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【ショートショート】「たった1つの想い」♯一つの願いを叶える者

「貴方は選ばれました。貴方の願いを一つ叶えましょう。」
 
背後から声がした。ボクはノートPCから目を離すと振り向いた。

いつからそこにいたのだろうか。人型をした白い靄が、立っている。
 
「ああ、ボクのところに来たんだ、君はー」
 
始めて見るのに、ボクはそいつを良く知っていた。なぜなら、noteのいくつもの作品にそいつは登場していたからだ。
だからだろうか。妙な親近感を持っていたのか、「君」と言ってしまった。

そいつは、さきほどの「貴方は選ばれました。貴方の願いを一つ叶えましょう。」というお決まりの言葉と共に現れ、ひとつだけ願いを聞いてはそれを叶え、そして「貴方の願いは叶えました。」というお決まりの言葉と、(その代償なのか)一つの願いを叶えられた者の記憶を持って姿を消していくのだ。 

『ああ、ボクのところに来たんだ、君はー』と言った理由は、今読み終わったばかりの説那さんの作品に書いてある。

「でも、どうしてボクだったんだい?そういえば今読んだばかりの作品には、『ある条件にあう人の願いを叶えてくれ』と頼まれていたと思うけれど、ボクはその条件に合うのかい?」
 
「なるほど、ご自身が選ばれた理由を知りたいと。それがあなたの『願い』なんですね」
「違う違う」
ボクは頭を左右に振って否定した。
「これは単に質問をしただけだ。別に答えたくないのなら答えなくていいよ。ボクの願いは他にあるから」
「じゃ、理由は答えません。願いだけ言ってください。あ、願いはひとつだけですよ」
「それもよく知ってるよ。たったひとつだけってことは」

そのとき、ボクの脳内である歌(それは「たった1つの想い」というタイト ルの歌だ。相変わらず安直な連想しかボクはできない)が再生された。

昔見たアニメのOP主題歌だった。作品自体はー原作は読んでないがー、キャストはいいのにアニメ作品自体は記憶に残るほどの出来とは思えなかったようで、内容すらロクに思い出せないが、OP主題歌はまさしく名曲と言える。当時、よほど気に入っていたのだろう。もう10年以上前の歌なのに、自然と脳内で歌が再生され始めた。

たった1つの想い貫く 難しさの中で僕は
守り抜いてみせたいのさ かけがいのないものの為に 
果たしたい約束

「たった1つの想い」

「いきなり、何を歌いだしいるんですか。それよりも早く願いを言ってくれませんか?」

人型をした白い靄は困ったように言った。表情は見えないのでわからないがきっと困った顔をしているに違います。

「今、考えているんだよ」
ボクは嘘を言った。そう、そいつが現れた時から、願いは決まっていたのだ。

僕には僕の幸せがある そう思えるだけでどれほど
この瞬間が 愛おしいほど 光を放ってゆくよ

「たった1つの想い」

脳内で再生されている曲はもう後半に入っていた。
なんだ、全部覚えているじゃないか。意外と記憶力あるなボクは。

「まだ決まらないんですか?」
少しイライラしながら、相手が催促をしてきた。
「だから考えているんだよ。もう少しで終わるから」
「終わる?」

そう、脳内で再生されている曲はもう少しで終わる。それまで待たせてもバチはあたらないだろう。

波打っている鼓動に誓うよ 燃え尽きるまで走り続けよう
生き抜いてこそ 感じられる 永遠の愛しさの中
果たしたい約束

「たった1つの想い」

終わったー。
脳内再生された曲の余韻に浸りたいとこだたが、ボクは今見ていたnoteが表示されているノートPCの画面を、相手の目の前に差し出してやった。

「ボクの願いは、noteで読みたい投稿をこれからも読めること、だ。さぁ叶えてもらおうか」
 
「それがあなたの願いですか。確かにあの人の出した条件にあなたはピッタリだ。度し難いほどに世界一、自己中心的でワガママな人間」
 
ああ、それがボクが選ばれた理由なのか。それなら納得だ。

「叶えてくれるのか?どうなんだ?」

「まぁ、いいでしょうー」

人型をした白い靄はほんの少しだけ口元を緩めて笑ったように思えた。
顔のパーツはなにも見えないのだけれど。

「貴方の願いは叶えました。」
お決まりの言葉が聞こえた。そして次の瞬間、相手は姿を消した・・・。


「・・・あれ?ボクはなぜノートPCを手にしてるんだ?」
 
記録的な暑さのためよく眠れないためか、記憶があやふやになって来てるような気がする。
ボクは首をひねりながらも、いくら考えても答えのでないことに頭を使うことを止め、ノートPCを机の上に置き、今読んだnoteの記事にコメントを打ち始めた。

「こんばんは・・・っと」


このショートショートは、刹那さんの『「一つの願い」を叶える者が出てくる短編を書いてくださる方を募集します』に乗っかって書かせていただきました^^;。


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