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レンズのはなし・1


第1回

・はじめに

 最近のデジタルカメラを眺めていると、デジタル的技術の急速な進歩にともなって個性がなくなり、どのカメラも似たり寄ったりで差異がなくなりつつある。どんどんコモディティ化しているかのようだ。
 文字通り「デジタル化」が進みAIが加わり、まるで小さな自動撮影パソコンのようになってきている。

 いっぽうレンズ(交換レンズ)のほうはといえば、描写性能は著しく良くなっている。しかし、形態も機構もスタイルも、古いフィルムカメラ時代からは少し進化したかなという程度で、相変わらずのアナログ製品である。
 デジタルカメラに比べれば、いまもってレンズのほうは限りなく個性的で、とてもデリケート、不思議な魅力もいっぱい。魔法のようなチカラも秘めている。

 たとえば今まで使っていたAレンズから、初めて手にするBレンズに交換して写してみただけで、同じカメラで写したとは思えない、そんな経験をした人もいるだろう。カメラを最新型カメラに替えたところで、とつぜん写真がうまくなったり、自分の写真が変わったなあと感じることは、ほとんどないと思う。
 でもレンズを替えて写すだけで、視線も変わり着目点も変わり写真も変わるのは確かだ。これがレンズの魔法のひとつといえるのだろう。

・ミラーレスカメラになってレンズの世界も広がる

 レンズ交換式のカメラボディは、一眼レフからミラーレスに移行するようになった。フランジバック(バックフォーカス)が大幅に短くなったことで、マウントアダプターをカメラとレンズの中間に挟み込むだけで自社製旧レンズはもちろん、他社製の非互換レンズや多種多様なオールドレンズさえも、誰でもが容易に使えるようになった。

 それまでは一部のレンズ好事家たちしか「レンズ沼」に入って楽しむことができなかった。レンズ沼も狭くて暗くて入るのも難しかった。しかしミラーレスカメラの時代になってレンズ沼は広く浅く明るくなり、誰もがいろんなレンズを手に入れて気軽に沼遊びが楽しめるようにもなった。

 というわけで、レンズを替えればどんな発見があるのか、どんな写りをするのか、いいレンズってどんなものなのか、レンズはなにをチェックして選べばいいのだろうか、などなど、そんなことをテーマにして「レンズのこと」をあらためて考えていこうと思う。

 私はレンズの専門家でも設計者でもない。光学を詳しく学んだわけではない。理科系人間でもない。ただ、長年カメラ・レンズを使い撮影するフォトグラファーをやりながら、雑誌などの取材で多くのレンズ設計者に貴重な話を聞いたり教えてもらったり、さらにレンズ製造工場も国内海外の数カ所も訪ねた。
 そして、仕事や製品記事を書くことで、あれやこれやゆうに200本を越えるレンズをいままでに実写し試している。そんな経験をもとにしつつ、できるだけ実践、実用に即した立場から写真レンズの話を進めていこうと思う。

・今後の予定

 このシリーズを続けていく、その内容はまだ漠然としているが、これから語っていきたいテーマは以下 (順不同)のようなものを予定している。

 ・いいレンズの条件とは
 ・いいレンズを入手するためのヒント
 ・レンズのスペック表を読み解く
 ・収差とレンズの味について
 ・MTF曲線図でなにがわかるのか
 ・カメラ内のデジタル補正機能
 ・レンズコーティングについて
 ・レンズ内手ぶれ補正について
 ・ぼけ味、フレア、ゴーストについて
 ・高性能レンズのための特殊光学レンズ
 ・レンズはどのように設計されるのか
 ・レンズはどのように作られるのか
 ・レンズの中身はどうなっているのか
 ・いいレンズはどのようにして選べばいいのか
 ・その他、あれこれ

 レンズの取材で得たエピソードや裏話、実用的な話などもできるだけ加えたい。
 このシリーズを続けていくうちに間違いや勘違いもあるかもしれず、その時はぜひご指摘を。
 なんだかんだで、一冊の本になるぐらいの長丁場になりそうな気もしないでもないが、気楽に気長に付き合っていただきたい。

 次回は、いいレンズって、いったいどんなレンズのことをいうのだろうか、そのへんのことから話を始めていく。

いいレンズ=描写の良いレンズで写せば、まったく同じカメラを使っていても描写印象はまったく異なる、そんな経験をいままで何度もした。


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