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映画『悪魔のシスター』~ブライアン・デ・パルマ初期の大傑作

多分30年前くらいにレンタル・ビデオでこの映画を初めて観て、かなり気に入っていました。今般、全国の劇場でデジタル・リマスター版が上映されることになったのを機に、所有していたDVDソフトで再見しましたので、感想みたいなことを書いておきたいと思います(すみません、劇場では観ていません)。
(今週はぎりぎり「ネタバレなし」の範囲で書き、来週はネタバレ部分を書きます。)(画像はデジタル・リマスター版HPより引用させていただきました。)

1.日本題名

まず、日本のタイトル『悪魔のシスター』について。

この映画は73年の映画で、74年に日本で初公開されましたが、70年代中頃に日本で公開された恐怖・スリラー映画の多くに、この「悪魔の~」という題名がつけられました。『悪魔のいけにえ』『悪魔のはらわた』『悪魔の墓場』『悪魔の植物人間』などなど。

これらの映画の原題には悪魔という単語は入っておらず、また実際のところ映画には悪魔は出てきません。恐らく73年の映画『エクソシスト』が世界的に大ヒットしたため、恐怖映画といえばオカルト→悪魔という発想だったのではないかと思います。そこで、登場人物による悪魔のような所業という意味で、「悪魔の~」というタイトルが乱発されたのではないかと思います。

『悪魔のシスター』も、原題は単に "SISTERS" であり、悪魔とはついていません。日本語で「シスター」というと、キリスト教で女性信者のことを呼ぶときの呼び方のように聞こえますが、英語では当然ながら純粋に姉妹のことを指すのが第一義です。

あえて「悪魔」「シスター」と並べて、オカルト的雰囲気を出す意図があったのかもしれませんが、この映画は宗教的なものでも、超自然的なものでもありません。むしろ、普通の現実に存在するような人たちの、愛、苦しみ、嫉妬、葛藤、めまい、逸脱。そういったものを描いているのだと思います。

日本で初公開された際の宣伝用ポスター(筆者蔵)

2.ストーリー(のさわり)

この映画、最初は恋愛映画のように始まります。

テレビ番組への出演で知り合った男女が、撮影後に夕食を共にして、恋に落ちていきます。この女性が主人公のダニエル(マーゴット・キッダー)です。夕食中に、ダニエルにつきまとう元夫のエミールを相手の男性が追い払います。しかし、ダニエルが男性とともに帰宅すると、家の外にはまたしてもエミールの姿があります。

この段階で、私達観客は、偏執狂的ストーカーとなった元夫が何か怖いことをするのではないか、そこを何とかカップルで切り抜けていくという流れかと想像します。

しかし、その期待は突然裏切られます。翌朝、ダニエルは相手の男性を突然メッタ刺しにして殺害するのです。そこにエミールが駆けつけ、事態を把握した彼は、隠蔽工作を始めます。前夜に彼が夕食を邪魔しに入ったのは、この事態を避けるためだったのかもしれないと思わせます。

左が元夫エミール。ダニエル役マーゴット・キッダーは、後にスーパーマンの恋人ロイス・レインも演じました。(画像はデジタル・リマスター版HPより)

この流れの中で、ダニエルはもともと結合双生児(「シャム双生児」という呼び方は最近は不適切なのでしょうか)で、彼女には手術で分離された姉妹ドミニクがいるということがわかってきます。別室で、ダニエルとドミニクが言い争っている声が聞こえる場面があります。それでは、男性を殺害したのは実はドミニクなのか・・・

3.小気味よい展開、強い作家性

この映画、1時間半のコンパクトな映画ですが、無駄がなく、きびきびと場面が展開していきます。冗長になりがちな場面では、2画面構成にして、緊迫感を維持します。デ・パルマ監督の手腕が冴えわたります。

殺害の場面は、やはりややグロくなりますが、シルエットなどもつかい、控えめに・・・でもないですね。包丁やメスといった刃物による切り裂きは、デ・パルマの後の『殺しのドレス』でも多用されますが、個人的にはちょっときついと感じました。

こういったタイプの度ぎつい殺人とミステリーの組み合わせは、70年前後を中心にイタリアで流行したいわゆる「ジャッロ映画」に通じるものがあり、デ・パルマもダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァといったジャッロ系のイタリア映画作家を意識していたのではないかと感じました。

また、普通の人がおかしな状況に巻き込まれ、場合によっては殺害されるという流れ、向いのアパートの住人が事件を目撃し、顛末を双眼鏡で覗く様子、殺害犯のサイコな精神状態などは、明確にヒッチコックを意識した以上に、ヒッチコックの後継者になろうとでもいう類似性があります(詳しくは、次週ネタバレ篇で)。

この、ヒッチコック+ジャッロというテイストは、デ・パルマ監督のその後の作品、前出の『殺しのドレス』('80)や、覗きをさらに意識した『ボディ・ダブル』('84)に続いていきます。これらは、デ・パルマによるヒッチジャッロ3部作とも呼べるのではないかと勝手に思っています。

これらも含めて、70年代から80年代前半くらいまでのデ・パルマの映画は、個人的趣味というのか、作家性が強く出ていて、とても魅力的だと思います。デ・パルマは、その後『アンタッチャブル』や『ミッション・インポッシブル』といった大作を撮るようになります。そこでも、大いに楽しませてくれましたが、徐々に大手資本に飼いならされ、牙を抜かれたように「まともに」なっていってしまいました。

そういう「まともな」映画を撮るようになる前の、ある意味「歪み」のようなものがあるがゆえの味わい。『悪魔のシスター』は、特にそのようなデ・パルマ監督の作家性が強く出ていて魅力的であることを改めて実感しました。趣味的なものであるがゆえに、好みは分かれるかもしれません。でも、観て後悔はしないと思います。

できれば、ヒッチコックの映画(『裏窓』と『サイコ』)を先に観ておけば完璧です。

(よろしければ、以下もどうぞ。)



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