見出し画像

「週休3日」で経済成長する方法

 自民党内部で週休三日が議論されているようです。民間企業や公務員の労働者に週休3日がとれる環境を整備し、子育てや介護、大学院での学業、副業などに充てる時間を増やすという名目です。

 これに関しては私は賛成です。しかし私は自民党案ではおそらくうまくいかないと考えますし、公共政策としてマクロでやるならもっといい方法があるだろうと思います。

 そうした思いもあり調べていたところ、ポストケインジアンの一人であるカレツキーのモデルを働き方改革に応用させて論じた研究ノートを金沢星稜大学の山本英司氏が出していたのでご紹介しつつ、より良い週休3日制について考えていこうと思います。

既存の週休2日制度を維持しつつ、希望者が週休3日を確保できるよう政府に促す試案をまとめたことが14日、分かった。民間企業への導入を後押しし、公務員にも広げていきたい考えだ(産経新聞より)

ケインズも提唱した"ワークシェアリング"

 今回自民党が提唱したような労働者1人当たりの労働時間を削る政策は「ワークシェアリング」政策と呼ばれます。過去20年にわたり高失業率に悩まされてきた主にヨーロッパにおいて全体の雇用を増やすため目指した政策でした。ちなみに、この政策はケインズも考えていました。(Keynes[1936]Ch.22.V)

 しかし、労働時間を減らすといってもそれは単純ではありません。いくつかのパターンがあり、それによっては有効需要の減少、ひいては日本経済の衰退につながる危険性すらあるのです。

経営者が謎に賛同する週4日勤務制

 最近週休3日導入企業の経営者の話をみることがあります。そこでよく聞くのは「週4日勤務にしたら、5日かかっていた仕事もうまく4日でできるようになった」という話です。更に「給料は時間削減分(2割)カットした」という話も。

これ、ミクロで見ると経営者からすれば美味しい話ですが、これは山本氏が「働かせ方改革」と表現する最悪のパターンです。

働く人が優秀なら優秀なほど「不況が悪化」

 ラヴォアによると、ワークシェアリングをして労働者が週4日労働になる場合、その分の給料が減ってしまうならば雇用に良い影響が無いと言います。

特に、働く人が優秀で週5日かかっていた仕事を4日で終わらせてしまったりすると、労働需要が減少してますますコロナ不況が悪化します。

適度にサボるほうがいい!?

週休3日で労働者と経営者がそれぞれ懸念する材料

 皆さんは、もし皆さんの会社が労働時間を削減すると言って来た場合、まず何を気にするでしょうか?。

・・・もちろんお給料ですよね

では経営者の皆さんが気にするのは?

・・労働生産性です。休日を増やすことで、一つの成果物を作るのに必要な労働時間(&給料)を削減することこそが目的。

山本氏はこの2点に絞り、労働時間を削減することに関して4つの場合に分けて考えました。

労働時間削減の"4つのパターン"を認識せよ

①.生産性向上しない&給料削減したパターン

 これは、従来成果を上げるまでに週5日かかっていたのならその日数は変わらず(次の週までかかる)、一方で給料は20%カットしたという場合です。これは自民党案や欧州のワークシェアリングの思想に近いものだろうと思います。この場合、もし顧客が「5日で納品しろ!」と迫ってきたら、経営者はもう一人の人員を投入しなければならず、雇用が増加します。

また、残業代をあてにしていた労働者にとっては打撃となりますが、労働者はそれと引き換えに余暇を手に入れたと解釈できます。

②生産性向上しない&給料維持のパターン(最良)

 これは労働者にとって超ハッピーな奴です。週休3日になったからといって仕事の進捗を早めることはなく、しかも給料は週休2日の時と同じということです。これでは企業はつぶれ、最悪の事態を招くのでは?と直感的に思う人は多いと思います。

しかし、私は日本全体の企業が週休3日を採用しこのパターンになるならば良いだろうと思っています。理由はあとで述べます。

③生産性向上&給料維持のパターン

 これは給料は維持したまま週休3日を実現し、労働者は週5日かかっていた仕事を業務改善により4日で実現する、というモデルです。一応、経団連の公式見解とされています(本音はわからんけど)。労働時間の減少に反比例して労働生産性 が増加し、労働生産性 の増加と比例して実質賃金率が増加するという見立てです。

企業の消費及び投資支出(実質独立支出)が一定であると仮定すると、この場合は雇用自体は増えません。

④生産性向上&給料削減のパターン

 これは経営者にとっては超ハッピーな奴です。労働者の産出する成果は一定のもとで週休3日を実現し、さらに賃金を下げる場合です。

実はこれこそマクロでは最悪のパターンです。週休3日で賃金が減少する場合、実質賃金は増えません。更に成果物をあげるまでにかかる時間が短くなったので新たに労働者を雇う理由もなく、雇用が減少します。雇用が減った分、そっくりそのまま有効需要が減少し、不況への道が始まります。

画像1

みんな嫌いな世界恐慌

「月給減らさない週休3日」がマスト

 そもそも、時間分の賃金カットはマクロではかなりの悪影響を及ぼします。現在の日本の労働者、特に若者の多くは全く貯蓄ができていません

こんな状況で賃下げを伴う週休3日を導入すると、給料が減った分、消費が減り、売上が減るのです。

 こういった動きが日本全体に広がると、従業員の給料を減らした分そっくりそのまま企業の利益が減ってしまいます。結局利益は増えません。これをカレツキは費用の逆説と述べました。ミクロでは最適だと考えて行った賃下げが、マクロではまた違った結果を生み出すわけです。

 なら給料を減らさなければ良いわけですが、他社が給料減らす場合、自社も減らさないと価格競争で負けてしまいます。週休3日制度に伴う、このような悪い意味の競争をうまないようにするためには、なんらかの規制を設けなければならないと私は考えます。

 費用の逆説は逆側にも言える話で、つまり日本全体の企業が労働時間が減った分の給料を減らさなければ、雇用の増加という結果をもたらし、有効需要の原理から経済成長にも繋がります。まず需要こそが大事であり、後から生産性の向上を伴い経済成長するという考え方です。

一方、まず労働生産性が高まる場合、時間賃金の増加を伴わなければ有効需要が減少して失業は改善されないとPKerは警告します。

雇用を支え有効需要を高めることが成長の原動力

 コロナ禍で失業が再び問題となってきています。水面下では統計の倍はいるという話もあります。しかしながら、不況下でのワークシェアリングという手法で失業問題を解決しようとするのはまず失敗するだろうというのが私の考えです。賃下げリスクのある企業任せではなく、政府自治体自ら雇用し支えるという姿勢も必要なのではないかと思います。

カレツキ・モデルに近づく現代日本

 今回の記事での検証、及び紹介した山本氏の研究ノートでは、いずれもポストケインジアンの一人であるカレツキのミクロ経済モデルが使用されています。このモデルの特徴は、雇用労働者による消費需要を最大限重視しているということです。

 現在の日本では、昔と比べて貯蓄率がどんどん減っています。お金が貯められないという見方もできますし、消費性向が大きいという見方もできます。

 消費を増やしたいのなら、経済成長させたいというのなら、まずは雇用労働者に購買力を与えることが必要だというのが私の考えです。

参考

「働き方改革」へのカレツキ・モデルの応用*  山本英司 - 金沢星稜大学






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?