食の歳時記:皐月 ドイツの五月の旬(しゅん)の食材とは?

 五月をドイツ語で、男性名詞der Maiという。ドイツ語の唱歌にもある通り、「いとうるわしき月」が五月であり、庭や野原には雑草が色々な色の花を一斉に付ける。「春たけなわ」といった感じであるが、日本よりはドイツは緯度が高いので、日本の「春」よりは、若干時期がずれるという訳である。その分、「春」が一気に訪れて、過ぎ去っていくという感じも、また、否めない。

 お祭り好きは、4月30日の「魔女の夜」を寝ないで過ごし、5月1日の零時を迎える。この日が「Maifest五月祭」であり、村々の中心地に立ててある「Maibaumマイ・バウム:五月の木」、つまり「メイポール」の回りを、人々は踊りながら、5月に「なだれ込む」。これを、ドイツ語で、Tanz in den Mai:タンツ イン デン マイという。「5月中」という時には、im Maiとim(in + demの省略形)を使うのであるが、4月から5月に入るという「動き」を表現する時には、in den Maiと男性名詞に付く定冠詞derの、「~を」に当たる目的格denを使う。

 この夜を明かしてのパーティーには、もちろん、アルコールが付きものである。それが、Maibowleマイ・ボーレという「五月ポンチ酒」である。これについては、筆者の、21年4月30日に投稿した、「森師匠Waldmeister ヴァルト・マイスター」を読まれたい。

 さて、5月というと色々と旬(しゅん)の食材がある。まず、Scholleショレという、北海産のヨーロッパツノガレイがある。このカレイの一種で、5月に北海で漁獲されたものをMaischolleマイ・ショレと呼び、とりわけ、北ドイツでは季節の魚料理として珍重される。北海沿岸にある魚専門のレストランでは、一定の値段でMaischolleを食べ放題で提供するレストランがある程である。(因みに、北海は乱獲で、捕れる魚の種類と量が減っており、Scholleも同様で、漁獲高が制限されている。ゆえに、食べる時は、是非よく味わって食べたいものである。)

 また、この頃になると地元の農家が出荷する、露地栽培によるイチゴ(Erdbeere:エアト・べーrレ「地の液果」)が、週市に出回ってくる。最近は、ハウス栽培とグローバル化で、イチゴというと、一年中買えてしまって、果物としての季節感が薄れているが、やはり、週市で地元の農家が出している屋台で買って、そのまま口に頬張るイチゴの美味しさは格別である。この点で、筆者に懐かしく思い出される、イチゴ体験は、スウェーデンはストックホルムの週市で、ある年の8月半ば(!)に買って食べたイチゴの甘さであった。(日本での「桜前線」ならぬ、南ヨーロッパから北ヨーロッパに掛けての「イチゴ出荷前線」なるものが、言おうと思えば、言えるかもしれない。)

 北ドイツではそれ程ではないが、既に4月から始まり、6月24日まで食べられる、「春の野菜」の「王」といわれるのが、アスパラガスである。日本では、緑色のものが一般的であるが、ドイツで「Spargel:シュパーゲル」というと、まずは白色で、地中に埋まっている間に収穫されたものが好まれる。長さは、優に30cm程もあり、太さは色々であるが、出来れば、太い方のもの(2㎝以上)を食したい。緑色のアスパラガスは、炒めることもあるが、白色の太いアスパラガスは、20分から30分ほど、円周は小さいが、背の高い、専用の深鍋で茹でる。深鍋に少量のバターと砂糖を入れて茹でるのがコツである。付け合わせは、茹でた新ジャガイモが、クラシックで、これでメイン・ディッシュとなる。

 では、このうるわしき月に丁度ドイツを旅行中で、Maischolleと白Spargelを一度に食べたい時にはどうすればよいか。その時には、Maischolleは、メインディッシュにしかできないので、白Spargelを使ったポタージュスープをお勧めする。Maischolleには、ホップの効いた辛口のピルスナーも合うが、スープが白Spargelを使ったものなので、前菜とメインディッシュを統一して、Spargelに合う白のドイツ・ワインとして、Gutedel:グート・エーデル(「よくて、高貴」)に舌鼓を打ちたい。Gutedelは、日本では、フランス語名の「シャスラ」で通っているようであるが、軽い飲み口で、酸味の少ない、すっきりした白ワインである。

 白Spargelのポタージュ・スープ、Maischolleのメインディッシュと来れば、デザートはもちろん、旬の食材に合わせて、ホイップクリームをたっぷり掛けたイチゴと行きたいものである。これで、皐月の月の旬の食材を使ったコースが一つ出来上がった勘定となる。  

 それでは、今回の投稿の最後は、次の言葉で〆よう: 「Guten Appetit!グーテン アペティート!」直訳すれば、「よき食欲を!」となるが、日本的な文脈で言えば、「たくさん召し上がれ!」というところであろうか。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?