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【ミステリ再読】柿本人麻呂と猿丸太夫の謎『猿丸幻視行』

Hello world,はーぼです。

井沢元彦氏といえば、俳優の別所 哲也さんが「ハムの人」とCMで言われるように、『逆説の日本史』を書いてる人というイメージが強くあるような気がします(個人の感想です)。
ですが、1980年、26歳の時に『猿丸幻視行』で江戸川乱歩賞を受賞して推理文壇にデビューした時は、純粋にミステリの書き手としての比重の方が大きかったのではないかと思います。

なお、『猿丸幻視行』に対して乱歩賞選考委員の中には、『(猿丸幻視行は)梅原猛氏の説に寄りかかりすぎるきらいがある』といった意味のコメントもあったと聞きます。

では、梅原猛氏の説とはなんでしょうか。
『猿丸幻視行』を読むまで知らなかったのですが、梅原猛氏は『水底の歌』という柿本人麻呂論を書いた書籍にて、従来、認識されていた柿本人麻呂のイメージを覆す大胆な仮説をあげています。

『猿丸幻視行』で語られる以下の仮説は、井沢元彦氏のオリジナルではなく、梅原猛氏の説に基づいたものでしょう。

・人麻呂は下級役人ではなく、天皇の近くに仕える高官であった。
人麻呂は政治的な事件に関与したとされ、島に流罪され刑死した。
・人麻呂は「日本書紀」や「続日本紀」に出てくる柿本猨(さる)・
柿本佐留=猿丸大夫である。罪により「人」から「猿」へと改名された。

これらは『猿丸幻視行』の前半で紹介されています。
井沢元彦氏は、『いろは歌の作者は人麻呂である』と主張する篠原央憲氏の説も取り入れ、万葉仮名の暗号解読(この暗号は井沢元彦氏のオリジナルだと思います)や人麻呂=猿丸説の新解釈を、明治42年時点では国学院大学の学生であった、のちの民俗学者・折口信夫を探偵役に、読み解かせています。
(SF的な設定が更にあるのですが、これは梅原猛氏説とその反論を読者に提示するためや物語の結末を示すための仕掛けだと思います)

物語は、万葉仮名の暗号解読を中心に進むのですが、この解読方法が、初めて読んだ時には全く理解できませんでした。
それからかなりの年数がたった今、再読してみたのですが、やはりよくわかりません^^;。

金田一京助、山中峯太郎、果ては東条英機なども顔見世させたりするなど、暗号解読にだけページを割くのではなく、読者の興味を飽きさせない趣向も添えて、物語の舞台は東京から宇治の猿丸村へと移り、そこで万葉仮名の暗号解読・宝探し、人麻呂=猿丸のオリジナルな解釈、そして殺人事件(この殺人事件はとってつけたような感じで、不要なのではと思ってしまいますが)と、展開していきます。

万葉仮名の暗号解読はボクにはわからなかったのですが、梅原猛氏の人麻呂=猿丸説の反論に対する井沢元彦氏の再反論ともいえる新たな視点での解釈は、伝奇小説の雰囲気も漂わせ、フィクションとしての面白さも感じられました。
またある意味、現在の井沢元彦氏の原点ともいえる箇所も、かいま見えて興味深かったです。

ボクがこの作品を最初に読んだは二十歳ぐらいの時で、暗号解読の過程がまったく理解できずに読み終えてしまったのですが、それからずいぶんと経って、今なぜ再読を試みたのかというと、こちらの千世さんの紀行文がきっかけでした。

紅葉と猿から、猿丸太夫作と言われる(本当は違うかもしれませんが)『奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき』を連想し、そこから『猿丸幻視行』の再読を始めたのですが(すごく単純な思い付きです)、暗号解読の過程はやはり今回も歯が立ちませんでした。
(ちょっと専門的すぎないかとも思うのですが、それくらいの難易度でないと物語的に成立しないわけで)

ともあれ、クラシックな犯人捜しがテーマの本格ミステリーの方がボクには向いているという事実を再確認できたことを、この読書の秋の収穫にしたいと思います^^;。

ではでは。最後までお読みいただきありがとうございます。
See you next time,はーぼでした。


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