動パターン、趣味嗜好は、中国国民とその他の国では異なる。「鉄骨」などのように、同じものが使えるわけではないのだ。
中国でのデータ収集・活用スキーム、またデータ分析結果は、中国の中だけで有効と考えたほうがいい。

個人がデータをコントロールできるようになるのか

大量の有用なデータを保有するGAFAなどから、情報銀行がデータを集めることも容易ではないが、仮にデータの提供を受けることができたとして、それによって個人がデータをコントロールできるようになるのだろうか。

端的に言えば、そうはならないだろう、というのが筆者の見立てである。

■元のデータが抹消されたり、管理できるようになるわけではない
データを提供したからといって、元々情報を保有している事業体はそのデータを自社のシステムから抹消するわけではなく、引き続き自社のビジネスにはフル活用するだろう。この点では、現在となんら変わりない。元々の情報保有者のデータ活用について、個人がコントロールできるようになるわけではないのだ。

仮に、個人の請求によってデータ抹消が義務付けられるような法令等の整備進んだとしても、実際にどの程度のユーザーが抹消を請求するのだろうか。そのサービス事業者を利用することを止める(例えば、Amazonを退会して二度と使わない)のでなければ、実態的にはレアケースではないだろうか。Amazonのページで購入履歴を確認しようにも、データが抹消されていたら照会できなくて不便だし、また購入履歴や照会履歴に基づくレコメンデーションは多少邪魔くさいときもあるが、結構気づきも多いのだ。

■情報銀行が新たな搾取者に?!
情報銀行のスキームでは、元の情報保有者から、情報銀行を経由して、データが情報活用者に渡ってそこで使われる。つまり、そのデータは二重に使われる、ということである。

どの事業体にデータを渡すか、について、個人がコントロールできるようにすることが想定されているが、渡った先でどんな分析やアクションに活用されるのか、隅々までコントロールできるようになるかどうか、はそれぞれの情報銀行や情報活用者の運営によるところが大きく、未知数と言えるだろう。

そもそもの「どの事業体にデータを渡すのか」についても、個別に許可を求めるタイプのみでなく、「信託型」として情報銀行が個人に個別の承諾を得ることなく運用するタイプも想定されており、運営の容易さゆえに将来的にはこのタイプが主流となる可能性も高いのではないか、と考えられる。

また、情報銀行が、保有するデータを媒介者として「そのままデータとして渡す」というやり方のほかに、情報銀行そのものがデータの整理・分析を行い、付加価値をつけて情報活用者にデータを売り込んでいくやり方も考えられる。(例えば、情報活用者が自前で分析することなく、そのまま使えるようなターゲティングデータとして渡す)

ときに、極めて大雑把ではあるが、情報銀行の収益構造は、
収益=情報活用者からの収入-(情報提供者への支払い+個人への支払い+その他コスト)
ということになろう。

こう考えると、収益を目的としないNPOならともかく、収益事業であれば、魅力ある情報となるように整理・分析してなるべく高い値段でデータを売り込み、一方で個人への支払いは抑制して収益の極大化を目指すことになるのではないだろうか、そこで大きく儲かる可能性があるからこそ数多のスタートアップが参入を検討しているのではないだろうか。

場合によっては、個人への支払い・還元は現金ではなく、利用店舗に制限のあるポイント(例えば、情報銀行を運営する事業体のグループ企業で通用するポイント)であったり、ひどいケースでは「最適なレコメンデーションを得られることが個人のメリット」であるとして、現金どころかポイントなども提供しない、ということまで考え得る。

こうして見ていくと、情報銀行は個人に貢献するServantというよりは、むしろ第二のGAFA、ややエキセントリックな表現となるが、もしGAFAが集めたデータを活用して儲けることで個人を搾取している、という言い方をするのであれば、情報銀行は第二の搾取者となる可能性も出てくる。
GAFAが自らのビジネスで活用しきれていないデータの可能性を、第二の搾取者である情報銀行が顕在化させて、そこから産まれる収益を独占する、というような構図である。

このように、
・元の情報保有者であるGAFA等などでデータは消えず引き続き活用され、
・情報銀行に渡ったデータも(信託型の場合)個人のコントロールは限定的で、
・そのデータを活用した収益は個人にはあまり入ってこない
となると、「データの管理を個人の手に取り戻す」というのは掛け声だけになり、それを標榜しつつ情報銀行は儲け第一主義に走る、という結果になる恐れもあるのではないだろうか。

より良い社会・生活を目指すデータ活用

「コントロール」を主眼とするのであれば、なるべく個人の手の内にデータを置き、共有・連結などせずに箱に入れて保管しておくようなイメージがベターであろう。一方、「活用」を狙いとするのであれば、個人特定情報や機微情報には留意しつつも、なるべく広く共有・連結してビッグデータとして分析していくことが望まれる。
この両者を同時に高い水準で満たすのは容易ではないのである。

ここまで見てきたように、情報銀行構想を「データの管理・コントロールを個人の手に」という目的でワークさせるのは正直難しいのではないか、と考えられる。

では、情報銀行構想は、意味のない、マイナス面ばかりの構想か、というとそうではない。
「データをフル活用」していく、という観点は、デジタル化・IOT・5Gが浸透・進展するこれからの社会では必須である。GAFAなど情報保有者が見出せていない領域へのデータ活用、なかんずく、より良い社会に向けた取り組み、生活水準・クオリティライフの追及、幸せ感の増大などに役立つ「データ活用」は是非とも推進したいところであるし、そのために情報銀行構想をフル活用していくべきである。
(アイディアベースで例をあげると、移動データを活用した駅や道路の利便性向上やバリアフリー化、購買データなどを活用した食品ロスや無駄・廃棄の少ない社会、健康診断や医療データを活用した予防的な生活・行動の提案やツール開発など)

データのポテンシャルを引き出して、公共・社会福祉の向上や個人の生活向上に如何に役立てることができるか、こうした方向性を実現していくためには、データ分析のみでなく、その先の施策・事業・行動などが連動していくことが肝要であろう。

必ずしも短期的に事業者収益が確保できにくい領域もあるかもしれないが、だからこそ、政府の旗振りを活かし、NPOやソーシャル系のスタートアップの活躍、満足度・幸せ感がより高い社会の実現向けたアクションのなかに「情報銀行」構想を位置付けていくべきではないだろうか。

「大事なものを預かって、盗られないように保管・管理してくれる」というような「銀行」よりも、「情報活用推進事業者」や「データ活用アクセラレーター」のような名称がふさわしいかもしれない。

■まとめ
・情報銀行が十分なデータを集めるのは必ずしも容易ではない
・「個人が自らのデータを管理・コントロールできるようにする」ということを情報銀行によって実現するのはハードルが高い
・情報銀行は、ともすれば第二のGAFAとして自らの収益を第一にデータを活用していく存在になる可能性もある
・より良い社会・生活を実現していくための「データフル活用」が望ましく、そのために情報銀行構想を推進していくべき


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