「大」都市 Großstadt(グrロース・シュタット)

 世界にどれだけの百万都市があるか、数えてはいないが、各国別に言って、その数が多いのが、ウィキペディアによると、中国の94都市、インドの46都市である。日本は、12都市であるのに比較すると、ドイツには四つの百万都市がある。つまり、日本の3分の1である。このこと自体が、ドイツは、日本に較べて、都市部への人口密集度が低いことを表している。

 2020年の人口調査によると、ドイツの四つの百万都市と言うと、北ドイツのハンザ自由都市ハンブルク(約185万人)、南ドイツ・バイエルン州の州都ミュンヘン(約150万人)、西部ドイツの、大聖堂で有名な司教都市ケルン(約105万人)、そして、首都ベルリン(Berlinは、「ベアリーン」と発音したいところ)である。ベアリーンは、その人口約365万人を以って、ヨーロッパ「大陸」で最も大きい百万都市である。(ロシアは、ヨーロッパではないし、イギリスはヨーロッパ大陸には属さない。)因みに、横浜は、人口数が約380万人で、ベアリーンは、日本で言うと、ほぼ横浜の格の大都市ということになる。

 さて、何を以って「大都市」と定義をするかと言うと、もちろん、当該の都市域に住む人口数によるのではあるが、その都市域の決め方に問題がある場合があり、さらには、広域行政化により、市町村合併がなされて、市域自体が変わるケースがある。

 ドイツでは、1887年の国際統計会議の概念規定により、人口10万人以上の都市を「Großstadtグrロース・シュタット:大都市」としている。そこで、まず、この言葉について、説明すると、この言葉は、großという形容詞(意味は「大きい」)と、die Stadtという女性名詞(意味は「町、市、都市」)が合体してできた複合名詞である。großのß字は、エスツェットと言われ、サ行の清音になり、その前の母音は、現在の表記法によれば、必ず長母音となることになっている。一方、Stadtの名詞では、stの綴り字のs字は、「シュ」と発音し、dtの綴り字はt字と理解する。複数形は、中の母音が変音し、語尾にさらに綴り字が付属する、覚えるのに「気合」が要るものである。という訳で、Städteシュテ(ー)テとなる。

 この人口数の規定から言うと、日本であれば、日本は「大都市」だらけになってしまうのであろうが、現在のドイツでは、80都市が人口10万人以上の「大」都市に当たる。そして、日本での規定では、人口50万人以上の都市が「大都市」、人口10万人以上の都市が「中都市」、人口10万人未満が「小都市」ということになっている。この日本の基準に合わせると、上述の四つの百万都市を入れて、14の都市が人口50万人以上、残りの66都市が人口10万以上の「中都市」となる計算である。

 しかし、これは概念規定の違いの問題だけではなく、生活空間を肌で感じる感覚の違いでもあると言える。例えば、筆者が一度住んだことのある、ドイツ南西部の都市Freiburg im Breisgau(フrライブルク イム ブrライスガウ;スイスにもFreiburgという同名の都市があるので、im Breisgauが付く)は、人口が2020年末で約23万人(人口数ランク33位)の都市である。歴史がある大学町であり、北ドイツのギムナジウムを卒業した若者が、勉学のために、ミュンヘンと並んで一番行きたがる都市の一つである。学生の町であるから、環境保護の意識も高く、道路は自転車通行が優先という街づくりであり、路面電車が町を縦横に結んでいる。歴史的市街地を中心に、ある市域の端から別の市域の端まで、若干時間を掛けても、自転車で行こうと思えば行ける都市の大きさを、人は自転車に乗って、身を持って体感できるのである。自分がFreiburgに住んでみて、都市づくりには、この体感こそが大事であると実感した次第である。蓋し、「都市」とは、大きければよいと言うものではないのである。

 さて、ドイツは、第二次世界大戦に敗北して、とりわけ東欧での戦前までの領土を失うことになる。そこで、現在の、東西ドイツ統合後のドイツ連邦共和国の領土を戦前の領土部分に当てはめてみると、この同じ領域に、1880年頃には、ただの10の都市が人口10万人以上の都市であったと言う。故に、この「大都市」という呼称は、それだけの価値があった訳である。

 それが、10から80都市へと「大都市」の数が増えたのであるが、人口動態という観点から見てみると、2020年現在の「大都市」人口数ランクで1位から15位までを占めている都市名が、それぞれの都市の人口数を若干増やしたり減らしたりしながらも、また、15位までのランク上の占める位置を変えながらも、1960年の人口数ランクの都市名と同じであるということも興味深い現象である。ヨーロッパとは言わなくても、ドイツでの中世以来の都市の発達が、商業経済の発達と関係があり、その地理上の発展の方向がすでに中世以来からほぼ決められていたという、都市の発達の歴史の重みが、そこに感じられる。教会と市庁舎を中心に市場と街並みができ、これらを城塞が囲んでできたヨーロッパ中世都市の原像が底には横たわっているように思える。

 ドイツは16の州(Landラント)から成り立っている。当然、連邦州には州都がある。16州の内、3州が、いわゆる「都市州」と呼ばれている州で、ベアリーン、ハンブルク、ブレーメンの3州が、いわば、特別行政区を形成している。残り13州が、いわゆる「領域州」と呼ばれており、一つの州都の例外を除いて、12の州都は、もちろん、人口数ランクの80位以内に入っている。

 その一つの例外というのが、北ドイツのバルト海沿岸の州、Mecklenburg-Vorpomernメクレンブルク=フォアポメrルン州の州都Schwerinシュヴェrリーン市である。人口数ランク85位の、この都市の人口数は、2020年末現在で95.609人で、「大都市」まであと4.391人足りない「中都市」である。ドイツでは、2万人以上10万人未満をこのように規定しているのである。さらに、「小都市」とは、5千人以上2万人以下の「都市」を指し、5千人以下の町を「Landstadtラント・シュタット:田舎都市」という。(Landstadtの「Land」は、ここでは、「州」の意味ではなく、都市部に対する農村部という文脈での「Land」である。)

 とりわけ、この「中都市」が、それぞれの地域での、州よりより小さな政治単位となるKreisクrライスを構成する中核都市となる。次回の投稿では、このKreisについて述べようと思う。

 最後に一言:1990年代以降、世界的に生活環境調査を行ない、住みよいとされる都市にランキング付けをする傾向がある。ランキングの名称には、「生活環境の良い」、「定住意欲度」、「住民の幸福度」、「住民満足度」などと、日本語ではあるようであるが、ドイツ語では、これを、lebenswertレーベンス・ヴェアトという。lebenが「生きる、生活する」を、wertが「価値のある」を意味するので、「住む価値がある」、「住みがいのある」とでも訳せようか。アンケート調査は、調査基準の設定やどこが調査の主催者かなど、気を付けたいところが多々あるので、あまり信用が置けないないが、要するには、商店街、食べ物屋、運動場や公園、自分の趣味のクラブ・ハウスに自転車で行ける場所が、一番のlebenswertな「都(みやこ)」であると思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?