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日本産コウモリの多様性保全

ハロウィーンの時期ということで、今回はコウモリの多様性保全に関する記事です。

日本には35種類のコウモリが分布しています。日本産の哺乳類は104種なので、その30%がコウモリなのです。

コウモリの種多様性地図

コウモリ各種の分布データから種毎の分布地図を作成して、それを重ね合わせて、コウモリの種多様性地図を描きました。以下の地図から、コウモリ種数のホットスポットが把握できます。日本中央部の山岳地域から東北(岩手や秋田)、そして北海道、紀伊半島や四国にも、コウモリのホットスポットがあります。

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生物多様性を保全する場合、種数の豊かなホットスポットなど進化生態学的な重要性を指標にして、保護区を設置するのが効果的です。これはKey Biodiversity Area(KBA)アプローチと呼ばれます。しかし、種数が少なくても、希少な種(そこにしかいない種)が分布している場所も重要ですし、保全政策的に重要な生物(例えばレッドデータブックにリストされている種)が分布している地域も重要です。KBAアプローチで保全計画を検討すると、生物多様性保全上の重要な地域をカバーできないといった問題が発生します。保護区ネットワークを空間的にデザインする場合、どうすればいいのでしょうか?

保全優先地域のスコアリング

種の希少性は地理的な分布エリアで定義できます。特定の地域にしか分布しない希少種は保全上の重要種とみなされます。そのような希少種は保全上の重要種とみなされ、レッドリストに含まれているケースが多いです。さらに。日本全土を見渡した場合の面積と生物種数の関係から、種の絶滅率リスクを見積もることもできます。

このような、種毎の分布エリアや種数ー面積関係を指標にした種の絶滅リスクを考慮して、各地域の保全上の重要度を順位付けできます。これを、保全優先地域のスコアリング分析と言います(spatial prioritization)。

コウモリの分布データに、保全優先地域のスコアリング分析を適用してみました。以下の地図の赤色ほど、保全優先度の高い地域です。

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コウモリ種数が豊かな地域だけでなく、種数の少ない地域にも、コウモリの保全重要地域が数多くあることがわかります。

保全優先地域のスコアリング分析のアルゴリズム(計算法)には、大まかには2種類あります。図中のCAZとABFです。

CAZは地理的希少種の保全を最優先にした計算方法で、ABFは地理的希少種を優先すると同時に、種の絶滅リスクを最小化して生物多様性の保全効果を最大化する計算方法です。コウモリの場合、CAZとABFによって大きな違いはありませんが、保全計画の目的に応じて、CAZとABFを使い分けることになります。

愛知目標を達成するための保全計画

そして、愛知目標を達成する観点から、保護区面積を日本の17%まで拡大させる場合、どこに保護区を新設すればいいのかも判定できます。以下の地図の赤色と黄色で示した地域が、コウモリ多様性を保全する目的で、保護区を最優先で新設すべきエリアになります。

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生物多様性を保全する場合、保護区を設置するのが一般的な方法です。しかし、今までは、生物の分布が正確に把握できなかったので、効果的に保護区を配置することが困難でした。

コウモリの例で紹介したように、生物種の分布地図を正確に把握できれば、種多様性地図を用いて、保全優先地域のスコアリング分析をして、保全重要地域を一目瞭然で把握できるのです。

注)今回の記事の内容は、久保田研究室の学生・栗原健一郎さんの卒業研究を元にしています。


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