聖ニコラウス [2] St. Nikolaus(ザンクト・ニコラオス)[2]

 前回の、2023年12月11日の投稿の同名の記事では、St. Nikolausなる聖人の存在が、ドイツ社会において、どんなものであるかを説明した。

 まず、クリスマス・プレゼントをサンタクロースが配って歩くというイメージは、北アメリカ文化圏からのものであり、元々は、北アメリカに17世紀に入植したオランダ人達がヨーロッパから北アメリカに伝えたものであること。ドイツでは、同じ日の12月24日にクリスマス・プレゼントを配るのは、生まれて間もない「幼子のキリスト」になっていること。ドイツ語圏にも「サンタ・クロース」なるものが存在するが、それは、ザンクト・ニコラオスという、子供の守護聖人であり、この守護聖人が、自分の命日に当たる12月6日を迎える夜中に子供達にお菓子や果物、或いは木の実などを、靴下や靴の中に、或いは、玄関の前に置いておいたブーツの中に入れておいてくれることなどを前回には書いた。

 そして、東西キリスト教教会で等しく人気のある、この聖人の名前を採って、ドイツ語圏には、いくつもの「St.Nikolaus」という名前が付いた町が存在しており、その一つ、南西ドイツの州Saarlandザールラントにある、St.Nikolausの町では、その地名を上手く利用して、聖ニコラオスの「奇蹟」を全世界に向けて「発信」しているところまで、前回の投稿で述べたので、今回はその「発信」の仕方についてより詳しく書こうと思う。

 ザールラント州の州都は、Saarbrückenザールブrリュッケンといい、ザールラント州の南部、フランスとの国境に近い場所に位置している。このザールブrリュッケン市に対応する形で、その周辺の市町村を統合することで、ザールブrリュッケン広域行政区画が2008年に組織され、この広域行政区画内の西側、ザールブrリュッケン市から10kmほど離れた、フランスとの国境に直接接する所に、Großrosselnグrロースrロッセルンという町がある。この町は、さらに、六つの町内区域に分かれており、その一つが、我々のSt.Nikolausなのである。

 St.Nikolausは、1974年までは、それ自体で自立した村であった。ここでも日本と同様に、行政の広域化の波が押し寄せた訳であるが、この村は、この地域でも最も古い村で、既に13世紀に文献に登場し、ここにあった修道院付属の小教会St.Nikolausを訪れるためにたくさんの巡礼者達がここに立ち寄ったと言う。

 1966年12月に初めてのNikolauspostamtニコラオス・ポスト・アムト、つまり、ニコラウス郵便局が設置され、二万通以上もの、聖ニコラオス宛の手紙に村の有志達が応答の手紙を書き送ったと言う。翌年の67年からは、聖ニコラオス用の特別記念切手も発行され、応答の手紙にこの記念切手が貼られ、12月6日の日付の特別のニコラオス・スタンプが押されて、「聖ニコラオスからの手紙」が、黄色のポストに投函された。

 これまで、恐らくは日本も含まれているであろうが、83ヵ国からSt.Nikolausに手紙が届いたと言う。最近では、ジョージアとボスニア・ヘルツェゴビナからの手紙が新しく加わったが、たとえば、パナマやエクアドルからの手紙が未だに届いていないと言う。

 約850人が住む、この町内地区から、約165人の有志が参加して、「St.Nikolaus祭実行委員会」を構成し、約45人のヴォランティア達が、手分けして、今は約三万通以上にまで増えた手紙への応答に当たると言う。例えば、中国から来た手紙は、すぐにスマホで写真を撮り、機械翻訳させて、その内容が大体分かると、八通りに作ってあるサンプルから適宜対応する内容のものを取り出してきて、これに個人的なメッセージを手書きして、答えの手紙を、12月6日に各地に届くように、12月3日にできるだけまとめて投函することになっている。手紙の用紙、封筒、そして、切手は、すべてドイツ郵便局がその費用を負ってくれることになっている。

 応答の手紙をまとめて出すことになる12月3日に、Nikolaus広場にはその前日からイルミネーションが点けられており、この広場で特設郵便局が開設されるセレモニーが執り行われる。これがまた同時に、応答の手紙の第一陣の「出発式」にもなる。聖ニコラオスの命日とその前日となる、5日と6日は、特設郵便局は9時から18時まで開局されており、特別のスタンプを押してくれる。また、それぞれ、午後3時からは、Nikolaus広場に置かれたNikolausマーケットが開き、クリスマス用の買い物ができたりする。両日の午後4時、5時、6時には、子供達の守護聖人St.Nikolausの祭であるから、子供達にプレゼントが入った袋が配られる。5日には、午後4時半に一度だけ聖ニコラオスが、例の、お供を連れて馬車に乗って、町内を練り歩く。

 7日以降の平日には、特設郵便局は、午後4時半から二時間だけ開局されており、こうして、クリスマス・イヴの日まで特設郵便局が設置されているが、その二日前の冬至に当たる22日には夕方6時半から広場で大焚火を焚いて、これから、日々一日と日中の時間が長くなることを祝うのである。

 24日のクリスマス・イヴには、特設郵便局は、午前中の10時から12時までの開局で、この日のための特別のスタンプも用意してある。そして、この日を以って、聖ニコラオスとのお別れ会が催され、この日の夕方から「登場する」ことになる「幼子キリスト」へとバトンがタッチされるという具合である。

 南西ドイツにある、小さな町内区St.Nikolausから、このようにして世界中に聖ニコラオスの「奇蹟」が発信され、世界中とつながっていることを考えると、何か心温まるものを感じるのは、筆者だけではないであろう。

 今年は、もうすでに時期が過ぎてしまってはいるが、来年の12月6日に向けて、日本の子供達も、St.Nikolaus宛に一通の手紙を書いてみてはいかがであろうか。住所は、Nikolausplatz、66351 St. Nikolaus である。Nikolausplatzニコラオスプラッツとは、「ニコラオス広場」という意味で、地名の前の、五桁の数字66351は、ドイツの郵便番号で、St.Nikolausにだけしか通用しない郵便番号である。宛先は、もちろん、聖ニコラオスで、「An den Nikolaus」と書くとよい。最初の「An den」が「~への宛先」という意味である。これを一行目に、二行目を「Nikolausplatz」、三行目を「66351 St. Nikolaus」とし、四行目に英語で「Germany」とすれば、手紙の表書きは完成する。忘れずに、自分の住所も書くこと。日本の住所は、ローマ字書きとなるが、国名の「Japan」(ドイツ語読みで「ヤーパン」)も忘れないように。中の手紙には、自分で作った詩を書いたり、それに印象的な絵、例えば、日本の風景を背景とし、そこにプレゼントを持ってやって来た聖ニコラオスを描いてみたりしてはいかがであろうか。但し、サンタクロースではないので、白い髭のやさしそうなお爺さんに、きちんと司教用の帽子を被せ、司教用の杖を持たせることをどうぞ忘れずに...

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