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景色

景色は、遠い。

遠くの景色を見ると、ふっと力が抜ける。


日常生活には、「遠く」が圧倒的に足りていない。

近くの相手に対面して仕事をこなし、

近づく予定に心配事を抱え、

近くのスマホに埋没する。

近い将来の目標を約束させられさえする。

近くにあるものは、隙間なく、逃げ口なく、心を圧迫する。


遠くの景色を見つめていると、
それだけで、圧迫から解放される。


遠いということ。


それは、気にしなくてもいいということ。

辿り着かなくたっていいということ。

そのままでいいということ。



それなのに


いつだって、
胸が苦しくなるほどの憧憬を秘めているのだ。




けしき  まど・みちお

けしきは
目から はなれている

はなれているから
見えて
見えているから
けしきは そこに ある

あの雲の下に つらなる
山々の けしき
Sのじをかいて 海へとはしる
川の けしき

けしきの うつくしさは
ひかるようだ
よんでいるようだ
いたいようだ

見るものから
いつも
はなれていなければならないからだ…
自分が そこに
ほんとうにたしかに あるために…

(まど・みちお 全詩集(新訂版) 2001,理論社)

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