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防塵・防滴の話 (15)

「レンズ仕様表の読み方」編シリーズ、その第15回は「防塵・防滴」の表記とその内容などについて。

最近のレンズ交換式カメラもレンズも防塵・防滴対策が施された製品が多くなってきた。一部のメーカーでは仕様表やカタログなどにそうした機能を備えていることを謳っている。
 しかし「どれくらい」のホコリや水に耐えられるのか、どのような基準をクリアすれば、防塵・防滴の性能を備えている、と言えるのだろうか。そのへんを探っていきたい。

防塵・防滴

 「防塵・防滴仕様」のレンズやカメラは、微細なゴミやホコリ(塵)や雨や水(滴)がレンズ内に入り込まないようにゴム材などを使って、塵や水の侵入を防ぐ対策が施されている。そうした防塵・防滴の機構を備えた交換レンズでは仕様表やカタログ、ホームページの製品紹介ページに記載し解説しているメーカーもある。

 では、どのような基準で防塵や防滴効果があると公表しているのだろうか。

 防塵・防滴のそれぞれの性能は、国際的な規格(IP規格)に即したテスト方法を決め、「保護等級」としてグレードが決められている。

 防塵性能には、「保護性能なし(IP0)」から「粉塵などの侵入が完全に保護されているもの(IP6)」まで7等級がある。
 防水性能のほうは、「水の侵入に対して保護性能なし(IP0)」から「水中でも使用が可能なもの(IP8)」まで9等級ある。

IEC/JIS規格による防塵・防滴・防水性能の保護等級の規格表、
それぞれの等級は定まったテスト方法に合格する必要がある

 しかし多くのメーカーは、ただ「防塵・防滴の効果あり」と謳っているだけで具体的な数値などを記載しているメーカーは多くない。

 そうした中で、たとえばOMシステムの「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II」は、仕様表で防塵・防滴性能のレベルを「IP53」とはっきりと記載している。

 「IP53」というのは、「5」が防塵等級で「IP5」をあらわし「レンズの正常な作動に支障を及ぼすような粉塵が内部に侵入しない」レベルであることを意味する。「3」のほうは防滴等級で「IP3」をあらわし「垂直または左右方向からの降雨で有害な影響を受けない」レベルであることを意味している。

この12-40mmレンズの防滴性能「等級IP3」とは、「20センチの高さで60度の範囲から、
1分間に10リットルの水滴を10分間、放水して影響を受けない」というテストに合格したもの

 OMシステムの防塵・防滴仕様のレンズ(やカメラ)では「IP等級」を記載しているが、他の多くのメーカーでは「防塵・防滴性能を備えている」とアピールしていても、仕様表にその記載がないばかりか、レンズ解説ページにもIP等級の表記そのものを曖昧なままにしているところを多くみかける。

 防塵・防滴仕様を謳っている交換レンズは(あくまで私の推測、想像だが)、防塵性能が「IP5」程度で防滴性能は「IP1~IP2 」程度ではないだろうか。

 メーカーに問い合わせても教えてもらえない。その理由は(当たり前だけど)交換レンズだけがどれだけ防塵・防滴の性能を誇っても、組み合わせるカメラボディのほうがそれに見合った性能を備えていないことも多く、総合的な防塵・防滴の性能を具体的に言えないためだろう。

 もしカメラボディとレンズも同じぐらいの防塵・防滴の性能を備えているとすれば、通常の雨ぐらいであれば多少濡れたところで(10分~20分程度なら)ほとんど支障はないと思われる(私の経験上での話で、メーカーが保証するものではない、念のため)。

 雨水などで濡れたカメラボディもレンズも、撮影が一段落すればできるだけ早くタオルなどで拭いておくこと、帰宅したらカメラボディとレンズのぞれぞれのキャップを外して風通しのよい場所などに置いておくことをおすすめする。

 ただ、ここで注意しておくべきことは、防塵・防滴対策が施されたといっても経年変化などにより材料劣化も発生してくる。カメラボディやレンズをぶつけたりして、わずかな隙間がでてしまいそこから塵や水が侵入してくることもある、などは覚悟しておくことだ。

 防塵・防滴の性能を謳っているがIP規格(保護等級レベル)の記載のないメーカーでは、製品解説ページなどには「防塵・防滴の構造になっているが、ほこりや水滴の浸入を完全に防ぐものではない」との但し書きを付け加えているし、組み合わせて仕様するカメラボディの防塵・防滴の性能に左右されるという意味のことも追記されている。
 つまり、交換レンズの場合はレンズ単体でハイレベルな防塵・防滴の性能を備えていても、カメラボディがそれに見合った性能でなければならないというわけだ。

ニコン・ホームページのレンズ解説ページ。
「防塵・防滴に配慮した設計」であることを謳ってはいるが具体的にIP数値などを
公表していない。他のメーカーも同じような記載で、同じような但し書きが付いている
パナソニックでは仕様表に「防塵・防滴の効果あり」といった記載があるが、
欄外に同社製の防塵・防滴対応のカメラボディと組み合わせたとき、といった但し書きがある

 なお、どれだけ優れた防滴性能を備えていても「防水」の性能を備えているわけではない。防滴とは水滴が侵入するのを防げるようにしたもの、防水は外界から水が入り込まないようにしっかりとした対策が施されたものである。防滴と防水とははっきりと区別している。
 「防水」とよべるのは、IP規格で言えば「IP7~IP8」クラスの等級レベルである。

 IP7とIP8との違いを大まかに言えば、IP7レベルでは水中1~2メートルのところに数10分沈めておくことができるもの。IP8レベルになれば水中14~15メートルに沈めたままズーミングするなど作動させることができるもの、とされている。

 交換レンズでそこまでの防水性能を備えたレンズは、すでに生産終了になったがニコン・ニコノスRSやニコン1 AW1など水中カメラの交換レンズぐらいで、IP8クラスの保護性能を備えていた。しかし、現在の通常カメラ用交換レンズの中ではIP7やIP8クラスの性能を持ったレンズはない。

 交換レンズではないが、リコーイメージングの「WGー90」やOMシステムの「TOUGH TG-7」などの防塵・防水・耐衝撃・耐寒コンパクトカメラはIP8クラスの性能を備えている。

OMシステムの防塵・防滴・耐荷重・耐衝撃・耐寒の性能を備えた
コンパクトカメラ「TOUGH TG-7」の仕様表の一部

IEC規格とは、lnterNationaI ElectrotechnicaI Commissionの略で
「国際電気標準会議」で定めた規格、JIS規格はIEC規格に準拠している

 ところで、だいぶ以前のことになるが、ミノルタの堺工場で「α-9(1998年12月発売)」の組み立て工程を取材したときに、カメラの耐久検査のいくつかを見せてもらった。

 そのひとつに防塵テストがあって、それが以下の写真だが非常に微細な粉塵(アフリカから取り寄せた砂だ、と聞いた)を密閉された箱の中に入れたα-9に一定時間、上下四方から吹き付けてカメラ内に粉塵が入り込まないかどうかを検査していた。
 現在の他社の交換レンズもまた、品質保証(検査)部門が似たような厳しい粉塵や防滴検査をやっていると思われる。

ミノルタ・α-9の防塵耐久検査、検査終了後にカメラを分解して粉塵の侵入をチェックする


次回の「仕様表の読み方」シリーズは、ようやく最終回となり「手ぶれ補正」について。その後、レンズについての話は、また新しいシリーズを始める予定。


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