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(42)レンズ1本を完全解剖する・後編

(41)レンズを解剖する・前編」からつづく


 下の(図-A)も(図-B)も、前回すでに取り上げて説明をしたものだが、今回の解説を読んでもらう時に「どの部分を解剖しているのか」がわかりやすいように再度、ここに取り上げておく。

(図-A)
(図-B)

 (図-A)は、レンズの解剖をおこなっている「M.ZUIKO DIGITAL ED 12~40mmF2.8 PRO」ズームレンズの外観と、各操作部などの名称を示している。
 (図-B)は、9群14枚構成の12~40mmズームレンズのカットモデルである。赤文字の①~⑭は使用レンズの位置などを示してしている。①ー②④ー⑤などハイフン連結したものは貼り合わせレンズ部である。青文字のユニット①~ユニット⑤はレンズ鏡枠部に一体固定された部分。AF時やズーミング時にはユニット部が移動する(移動しないものもあるが)。

10.距離エンコーダをはずす

(21)ー(22)

(21)(22)
 外装ユニットには、ファンクション(L-Fn)ボタン(矢印)と、MF時にピント位置を記憶しておくための距離エンコーダが一体となった薄いフレキシブル基板がある。それを取り外す。通常、こうした距離エンコーダはパターン図化された面上をブラシ接点でなぞって距離情報を検知するものが多い。12~40mmレンズではそれよりも数倍も正確に距離を読み取れるエンコーダを使っている。

11.これが距離エンコーダ

(23)ー(24)

(23)(24)
 こうした高い精度の距離エンコーダを使うことで、たとえばMFで撮影した後にAFに切り替えてAF撮影を続けていたのち、再びMFに切り替えても先ほどのMF時のピント位置にまで瞬時に戻ってくれる。MF時の〝可変値距離〟をレンズが憶えているというわけだ。エンコーダとは機械的な移動量や方向、角度などをセンサーで検出して、その情報を電気信号として出力する電子部品のこと。なお、12~40mmレンズはピントリングを前後スライドするだけでAF/MFのワンタッチ切り替えができる機構になっている。

12.内装カバーをはずす

(25)ー(26)

(25)(26)
 12~40mmレンズはレンズ外装部のズームリングやピントリングに金属を使っているが、内部ユニットの枠や、レンズ固定枠などはプラスチック製が多い。他のメーカーでは金属のレンズ固定枠を使っているところもあるが、OMデジタルでは固定枠などには樹脂材を使うようにしているという。軽量化、低コスト化のためもあるが、金属枠よりも複雑な形状に仕上げることができ、射出成型技術を工夫することで極めて精密な枠を安定的に作り出せるようになったからだという。

13.レンズ固定枠から第1レンズユニットをはずす

(27)ー(28)

(27)
 メインのレンズ固定枠からレンズの「ユニット①写真・左」と「ユニット②写真・右」をはずす。 「ユニット②」はズーミングしたときにレンズ外鏡筒の中を前後移動する。(図-B)を参照。
(28)
 「ユニット①」。レンズユニットが前後移動するときに枠の外側部隙間から水やホコリが入り込まないように、レンズ名が刻印された飾りリング(前リングカバー、(図-A)を参照)の内側にも防水用特殊ゴムが埋め込まれている。防水ゴムリングの材質や形状、鏡筒外枠の塗料なども徹底的に吟味して選んでいるという。

14.レンズ群①ー②をはずす

(29)ー(30)

(29)(30)
 レンズ「ユニット①」から貼り合わせレンズ部(①ー②)を取り外す。(図-B)を参照。①ー②レンズ群はレンズ最前面にあり、落としたりぶつけたりして傷などダメージを受けやすいレンズ。修理依頼も多い。そのため容易に取り外せ、調整がしやすいように設計されている。
 ここにも光軸合わせのための小さく薄い調整ワッシャ(調整シム)(矢印)が使用されていて、最適な厚みのワッシャを選んでレンズ部を固定する。外周部にも防水ゴムが巻かれている。

15.レンズマウント側からユニット⑤をはずす

(31)ー(32)

(31)
 次にメインレンズ固定枠の後部側(マウント側)から、貼り合わせレンズ群(⑬ー⑭)の「ユニット⑤」を取りはずす。このレンズユニットは5つのユニットの中でただ1カ所だけの固定ユニット。(図-B)を参照。
(32)
 「ユニット⑤」はズーミングやフォーカシング時にもまったく動かず固定されたままとなる。このレンズの取付け部にもまた、光軸と調芯のための調整ワッシャ(3箇所)が使用されている(矢印)。

16.レンズユニット②と、絞りユニットをはずす

(33)ー(34)

(33)
 メインレンズ固定枠の前部側(レンズ先端側)から「ユニット②」を取りはずす。ユニット前部には遮光枠や枠を固定するためのリング状のバネがある。「ユニット②」の4枚レンズ(③④⑤⑥)はレンズユニット枠に接着固定されている。(図-B)を参照。
(34)
 同時にメインレンズ固定枠から絞りユニット部を取りはずす。

17.電磁式絞りユニットをはずす

(35)ー(36)

(35)
 絞りユニット内には絞り機構と、レンズ枠に接着固定された4枚のレンズ(⑦⑧⑨⑩)で「ユニット③」を構成している。(図-B)を参照。絞り羽根を開閉するためのステッピングモーター(小さな銀色の円筒)が見える。
(36)
 絞り羽根の開閉制御はステッピングモーターによる電磁絞り方式を採用している。電磁式絞り制御式はモーターの制御アルゴリズムの難しさや、高速連写での連動スピードに制限を受ける欠点はあるものの(現在は大幅に改良されているが)、なによりもカメラボディ側とのメカ連携機構が必要なくレンズを小型化簡略化できるメリットがある。

18.絞りユニットを解剖する

(37)ー(38)

(37)
 絞り羽根の駆動部分に超小型の「戻りバネ」を組み込んでいる。羽根の開閉をスムーズに高速連動するようにして電磁式絞り機構の〝欠点〟を改善している。指先に乗っているのがそのバネ(矢印)。これを見るといつも、絞りユニットの部組みのときの〝手間〟を考えて感心してしまう。
(38)
 「戻りバネ」を採用することで開放絞り値/最小絞り値での連写スピードの制限を受けることもなく、正確で安定した絞り連動をするという。絞り羽根はポリエステル製で、7枚羽根構成の円形絞り。

19.レンズユニット③を取りはずす

(39)ー(40)

(39)(40)
 手に持っているのは絞りユニット部内のレンズ4枚で構成された「ユニット③」。レンズ⑨⑩は貼り合わせ。レンズは貼り合わせることで色収差を効率よく補正したり、レンズをより小型化できるメリットがある。(図-B)を参照。

20.AFユニットを解剖する

(41)ー(42)

(41)
 フォーカシング(AF)「ユニット④」の2枚レンズ(⑪⑫)は小型薄型レンズを貼り合わせたもの。(図-B)を参照。高速で正確に作動させるためAFレンズ群はできるだけ小型で軽量に設計しなければならない。駆動源に2個の強力磁石を利用したボイスコイルモーター(VCM)を使っている。
(42)
 AFユニット部を分解。ユニットの固定枠は精密射出成型によるプラスチックでできている。画面の左端の上にAFレンズ、その下にはフレキと一体になったのが磁気センサー(距離エンコーダの一種)。右隣りにあるのが強力マグネット(2個)。

21.5個のレンズユニットを並べる

(43)

(43)
 分解を終えた5つの「レンズユニット」各種。各レンズは厳密に調芯しながら組み込んだあとに、ユニットの枠に接着固定れさる。そのためこれ以上に分解しようとすると枠を壊してしまうことになる。OM-1ボディと12~40mmレンズのカットモデル、その下に5つのレンズユニットを並べた。併せて(図-B)を参照してもらうとわかりやすい(並び順が左右逆転しているが)。

22.レンズ解剖を終えた部品のすべて

(44)

(44)
 解剖を終えた「M.ZUIKO DIGITAL ED 12~40mmF2.8 PRO」のレンズ構成パーツ類。レンズフードやレンズキャップを除き、電子基板を1つと数えるなど分解限界の部品の点数は約200点にもなる。マウント以外は、他のレンズとの共通部品はほとんどない。95%以上が12~40mmレンズのための専用部品である。ここまで分解してしまうと元通りにするのは、調芯精度を確保するためにも不可能。モッタイナイことをしてしまった。上の(図-44)をクリックすると拡大画像になるので細部までご覧いただける。

【レンズの解剖を終えて】

 レンズ徹底解剖の様子を眺めていて、交換レンズがこれほどまでに多くの精密な部品で仕上がっていることにあらためて感服させられた。12~40mmはレンズ内に手ぶれ補正機構を内蔵していないが、そうしたレンズであれば、さらにAFユニット並みの複雑な機構が必要となる。

 いや、レンズの複雑さや部品の数の多さはレンズ性能にとってそれほど重要なことではない。大切なのは「精度」である。わずかなガタツキも避けなければならない部分は完全固定して動かないように、可動する部分は滑らかで高速に動くようにしなければならない。
 "こすれ部分"にはミクロン単位の隙間を設け、材質や塗装剤にも工夫しながら設計され、そのうえで組み込まれた光学レンズの「芯」がぴたり一致するように仕上げなければならない。

 高い描写性能、高精度なAF、優れた操作性と応答性、小型化軽量化、防塵防滴、耐久性などなどの難しい要求をクリアーしているのが「いいレンズ」の条件となるのだろう。

追加情報というか補足説明を少し・・・


 くどくて申し訳ないが、M.ZUIKO DIGITAL ED 12~40mmF2.8 PROの防塵防滴について補足説明をしておきたい。

 12~40mmに限らずOMシステムの「Proシリーズ」のレンズは〝徹底した〟防塵防滴対策が施されている。「レンズの解剖」を見てもらっていて、防塵防滴のためのゴムリングがレンズ鏡筒のあちこちにあったのにお気づきだったと思う。おもに鏡筒などの接合面からの塵や水滴の浸入を防ぐためだが、レンズ可動部、たとえばズーミングしたときに前群鏡筒が前後するが、その外側鏡筒部との接面には特殊な形状をしたゴムリングが使用されているのだ。

(図-a)

 (図-a)は12~40mmレンズの断面を2分割したイラスト図。上部が12mmにレンズを縮めたとき、下部が40mm側にレンズを伸ばしたときの状態だ。ズーミングすることで12mm側と40mm側に伸縮するわけだが、そのとき接面の隙間から細かな塵や水滴が浸入しないようにゴムリングが使われている。
 しかし防塵防滴を徹底すればするほど、レンズ鏡筒がスムーズに動作しなくなる。接面がゴムで強く押されるし、レンズ内部の空気圧の影響などで操作感が悪くなる。そこで考えら得たのがゴムリングを特殊形状にして防塵防滴効果を保ちつつ、滑らかなズーミング感が得られるようにしたわけだ(空気圧調整については後述)。

 上の図ーaで、赤枠で囲った部分、その中の上部にあるのが特殊形状をしたゴムリング(赤色)だ。鏡筒の接面に「舌」のように細く伸びた部分が伸縮する側のレンズ鏡筒の上部にピタリと覆うようになっている。レンズ鏡筒が伸縮すると、それにつれて「舌」のゴム部分が前後に折れ曲がる。そうすることで外部からの塵や水の侵入を防ぐ、と同時に、ズーミングしたときに抵抗が少なく滑らかな操作感も得られるという構造になっている。

(図-b)

 (図-b)は、12~40mmレンズに使用されている防塵防滴のためのゴムリングの一部である。すべてのゴムリングが〝特別な形状〟をしているのだが、ズーム可動部の接面に使用されているゴムリングは手前側の薄茶色をしたものだ。

(図-c)

 (図-c)は、OMシステムのホームページ、12~40mmレンズの解説からキャプチャしたもの。
 「(41)レンズ1本を完全解剖する・前編」の写真(15)ー(16)をご覧になっていただきたいのだが、レンズ鏡枠中央部あたりのズームリング外周部、その内側に「空気抜き穴」がある。その裏部には空気は通すが水滴は侵入させない特殊素材(ゴアテックスのようなもの)が使用されている構造の様子をイラスト図で説明している。つまり、このような複雑な構造にしているのは、塵や水滴のレンズ内への侵入を徹底的に防ぎつつ、空気圧によるズーミング時の操作感を損なわないようにしているからである。

 OMシステムのレンズだけでなく他のメーカーも似たような対策をしているのだろう。しかし、OMシステムのカメラもレンズも仕様表に防塵防滴性能の保護等級数値をはっきりと表示している(Proシリーズ)。他の多くのメーカーでは防塵防滴仕様を謳っていても保護等級数値を明記しているところは調べたところ見あたらなかった。OMシステムはそれだけ防塵防滴については徹底した対策を施し自信も持っているのだろう。
 なお、以上の防塵防滴仕様の説明は旧12~40mm「I型」のほうで、マイナーチェンジされた現行の「II型」では防塵防滴仕様は改良されもっと強化されているようだ。

 防塵防滴の仕様などについては、ここ『いいレンズってなんだ?』の中「(15) ⑩防塵・防滴の話」も参考にされるといいだろう。

 以上、くどい蛇足的追加情報でありました。


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