見出し画像

『林檎とポラロイド』を観てきた。

その世界では不思議な流行病が蔓延している。
今まで普通に過ごしていたのに、ある日急に今までの記憶を失ってしまう。
その世界では記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延している。
その世界では記憶喪失者があふれている。
だから、記憶喪失者のためのリハビリプログラムがある。

”新しい自分”プログラム。

記憶を失うまでの自分を取り戻すことは諦めて、様々な体験を通して新しい自分になる。というプログラム。

プログラムは至ってシンプル。
送られてくるカセットテープに録音された課題にしたがって、その姿をポラロイドカメラに残す。それを繰り返していくだけ。
主人公も、新しい自分になるためにプログラムをうける一人。

美しい映画だったな。
と『林檎とポラロイド』のエンドロールを見ながらぼんやり思った。

カセットテープ、ポラロイドカメラ、ナビのない車。
現代ではないレトロな世界を、シンプルな構図、最低限のセリフで描く。
レトロでンプルな世界はどこか滑稽。

その滑稽な世界にはなんともいえない哀愁が漂っている。
登場人物は必要以上に語らない。
ただ、黙々と与えられた課題をこなし、その姿をポラロイドカメラで残す。

自転車に乗る。仮装パーティで友達を作る、ホラー映画を観る...etc.

そんな与えられた課題を疑うことなく生真面目にこなしていく人々はどこかシュール。そして物静かで哀愁を纏っている。

複雑な設定も、凝ったセリフもメッセージもない。
内容も見せ方も至ってシンプル。
シンプルな構図。最低限のセリフ。
でも、シンプルだからこそ、混じりっ気のない想いを、観ている者に真っ直ぐに伝えられる。

主人公はただ、リンゴをかじり、ポラロイド写真に映る。その繰り返し。
けれど、その繰り返しが重なるに連れて語られることのない主人公の内側があらわになる。

セリフに頼らずに世界を描き、語らずに語る。
語らないからこそ主人公が抱えていた思いが痛いほど伝わる。

そして、今日もまた飽きることなく一人部屋でリンゴを静かに食べる主人公の姿は、この滑稽で苦しい世界で記憶を持って生きていく切なさと痛み、失ったものの苦しみ、そして美しさを感じた。

美しい映画だった。物静かでどこか寂しげ。
けれど、人間らしい痛みと強い想いみたいなものを感じた。
それを僕は美しいな。と思った。

この記事が参加している募集

休日のすごし方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?