旅館の裏側・新人仲居さんのモーニングルーティーン
この記事はナイトルーティーンから続いています。
5:30 出勤、着替え
起きてから眠い目をこすりつつ本館へ。夕方と同じように着物に着替えて髪形を整えます。朝は他の仲居さんもテンション低め、淡々と着替えていきます。
朝の新聞をお部屋分確保
うちの旅館では、朝食を食べる場所はお部屋か宴会場か選べるんですよ。食べながら新聞を読む習慣のある方って結構多いので、お部屋で食べる方には一緒に朝刊をお届けします。
シワをつけないように丁寧に持つ!(先輩から怒られた言葉)
6:00 朝食のおかずを準備
調理場へ行くと、調理台にズラッと朝食のおかずの小鉢が並べられています。大きな四角いお盆を持って、人数分だけ取り分けます。
鮎の甘露煮、なます大根、温泉卵、野菜サラダ、きんぴらごぼう…これと、これと、あれと、あ…アレがない。旅館の朝食ってちょっと副菜が多すぎやしませんか。
朝は夕食と違って、一品ずつは持っていかないので一気に食事を出してしまえばおしまい。しかし、問題はここ。お客様が起きてくれないとお部屋に入れません。
モーニングコール
旅館で起きる朝って何だかフワフワした気持ちになります(個人的に)。よく眠れる人もいれば、ぐっすり夢から覚めない人も。さ、もうご飯の時間です。朝なのでみなさんを電話で起こしていきます。
まずはお部屋食のお客様から。
リリリリ
「おはようございます~朝食のご準b…」
「はい、おはようさん!もう起きて待ってますよ~!」
年配ご夫婦の朝は早い。既に布団も片づけて準備万端…この部屋から一番先に行くことにします。
リリリリ
「おはようございます~朝食の準備に伺ってもよろしいでしょうか?」
(うわああああーーーん!)←子どもの泣き声
「はい、もしもし!いいですお願いします!!」
こちらは家族連れ。お子様がお腹空いてるとご両親も大変なので、この部屋も急ぎめで準備に向かいます。
では、次は宴会場で食べるお客様へ。
リリリリ
「おはようございます~朝食のご準備ができましたので宴会場へお越しください~」
「…はい…はい。」
大学生の4人組。今起きたなこりゃ。二度寝の可能性もあるので来なかったたらまた後で電話します。
布団片づけチームに連絡
全員起床の確認が取れたら、別で待機している布団片づけおじさん隊に連絡します。各部屋を素早く回って布団のみを片付けまくる精鋭部隊です。テーブルも出して、お部屋でご飯を食べられるようにしてくれます。
それが終わったら連絡があるので、私たちが突撃。
7:00 朝食提供開始
ここが朝の時間のハイライト、先程確保したおかず達をテーブルに並べに行きます。まずは宴会場から。
やっぱり置く場所は全て決められているので、定位置に素早く設置。着物の袖でこぼしたりしないように片手で押さえながら置いていきます。
素早く、そして美しく、おいしそうに!(?) (先輩から言われたお言葉)
漬物はここ、小鉢はこっち、ここに味噌汁が来るから、焼き魚はここ、海苔はあっち…しゅばばばば。
次はお部屋!また長い渡り廊下を通って必死に向かいます。急いでもおかずの盛り付けが崩れないように、フワッと運ぶ(謎)のがミソ。
まだ眠そうなお客様を横目に、テーブルを拭いて、懐紙を置いておかずを光の速さで(でも美しく)並べていきます。そして料理の説明も忘れずに。
合間に自分のご飯
この後はお見送りしたり掃除したり時間がないので、お客さまが食べてる間、自分も何かお腹に入れます。
食堂にはまた大鍋に味噌汁ドン、業務用炊飯ジャーに白米ドン、生卵がカゴに山盛りドン(一人1個の張り紙付き)。食べたい人は卵焼きを作りますが、朝は戦争のような忙しさなので、お皿に水と卵を割ってレンジでチンします。
ブルブルブル
腰に付けてるポケベルが鳴りました。
ゴ ハ ン オ カ ワ リ
はい、お代わりね!5分で朝食を食べ終えてまた出動。
8:00 お土産の準備
お客様がもりもり朝ごはんを食べている間、チェックアウトとお見送りの準備を始めます。宿に泊まってくださった全員に季節の手土産を用意。
そして仲居さんにお心付けをくださる方は多いのですが、それは仲居さんの物にはなりません。旅館に報告してお値段を記録しておき、お心付けの値段に応じた地元の名産品などを差し上げます。
もらったままにしないのが老舗クオリティ(旅館によります)、相手からの感謝の気持ちを上回るおもてなしの心でかぶせていくスタイル。
9:30 食器の片付け、お見送り
では、食べ終わりましたかね。お客様によっては朝食を食べてすぐ観光に行きたいからチェックアウトしてる場合もあります。しかしそんな場合でも最後は必ずお見送りに向かい、送り出すのでチェックアウト時間も全部屋把握しておかないといけません。
さらにお部屋を担当していなくても、団体ツアー客の場合は全員でお見送りをすることになっていて、どんなに忙しくてもその時は玄関に集合!
しかし走ってはダメです、どこでお客様に見られているか分かりませんからおしとやかに、でも急ぐ!!(先輩からのお言葉)
非常にムズい。ということで長い渡り廊下を競歩でズンズン向かいます。
お客様とすれ違ったら一度完全に立ち止まり、深々と挨拶。これはデフォルトで1日中やってます。
はい、玄関ではツアー客がバスに乗り始めました。下っ端仲居はその間お部屋の忘れ物チェック!絶っっっ対何かあるのでね。何らかの充電器、スマホ、ピアス、薬…バスの出発までに意地でも間に合わせるという謎の使命感!宝探しです。
お見送りの時は片手を上げて、着物のたもとをもう片方の手で持ち、皇室のように小刻みに振ります。大きく振るとおしとやかではないのです。
10:30 全体会議(正座)
完全チェックアウト時間が過ぎ、お客様は誰もいなくなりました。…しかしここで終わりではありません。従業員全員、30畳ほどの和室に集合し朝礼が始まります。
これは今でも納得いかないんですが、お客さまもいないのに20分間終始正座で三つ指ついて朝のご挨拶が暗黙のルール。お掃除のお部屋の分担、夕方チェックインする新しいお客様の情報、クレームの内容、料理内容の変更。全部大事な内容なのですが、困ったことに正座のおかげで足がしびれまくって全然頭に入ってこないんです。
最終的に、数センチ腰を浮かすことでこの場を乗り切る術が身に付きました。(怪しい)
11:00 お部屋、大浴場の掃除
朝礼が終わると、着物から作務衣に着替えてお掃除モードに入ります。旅館の趣を大切にしているのと、古い建物で傷付きやすいのでハタキでパタパタ。ダイソンの新商品とか買ってくんないかなぁって思ってました。
掃除機はもちろんかけます。昨晩の部屋飲みの盛り上がり具合によって、その日のお掃除難易度が変わってくるんですよ。まずは転がってる酒瓶、空き缶、おつまみのゴミから始まり、浴衣の回収、濡れたタオルの回収。
あっちの物をこっちに、元の位置に素早く戻していきます。テレビのリモコンはここ、お茶菓子は向きを揃えて中央、タオル掛けのハンガーはここ。
そして新しいアメニティを追加。キレイな歯ブラシ、キレイなタオル、キレイな石鹸。その後は全力で水回りの掃除。鏡は三度拭きでピカピカに、トイレは中を覗き込んで汚れのチェック。一番お客様に見られていて、クレームに繋がりやすいそうです。
これと同じ内容を3部屋分、2時間で仕上げます。もはやスポーツだと思ってやっています。
12:00 昼食
ふー、ようやく座れる。これで朝の仕事は終わりで、夕方のチェックイン時間まで中抜き休憩です。
昼食は基本的に朝と一緒+おかずが付いてます。どれどれ、今日のおかずはっと。貼り紙を読みます。
「ちくわ1人2本、ウインナー1人1本」
こんな細長いものばっかり用意すればいいと思って!ちくわ2本もいらん。まぁ無料のまかない飯なので、足りない人は寮で自分で作って食べたりしています。
ちなみに繁忙期は目が見えなくなるかと思うくらい忙しいので、曜日感覚を取り戻すため毎週日曜日はカレーです。海軍スタイル。
お昼を食べたら、1日お休みの人はこの時間から明日の夕方(新しいチェックインの時間)まで。仕事の人はまた数時間後に出勤なのでお昼寝する人が多いです。
お分かりいただけただろうか。旅館のサービス上、丸一日お休みっていうのがありません。今日の午後半休+明日の午前半休という感じで、両手離しでは喜べないような、嬉しいような。
とりあえず、仲居さんのルーティーンはこんな感じです。コメントいただければ大広間の大宴会編を投稿しようと思います。
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