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異業種に学ぶ テーマパークの『ファイナル』マーケティング戦略

今の世界的ウィルス感染被害下に、もっとも被害を被る業界にテーマパークがある。
いつも夢を与えてくれるテーマパークに、こちらから最大限のエールを送っていることだろう。



1.人気のテーマパーク                                      2.収益比率は日本独自!海外でもマネしたくなる                  3.テーマパークのマーケティング                             4.街頭インタビューで得た消費者心理                                 5.解決策は他業界に学べ                                      6.SNSに活用するべし集客法


1.人気のテーマパーク
この国には、東に『東京ディズニーリゾート』、西に『ユニバーサルスタジオジャパン』と超巨大な2大テーマパークが存在している。私のような昭和中盤の生まれ人間からすると、今の子どもたちは世界的なテーマパークが国内に2つも(どちらも世界のテーマパークの年間集客数のトップ5)あるなんて、まさに天国でうらやましいと思ってしまう。      

どちらのテーマパークもそれぞれ独自のブランド戦略とマーケティング戦略をとって切磋琢磨しているため、ファンにとってしっかり差別化ができており、想像を超えた企画内容と規模で、本国アメリカをしのぐほど素晴らしい体験を生んでいる。


幸いなことに若い頃仕事でテーマパークの事業戦略に長く触れる機会があり、その時期には見聞を広めるために世界中のテーマパークやアミューズメントを体験させていただいた。今回はこのテーマパークの集客マーケティングの現場から役立つ実際の体験を話したい。

 東京ディズニーランドといえば、国民のほとんどが一度は行ったことあるだろう場所だと想像するものだが、なんと私の周りのシニアなビジネスマンにはまだ一度も行ったことがないという人が結構いる。
この話しは、さすがに一度くらいは行ったことのある人でないとわかりにくい内容かもしれないが、まずは想像の上で参考にしてほしい。

2.収益比率は日本独自!海外もマネしたくなる
東京ディズニーランドが開園したまもない頃のキャンペーンコピーに、「連れていきたい人がいる!」というのがある。キャラクターとゲストの子供が抱き合うシーンのシンプルなCFの映像だったが、非常に印象に残る素敵なシーンだ。初めてパーク体験する人の反応は、連れて行ってくれたリピーターが感じる、最大の“楽しみ”でもあり“喜び”だろう。                       そしてまた誰かの笑顔を見たいから連れていきたくなる。           まるで自分が夢の王国の住人になったような気分で、案内係をつとめる。 これがディズニーランドが来園したゲストにかける魔法であるのだろう。


 東京ディズニーリゾートと呼ばれるエリアには『東京ディズニーランド(TDL)』『東京ディズニーシー(TDS)』の2つが含まれる。今やリゾート全体の年間来園者は3000万人以上にもなる。TDLだけでも年間1700万人以上もの来園客が訪れる。世界中のテーマパークの来園者数のトップ5に2つともランキングしている。


だが、それを支えるテーマパーク側も途方もない金額の投資と毎日の運営費用をかけて休まずに運営できているからこそ達成できる数字でもある。
ちなみに当時の話しだが、もしTDLにある日一人も来園客が来なかったとしても、一日運営するだけで1億数千万のコストが飛ぶそうだ。        しかも、新しいアトラクションや大型パレードを導入するのは、都心に大型商業ビルを一棟建設する以上の額がかかる。維持費も入れるとよほど高い入場者数を継続的に維持しないとペイできないらしい。

テーマパーク収益は、どんなに入場者数が多くても、入場料だけで収益はまかなえない。入場料+飲食+お土産の3つがちょうどうまくかみ合って収益を支えるのである。
売上比でみると、おおよそ入園料4割、飲食3割、物販(お土産)3割の4:3:3の比率だ。
特に世界各国のテーマパークとの大きな収益差は、このお土産を含む物販の売上から成り立っている。                        パーク内で、どのようにして飲食と買い物をしていただくかに各担当部署や取引企業が最新の技術と知恵を絞るのである。                 チュロスのようにTDLで初めて日本に紹介されたお菓子もたくさんある。


テーマパークに限らずやはり収益の基本は、ヘビーユーザーのリピート率である。TDLのリピート率は、年間2回以上来園している顧客は98%、10回以上は約60%、30回以上のヘビーユーザーの割合は約20%(12年前のオリエンタルランドの調査結果)といわれている。
その中でもっとも大切な層が、20%のヘビーユーザー層だ。首都圏に住む高頻度のファミリーユーザーである。

海外も含むより広い地域からみんなに来てほしい長期滞在型リゾートのように見えるが、実のところは地方から高い交通費宿泊費を使って、年1回来園する客を呼び続けるのはあのTDLでさえ大変なことなのである。     コンビニや飲食店におけるパレートの法則は、ここにも明確に当てはまるのである。


ヘビーリピーターの維持が重要なマーケティングターゲットとなれば、いつ行っても「新しい発見」を感じさせる努力が必要になる。         それはハードだけに頼ると難しく、ソフトをより充実させていくことが重要となる。しかも一方的に観る、聴く、食べる体験だけでなく、『参加する』という新しい体験要素を加えることが必要になる。(この参加するというマーケティングは、テーマパーク編第2弾で詳しく触れます)

ディズニー①


3.テーマパークのマーケティング
オープンしてから38年経っているTDLでさえ、どうしても来園客が伸びない時期があった。


1つ目は、大型のアトラクションやパレードの導入からしばらく経ってしまった集客の谷間の年だ。こんな年や季節こそマーケティング力の見せ所だ。他の遊園地や観光施設にも、今や驚くべき集客アイデアで危機を脱し活躍するところが出てきている。苦境こそがマーケティング力を鍛えるのである。


2つ目は、1月~3月の超寒いシーズン。                      学生の卒業を外せば、目立ったお祭りや、人気アトラクションの開始時期でもない冬の閑散期という時期である。                  寒くて外で遊んでくれる若者は、1980~90年代当時はスキーなどの冬の遊びも人気だっため、競合も多く試行錯誤を繰り返していた。


多分、どこのテーマパークも最大の課題は集客の平準化だろう。      例えば、夏休み期間にゲストが集中しても底なしに入場していただくわけにいかない。だいたい47,000人以上になると入場制限の判断を迫られる。  入りたくても入れない現象が起こる。


そんな中、あるお題が本社の企画部から出された。               それは何年も人気を支えてきたあの【エレクトリカルパレード】がその年で終わるというものだ。終わるのだから、当然新しいパレード次は【ファンテリュージョン】が始まる。
電飾技術から光ファイバー技術を使った光のパレードのリニューアルだ。
大型パレードのスタートは大体大きな広告予算を割いてキャンペーンを実施する。
その逆で、終わるものにキャンペーン予算を大きく使う企業はほとんどない。まして、キャンペーン広告投下が年度末になる場合、予算が少ない。 さらに光のパレードということは日が落ちた夜のパレードだ。        3月、4月、5月の実施といっても屋外はかなり寒い時期。よって当然パレード時間は寒さもまだまだ厳しい~。長い期間やっていたパレードなので、事業関係者は終わることがどれくらいニュースになるのか読めなかった。 そもそも夜のパレードのキャンペーンといえば通常夏休みに向けてやるのが普通ではないかと思ってしまう。


あえて気にする方があまりいないと思うが、テーマパークや遊園地に限らず、美術館の展示会、博覧会は、ミュージカルや演劇は、オープンに向けてキャンペーンの費用を最大にする。当然周年キャンペーンも大型アトラクションのオープンも、スタートを担当する広告会社や販促事業者が華やかさを享受できる。終わりを担当するのは、やはりパッとしないと言わざるを得ない。そもそも終わるイベントに費用をかけるのを見ること自体がない。


 
まず結果から言えば、TDL史上稀にみる大成功のキャンペーンになった! 10年以上たった新しさはない定番パレードで、しかも夏休みでもない寒い時期の夜のキャンペーンが、いままでのどんなキャンペーンより、記録にも記憶に残った大成功であった。                      当初は少ないキャンペーン予算で最高の結果を考えていたが、連日超満員になったため、最終日直前まで告知予算の追加が決まり、スタッフも大喜びだった。 さらに次年度からは、大小にかかわらずパーク内のショーはファイナル集客の企画が効果を生むようになり、思わぬ副産物も手にいれた。   この時のキャンペーンコピーは、「サヨナラ東京ディズニーランド エレクトリカルパレード、きっとあなたは忘れられない」。この機会に初めてTDLに訪れたゲストも大勢いたそうだ。


4.街頭インタビューで得た消費者心理
このキャンペーン戦略の裏舞台で大手広告会社の競合コンペがあったが、その準備へ向けてコンペ前に首都圏だけでなく全国で該当インタビューや直接生活者の聞き取りをやってみた。                     そこで重要なことに気づかされたのだ。


それは、TDLの認知が最高レベルに高く、同時にエレクトリカルパレードの知名度も非常に高かったが、実はまだ体験したことがない人が多かったこと、その理由が                                      『いつ行ってもやっているはずだから、急がなくてもいつか観に行けばいい』                                と考えていたからだ。一度か二度体験した方々も同様に                    『いつか友人や子供を連れてって見せてあげよう、でも今じゃない』     というものだった。
しかし、インタビューでこの方々に、                           『今度終わっちゃうとすれば、どうしますか?』と聞くと、                 『え~、マジで、困る~、なんで~』                    『本当の話ですか』と、すべての方が驚く反応だった。

この反応をそのまま利用したキャンペーンを展開。                今までパレード観た方も観たことのないような、すべてのフロート(光るパレードの山車)が一同に並んだ撮影が非常に困難なCGなしの大型ポスタ―をはじめ多くの告知活動を実施、広告物そのものも記憶に残こるものとなった。


5.解決策は他業界に学べ
このことによって私たちは、一見関連性のない業界における定番のマーケティング手法に気づいた。                              それは街に洋服を買いに行くと、閉店セールをやっているアパレルのお店をよく見かける。しかし、しばらくしてその店の前を通ると、普通に営業している。                                           アパレル業界では、本当にお店を閉店するときに使うワードではなく、売り切るためのキャンペーンワードみたいなモノなのだろう。

テーマパーク内には数多くの大小のステージショーがあり、定番であれば、どんなショーにもファンは少なからずついているもの。                    ファイナルは、スタートより集客できる! 

この発想を、テーマパークのパレードだけでなく、アトラクションやキャラクター、メニューにおける定番アイテムを終売して、メニュー改定する時に利用することで、導入時以上に記憶にも記録(業績)にも残るマーケティング戦略になるということを気づくことができた。


さらに20周年、30周年のような1年間継続するキャンペーンも『もうすぐ終了、いよいよ○○日まで!』は同様に効果的である。                     一度終わらせるときこそブランド力を上げるチャンス、長く定番で一部に圧倒的ファンのものほど効果的に働く心理だということがわかった。     そういえば、鉄道ファンも同じで、終わってしまう電車ほど、どんなローカル線でも人が集まる。                                    しかもNHKのニュースでさえ取り上げてくれる。

近年効果的にファイナル効果を利用しているイベントとして美術館の特別展示がある。                                       2017年に開催された『怖い絵展』などはその最たるもので、展示コンセプトの設定自体も非常に巧妙で、すばらしかった。                          まるで絶叫マシンやホラーアトラクションのキャンペーンをするテーマパークのコンセプトのようで、来場者層も飛躍的に広げた話題のキャンペーン告知だと思う。 

この時も、展示会が終わってしまわないかが心配になり、ファイナル告知に気を配っていた経験がある。異なる業界の消費者インサイトを利用した好例と言える。

ディズニー②

6.SNSに活用する集客方法
もし皆さんのお店で、長い間定番であったメニューや、なかなかスタート当初は人気が出なかった周年キャンペーンがあれば、ぜひトライしてみてほしい。少なくとも自信をもって発売したモノやコトは、ファイナルキャンペーンこそ話題が拡散するチャンスなのだ。


メニューを改定する前に『一部のファンの皆さま。もうすぐファイナル、これまでご愛顧ありがとうございました』とつけるだけで、関心を誘う工夫であり、現代ではSNS向けの有効なコンテンツとなるだろう。
すべての定番や人気アイテムに、話題づくりやブランド再生の可能性があるということ。
今皆さんが取り組んでいる業界から、まったく異なった業界の仕掛けに目を向けてほしい。
既存の業界にはない、成功の方程式や定石の施策が山のように眠っている可能性が高いからだ。


最後に先ほどの『さよならキャンペーン』の後日談だが、当時急いで来園されたゲストの多くが、ディズニーランドそのものが終わると思って来園した方がいたそうだ(笑)
 TVとラジオのコマーシャルで、『サヨナラ東京ディズニーランド』と『エレクトリカルパレード』の間に一拍ためを入れてナレーションを読んだため、勘違いしたのかもしれない。
本当に終わったら国民全員が来てくれるかもしれない。                  そしてその3か月後の突然リニューアルオープン!てな感じで再スタートしたら、どれだけの来園者数になるのか気になることろだ。

以上

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