兵庫の生物多様性：地域戦略・保全利用を考える

2020年5月13日 11:56

瀬戸内海と日本海に面し、内陸には中国山地が連なり、島もあります。このような地理、地形の複雑さに関係した環境の地域性が、兵庫県の生物多様性の分布を特徴づけています。

はじめに

生物多様性の保全や利用を考える場合、どのような生き物が、どこに分布しているのかを把握することが、第一ステップになります。地域の住民の皆さんも、自分たちの周辺に、どのような生き物が暮らしているのかを知ることができれば、生物多様性への親しみや、理解も深まると思いました。このような意図から、日本の地方自治体（47都道府県）の生物多様性の特徴を可視化して、保全利用に関わる科学情報を普及させていくことにしました。

この記事では、兵庫の生物多様性の保全利用計画に関する分析結果をお知らせしていきます。新たな分析結果が出力でき次第、随時その内容も加えて、この記事自体を更新していくつもりです。また、この解説は、日本の生物多様性地図化ウエブサイト（保全カードシステム）と連動させて情報提供していきます。生物多様性の様々な地図情報（レイヤー）を、チャンネルを切り替えて閲覧できますので、以下サイトをご覧ください。

兵庫県の生物多様性を特徴づける環境条件

兵庫県は南と北をそれぞれ瀬戸内海と日本海に面し、内陸には中国山地の東端が連なっています。

県西部の鳥取県境の山地には、氷ノ山（1510m）、三室山（1358m）、鉢伏山（1221m）、妙見山（1136m）、蘇武岳（1074m）、藤無山（1139m）などが連なっています。

これらの山々からは、千種川や揖保川が南に流れ出て、瀬戸内海東部の播磨灘に注いでいます。

氷ノ山から、鉢伏山、妙見山、蘇武岳にかけての山嶺北部の集水域の支流を集めた矢田川は、北に流れて日本海に注いでいます。また、氷ノ山や鉢伏山などの山嶺東部からは、大屋川や八木川などが発して合流して円山川となって、豊岡盆地で出石川と合流して日本海に注いでいます。

県中央から東部にかけて、段ヶ峰（1103m）、千ヶ峰（1005m）、笠形山（939m）、粟鹿山（962m）、三国山（855m）などが連なっています。

県東部の京都府の境には、丹波高地の山々（東床尾山839m、御嶽793m、能勢妙見山660mなど）が連なっています。

三国山からは、市川が南へ流れ出て、西播丘陵から播磨平野をぬけて播磨灘に注いでいます。粟鹿山からは加古川が南へ流れ出て、篠山盆地をぬけてきた篠山川と合流して、播磨中部の丘陵や播磨平野をへて播磨灘に注いでいます。

県南東部には六甲山地があり、山麓には大阪平野の一端および大阪湾が広がっています。

また瀬戸内海には、淡路島、家島諸島、生島、日生諸島の一部などの島嶼もあります。

以上のような地理・地形のため、県北部は日本海側気候で雪が多く、南部は瀬戸内海側気候です。地域による環境の違いが、兵庫県の生物多様性の分布を特徴づけています。

それでは、兵庫の生物多様性（植物・動物の種数）の地図を見てみましょう。

生物多様性の可視化：種数地図

生物種の分布予測を元にして、種数を１kmスケールのメッシュごとに数え上げて、地図化した結果を以下に紹介します。赤色のメッシュは種数が多い地域です。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種数が豊かな地域は、千種川、揖保川、市川の流域とその周辺の山麓の一部、加古川流域と上流域の山地の一部、円山川や出石川の流域、矢田川の流域、六甲山地と周辺山麓の一部などです。

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土地利用の変化が日本の生物多様性に与えた影響については以下の記事をご覧ください。分析方法と日本全体の傾向がわかります。

哺乳類の種数が豊かな地域は、氷ノ山、三室山、鉢伏山などから段ヶ峰などにかけての山地、および、それらに関連する河川の上流域、六甲山地、丹波高地の山地の一部、円山川や矢田川の下流域などです。

名称未設定

鳥類の種数が豊かな地域は、瀬戸内海（播磨灘）に面した低地、播磨平野や大阪平野、淡路島の一部、家島諸島、および、千種川、揖保川、市川、加古川の流域、円山川や出石川の流域などです。

名称未設定

爬虫類の種数が豊かな地域は、播磨平野周縁の山地山麓の一部、中国山地の山麓の一部や丹波高地の山地の一部、六甲山地の一部、千種川、揖保川、市川、加古川流域との中上流域の一部、円山川や矢田川の下流域などです。

名称未設定

両生類の種数が豊かな地域は、播磨平野周縁の山地山麓の一部、中国山地の山腹から山麓にかけての一部、および中国山地から発する河川の流域の一部、六甲山地の一部などです。

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淡水魚類の種数が豊かな地域は、揖保川や市川や加古川、千種川、円山川の水系（大屋川・八木川・出石川など）、矢田川、大阪平野の水系などです。

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生物多様性の保全重要地域を特定する方法

生物多様性の保全重要地域はどこですか？と聞かれたら、多くの人は「生物の種類数が豊かな地域」と答えるかもしれません。その解答は、ある意味正しいのですが、他にも考えるポイントがあります。

生き物のレア度：希少性

例えば、生物の種数は少なくても、他の場所には存在しない、そこだけに分布する生き物（固有な生物種）がいたら、そこは、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所と言えます。

つまり、保全重要地域を特定する場合、生物の分布情報を基にして、レアな＝希少な生き物が、どれくらい分布しているのかを定量する必要があります。

保全政策上の重要生物：絶滅危惧種

また、生き物の種類によっては、絶滅が危惧されている種もいます。そのような生物はレッドリスト種に指定されて、重点的な保全施策が図られています。したがって、絶滅危惧種が分布しているかどうかも、かけがえのない場所を特定する上で考慮する必要があります。兵庫県は1995年に「兵庫の貴重な自然－兵庫県版レッドデータブック－」を作成し、その後も調査検討による改訂を繰り返して、「兵庫県版レッドリスト2017」を公開しています。

生物の機能：人間社会にとっての生物の価値（生態系サービス）

生き物は様々な機能を持っていて、私たちは生物を資源として利用し、生物多様性や生態系サービスの恩恵に浴しています。したがって、それぞれの生き物が持っている価値も、かけがえのない場所を特定する上で重要な情報になります。

ここでもう一つ問題があります。それは私たち人間社会の都合です。

地域社会の経済活動

例えば、市街地や農地のように経済活動が活発な土地区画は、兵庫県の地域社会の持続的発展のために重要なエリアです。つまり、私たち人間にとって重要な土地区画を維持しつつ、生物多様性を保全して、両者のバランスをうまく調整する必要があります。

そこで、兵庫県内の１km x １km土地区画メッシュ全ての、人口・道路密度・市街地・農地など社会経済に関するデータも整備します。

これによって、地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を避けつつ、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所はどこか？を探索することができます。

具体的には、兵庫県を１km x １kmの土地区画メッシュに分割して、それぞれのメッシュに、どれくらいレアな生き物がいるのか、どれくらい絶滅危惧種がいるのか、どれくらい価値ある生物がいるのかを定量して、場合によっては、利害関係者の要望を元に、例えば地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を考慮しつつ、生物多様性を保全・利用する上で、どのメッシュがどれくらい重要なのかを順位付けします。これは、生物多様性の空間的保全優先地域の順位付け分析と呼ばれます。

兵庫県の生物多様性の保全重要地域

維管束植物（木本・草本・シダ植物）と脊椎動物（哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類）を統合して、生き物の種ごとの希少性・レッドリストランク・有用性などを考慮して、兵庫県の生物多様性保全の重要地域を順位づけした結果が以下の地図です。

注）土地区画の社会経済的価値も組み込んだ分析結果は今後公開予定です。

兵庫県の生物多様性の保全重要地域は、千種川、揖保川、市川、加古川流域の播磨平野と周辺山腹の一部、六甲山地の一部、円山川や出石川や矢田川の流域および日本海沿岸の低地、六甲山地と周辺山麓の一部、淡路島の低地の一部などです。

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以上は植物と脊椎動物の地図情報を統合して、全生物分類群を包括して保全優先地域をスコアリングした結果でした。

次に、それぞれの生物毎に保全重要地域を見てみましょう。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、六甲山地とその周辺地域の一部、揖保川、市川、加古川流域と周辺山腹の一部、氷ノ山や三室山などの山嶺の一部、丹波高地の山腹の一部、淡路島の低地の一部などです。

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哺乳類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、六甲山地、中国山地の氷ノ山、三室山、鉢伏山、妙見山、蘇武岳などの山嶺部、段ヶ峰などの山腹や丹波高地の山地の一部、およびそれらに関連する河川の上流域などです。

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鳥類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、瀬戸内海（播磨灘）に面した低地（播磨平野や大阪平野）、日本海沿岸域、淡路島の沿岸域、家島諸島、および、千種川、揖保川、市川、加古川の流域、円山川や出石川の流域などです。

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爬虫類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、六甲山地とその周辺地域の一部、播磨平野を流れる河川（千種川、揖保川、市川、加古川）流域と周縁の山麓、淡路島、中国山地の山麓の一部や丹波高地の山地の一部、円山川や矢田川の下流域を含む日本海沿岸低地などです。

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両生類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、六甲山地の一部、播磨平野周縁の山地山麓の一部、丹波高地の山地（東床尾山など）の山腹から豊岡盆地にかけて、および、円山川や矢田川の下流域を含む日本海沿岸低地などです。兵庫県レベルで見ると、中国山地の氷ノ山や三室山などの山腹なども保全重要地域です。

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