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【#おうちで考え中】さすらいラビー・中田編『近ごろ私達は いい漢字』

「東京で考え中」がこれまで取材してきた芸人さんたちにコラムを書いてもらう連載『#おうちで考え中』。今回は1月に取材させていただいた、さすらいラビー・中田和伸さんのコラムを紹介します。外出自粛期間中の中田さんがおうちで取り組んでいることとは?


大勢の人が人生に1回あるかないかの窮地を迎える中、こうしたコラムを書く機会をいただけた。
折角ならばいっぱしの芸人として、僕が伝えられることはなんなのか、お笑いフリークの皆様に対して、何かクリティカルな、前向きになれるような金言を残してやるぞという気持ちで筆をとったんだけれども、そんな鋭さは持ち合わせていなかった。筆ではなくスマホだし、「何書いたら良いの…」と唸った5分後にはぷよぷよを始めてしまっている。
この未曾有の大パニックに対して、僕がズバリ思うところ、伝えるところは無いというか、僕が思うことはこの世のうん百万人の人が既に思っている。

もう大人と言って差し支えないけれども、浅学なのに分かったフリをして大声をあげるのがどうしても耐えられなくて(しっかりと発信している人はみんな尊敬している)、自分の意見を持つことができず、ただ大きな誤りのないよう、人様に迷惑をかけぬようジッとしている。
分からないことを開き直って「俺ってばよ、バカだからよ」とつっぱるのはある種それ以上にタチが悪いっていうのは頭ではしっかり分かっていて、であるならば僕みたいなもんでも何か発信できることがあるのでは…?でもあれこれ調べてみたって混乱が深まるばかり、そうこうしているうちに、まごまごしているうちに全て済んでくれないか…と思っている。
本田翼さんのYouTubeを見て、メロメロになる日々。僕がもっとカリスマであったならば、カリスマとしての責任でもってカリスマボイスを世の中に届けるのに。登録者数187万人のうちのちっぽけな1人だ僕は。

こうした大変な事態に対して感度が低いというのは、表現者の端くれとしてどうなんだとは思うけれども、生き延びようとする人間としては至極真っ当な感性でいられてるんじゃないかと思う(もちろん自分は罹患しないと高をくくるという意味ではない)。人と接さず、ともかくも慎ましく、自宅では大胆に生きていくという方針のもと、毎日をそこはかとなく充実させている。外向きにどうして良いか分からない時はまず家の中で凛々しく過ごすしかない。


漢字検定の勉強を始めた。1級に向けて。漢字界の山王工業。
元々「何か一個プロフィールに書けるものを身につけましょう、それも、継続できる好きなもので」という恩師山崎モータースさんの教えにのっとり、漢検の準1級を取得したのが2016年7月。ネタ作りの合間にテキストとノートを開いてただ真っ直ぐ勉強する感覚は心地良かった。何しろお笑いは正解がない(だから面白いというのはあろうが)のに対して、漢字ははっきり答えがある。めちゃめちゃ気が楽、浮き沈みがない。
ギリギリではあったけれども無事合格を掴み取って、なんというか注ぎ込んだものに対してハッキリ成果が出るのはすごく健康的、僕の中のしまじろうとコラショが手を叩いて喜んだ。

勢いそのままに1級に挑もうと思った。
意気揚々と本屋に赴いて過去問を立ち読みした時に気付いてしまった。
レベルが違い過ぎる。これまでのルールが全然通用してない。山王工業だと思って望んだ相手がUCLAだった。ドリブルもさせてもらえない。膝から崩れ落ちてしまった。
このレベルに立ち向かうべく漢字の勉強を続けていては、お笑い人間としての成長を妨げることになる。漢字にやたらめったら詳しいけれどもネタをやったら滑る、ろくに反省もしないまま「おっと、熟字訓の勉強があるのでここで」と瓶底メガネを掛けて自室にこもる。そんな奴が面白いわけない。ちょっと面白いのか?
「ネタを頑張らなきゃ仕方あるめえ」というせめてもの尖りを言い訳に不要不急の漢検から逃げることにした。漢検のことは忘れることにし、漢検の連絡先を消した。漢検の写メも消した。漢検の私物は送り返し、後日漢検に渡していた合鍵は返してもらった。

4年弱の沈黙を経て2020年4月。何のことはなくて、めちゃめちゃ時間ができたからやってみることにした。カリスマでは無かったから、ろくすっぽ思いついてない時はとりあえず浮かんだことをやる。ずっと放置していたインスタグラムを漢字勉強用のアカウントとして動かすことにした。

始めてみるとなるほど確かにレベルは段違いであるが、合格者の攻略サイトを見ながら方針を立てて見ると、やってやれないことは無い気がしてくる。
同じ漢字辞典をAmazonと楽天市場からダブって買ってしまうという、辞典に欲情する高度な変態のようなミスをしてしまったが、取り急ぎスタートを切ることはできた。

プロフィールに書いてやろうという打算的なものもあるけれども、今はとにもかくにも自粛という大義名分のもと机に向かってゴリゴリやるのが心地良い。ワクワクしてぶつかっていくものこそ、後から振り返った時にキラキラ輝いて見えるはずだ。
万にひとつ(あえてこう言わせてください)芸人として泣かず飛ばすであったとしても、最終的に漢字ジジイになって生涯を終えることはできる。


勉強してきて面白かった四字熟語を一つ紹介して終わりとさせていただく。
「唇亡歯寒」(しんぼうしかん)
密接な関係にあるものの一方が危うくなると片方も危うくなること。唇が亡くなると歯が寒くなる意から。

ピンとこない喩えに苦笑しながらしながら鉛筆を走らせる日々だ。情熱と環境。唇と歯をセットで邁進していく。

お勉強でもSwitchでもネットフリックスでもなんでも良いんだけども、皆さんの自宅が少しでもワクワクに支配されますよう。


本来であれば楽しいゴールデンウィークだったはずのこの頃。先の見えない不安やストレスでお疲れの方も多いのではないでしょうか。「東京で考え中」は読者の皆さんを微力ながらも元気づけられるよう、現在様々な企画を準備しております。5/4にはエイトブリッジさんの公開インタビュー企画を実施予定です。ご興味のある方はぜひご参加ください!(詳しくはこちら
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