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旅館の裏側・新人仲居さんのナイトルーティーン

ゲストが風呂に入っている間何をしているか

温泉旅館って聞くとどんなイメージが沸くでしょうか。ゆっくり温泉に浸かって、季節の食材をふんだんに使ったご馳走を食べて、また温泉に入って、用意されたフカフカな羽毛布団で寝る…という夢のような時間を過ごせる場所が思い浮かぶかもしれません。

しかし、その裏側ではお客様に喜んでいただくために奔走する人達がいます。接客業の頂点(個人の感想です)・気遣いの鬼と化しますが、非常に面白い仕事なのでご紹介します。

渡り廊下が自慢のある旅館にて 15:30 着替え 

旅館ってのは、チェックインの時間は大体午後ですよね。なのでそれに合わせて、仲居さんのシフトは午後の受け入れ~翌日の朝食、お見送りまでです。

やっぱり着物を着て食事を提供する旅館が多いので、少し早めに出勤して着替えます。襦袢来て、帯締めて、丈も調整して…慣れない着物は時間がかかるんですよ…早い人は5分くらいでパパッと終わります。

身だしなみもきちんとセット。アホ毛があると疲れて見えるからワックスで固めて、髪飾りもキラキラした派手なものは避ける。お部屋で膝をついて食事を出すことが多いので、足袋の裏が常にキレイに見えるように新しいものを。老舗の旅館で指導も厳しく、最初は私もめちゃくちゃ怒られました。

16:00 出勤、担当するお部屋をチェック  

旅館の規模にもよるけど、部屋の数が多いと仲居さんも一人で複数の部屋を担当します。私の所は一人3部屋。家族連れか?カップルか?年配夫婦か?友達同士の旅行か?運ぶ料理の量と食べるスピードに影響するので、人数の組み合わせは死活問題です。

食事のお品書きもチェック。値段によってメニューも変わりますから…お客様に一品一品説明するので、メモっておいた料理の歴史、料理長の想いや季節の食材の小ネタなどをチラチラ見て空いてる時間にブツブツ復習。

16:30 客室挨拶、食事時間の確認

既にチェックインしてるお客様のお部屋を訪ねて挨拶に行きます。ついでにお茶も入れて、旅館の施設案内、食事時間もサラッと確認。3部屋あるのでね、かぶると大変なので上手く調整していきます。

ここの第一印象と世間話が超絶大事。何故か最初から喧嘩して地獄のような雰囲気のカップル、訳アリ夫婦、子どもが元気すぎて妖精のごとく部屋を跳ね回るファミリー、色々います。

すぐ食事をしたいと言われなければ、お風呂を勧めます。何故かってここは食事の準備時間を確保できるボーナスタイム、みなさんお風呂へどうぞどうぞ。

17:00 夕食準備

次は調理場へ直行、揚げ物や煮物など温かいもの以外(前菜、先付けなど)は、運びやすいように自分のお部屋の担当分だけ取っておきます。値段でお皿に乗ってる食材が違ったり、見た目もキレイに盛り付けてあるか、足りないものは無いか要チェック。

道具も色々必要です。鍋を温める青い色のやつ、鍋敷き、とんすい、キッズがいればお子様用の食器など手早く集めていきます。

ちなみに宴会など団体客の予約が入れば、調理場は既に戦場と化しており、空気はピリ付き緊張感が走ります。うっかり飾りの食材も落とせません。プルプル。

休む間もなく、酒場へ向かいます。人数分の食前酒、事前に注文されたお酒、コップ、栓抜きを準備。

合間に夕食

お客様に食事を出し始めると、忙しすぎて自分たちのご飯を食べる時間が無くなるので、この間にササッとかきこみます。メニューは大鍋に味噌汁がドン、大きな炊飯ジャーに白米がドン、大皿にたくあんがドン。

自分で量を調整して食べるスタイル。担当のお部屋のお客さんが遅れてチェックインしてきたら、そちらの対応をするのでゆっくり食べてる暇はありません。むしろ、この時間は色んな人がせわしなく館内を行き交うピークタイム。そわそわ。

18:30 テーブルセッティング

お部屋出しの場合は、各部屋のテーブルをセッティングしにいきます。「ちょっとご飯食べられるように部屋片づけといてよ」って言うわけに行きませんから、お風呂に行ってる今がチャンス!

旅館のお料理って小鉢がいっぱいあるじゃないですか。全部置く場所が決められているので、覚えるのが大変でした。懐紙を敷いて、食前酒を置いて、鍋はここ、先付けの向きはこっち、ピシ、ピシと美しく見えるように置いていきます×人数分。

ちんたらやってると他の部屋のお客様が帰ってきてしまいます。見られながら食事の準備はちょっと無言の圧を感じるので、いないうちにやっておきたい…焦ってはだめ。ミスするかもしれない、焦っては…うおおおおおおお

この時間だけは、背中からもう5本くらい手が生えてきたかのような手さばきでこなしていきます。しゅばばば。

戦闘開始

いよいよ夕食が始まります。八寸から締めのデザートまで9品くらい1品ずつ持っていくわけなので最低でもお部屋と調理場を9回は往復しないといけません。しかも渡り廊下が自慢の旅館ってのは、その走行距離が長いんすよ。料理も冷めやすく、この時ばかりは恨めしい。

希望の夕食時間に合わせてロケットスタートを切り、バンバンお料理を持っていきます。先輩に教えられたのは、人間ってのは7分以上待たされると長いと感じるので絶対にそこを越えてはいけない、と。しかし早すぎても急かしてるようでダメ、日本文化ムズい。

お酒飲んで酔ってれば食べるスピードが遅いし、お年寄りは結構早い。家族連れは早めに持っていかないと子どもが眠くなっちゃうし…などなど。

こちらは3部屋同時に時間を調整しつつやってるので死ぬ程忙しいですが、待ってる方は関係ないですからね。さらにその間に観光情報やお客様とコミュニケーションを取って情報を聞き出していきます。

会話から誕生日や記念で来たのが分かれば、誕生日プレートや記念日のお祝いデザートなどを用意し、行きたい場所があれば食事が終わるまでに観光情報を調べてパンフレットや施設の予約情報などをお渡しします。お客様の期待の上を行くのが老舗クオリティ(と教えられました)、気遣いの鬼。

最初の頃は先輩が部屋の外で待機、言葉遣いとお客様に振る話題で失礼なものがないか聞き耳を立ててチェック。後でフィードバックをもらいます(怖)

合間に明日の希望朝食時間を確認し、お布団引き係りのおじさん達と連携を取りながら食事が終わった部屋から光の速さで布団を引いていきます

自慢の渡り廊下ってやつは…1部屋1部屋が遠いんだこれが。調理場まで100m程ありました。他にショートカットできるルートは無く、景観が乱れるのでエレベーターも無く、おしとやかに歩いてたら間に合わん。正直、見えないところで着物の裾まくって走ってました。

デザートまで来れば終わりはすぐそこ。食べ切れなくて余ったご飯は、夜食として味を変えておにぎりにしてお届けし、洗った茶器で食後のほうじ茶を出したら終わりです。ふぅ。

と思ったら、仲居さんが付けてるポケベルがブルブルブル(お客様にレトロな雰囲気を味わってもらうため、あえて付けている)

ゴ ハ ン オ カ ワ リ

ご飯足りなかったか!今すぐ持っていきますよっと調理場へダッシュ。

一連の工程で軽く数kg全力疾走した疲労感です。気付いたら22時近く…朝食の時間は早くて7時。もうササッと着替えて、近くの住み込み住宅に戻って、お風呂入って寝ないと体力が持ちません。でも毎晩すんごいよく眠れます。

翌朝の仲居さんのお仕事はこちら。


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