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こうして私は、エロゲームアプリの翻訳をすることになった。

コロナ禍の失業

2020年秋、コロナ禍で世間が毎日ニュースで流れる感染人数に振り回されていた頃、私は失業した。コロナで仕事が回らず、決まっていたイベントや仕事も全て無くなってしまった。

ガッカリしている暇はない、早く次の仕事を見つけないと。しかし、家の外でやるような仕事は全然募集もなく、どこもかしこも臨時で閉まっている。求人サイトに応募してみたが、仕事が欲しい人が多すぎて1人分の求人枠に35人応募者が集まるという超高倍率だった。

とりあえずネットで探すか…そう思いながら色々調べていたら、ある案件が目に留まった。

簡単な日常英語の翻訳」…業務委託だけど、在宅で出来るし、専門性も求められていない、トライアルさえパスすればフルタイムの時と同じくらいの給料がもらえる。何のジャンルの翻訳かは書いていなかった。でもやるしかない、選んでいる余裕はない。すぐさま担当者に連絡を取った。

他にもネットの仕事はトラブル満載。実体験をまとめました。

トライアル受験日

次の日にはトライアルの問題がメールに届いた。簡単な日常会話の英文が20問程書かれていて、「日本人が読んで自然な日本語の言い回しにしてください」という内容だ。

あれ?結構簡単…もしかして受かるかも?

10分程で終わらせて提出。その数時間後に連絡が来て合格となった。あっさりと仕事が見つかり、喜んでいたのも束の間、仕事の詳細の打ち合わせの電話がかかってきて内容を知って一瞬ひるんだ。

翻訳するのは…エロゲームアプリのスクリプトだった。

と言っても男性向けではなく女性用の恋愛シミュレーションゲームで、自分が選んだ選択によってストーリーの展開が変わっていく。

例えば、主人公をいつも陰ながら支えてくれるマッチョなイケメンと二人きりになるシーンで3つの選択肢が選べる。
①気持ちを隠して友達として付き合う
 ②彼女がいるか聞く
 ③自分からキスを迫る(要課金)

こういうゲームは課金してちょっと大胆な選択肢を選ぶと一気に親密になれる。元は海外のアプリで、登場人物の家庭環境やセリフも細かい設定があって中々面白い。

とりあえずやってみるかと思い、エロだなんだと言ってる場合ではないので引き受けることにした。

人生で初めてエロいセリフを訳すセンスを問われる

翌日から契約書や業務の説明が一通り終わり、私の担当ストーリーを選んでいく。ジャンルはいくつもあって、女子の好きそうな設定は全世界共通なのかな…と思った。

①主人公が異次元の世界に迷い込み、敵と戦いつつそこに住む住人と恋に落ちるファンタジー系
②さえない主人公が働く店に、新しくやってきた高スペックイケメンバイトと愛を育む純愛系
③街で偶然出会った金持ちイケメンにアプローチされ、オラオラ系かと思いきや悲しい過去を持つ一面に惚れちゃうギャップ系

etc

など、金持ち奥様から学生の青春ものまで色んな設定でキュンキュンできるのが人気のようだった。悩んだ末、最初の私の担当ストーリーは純愛系を選んだ。

セリフは会話調でそこまで難しくないが、何せ量が多い。(1つのストーリーにつき1ヶ月かかる)
何でかってイケメンと仲良くなろうとする度にオプションが出てきて、その選択肢ごとに違った展開が用意されている。こちらはどのオプションが選ばれても良いように用意しておかなければならない。

そして次なる壁にぶち当たる。

これ…エロい文章を書くのってセンス必要じゃない?

ストーリーの序盤は普通の小説のようだが、課金した場合の展開はどんどんエロ要素が増えていく。部屋で、車内で、職場で…このゲームをプレイする女性たちをドキドキさせるセリフ回しを考えなければならない。人生でこのスキルを磨く日が来るとは夢にも思わなかった。

うーーーーん…プロから学ぶしかない。ということで、悩んだ末次の日から参考にAVも見ようかと思ったが、男性が言われて嬉しいセリフが多いのであまり参考にならないと思い、代わりに官能小説を読み漁る毎日が始まった。

絶対に笑ってはいけないオンラインミーティング


進捗を報告し合うため、一週間に1回オンラインで他のストーリーを担当している人達ともミーティングも用意されていた。

先輩A「何か聞きたいことありますか?」
私「すいません、喘ぎ声のバリエーションってどれくらいあったらいいんでしょうか?」
先輩B「あ、私は5種類くらいを使い分けてますね。」

そんな淡々と言わなくたって…こんなシュールな会議なのに、誰も笑っていない。もちろん仕事なので全員真剣だ。でも、こんなの面白くて仕方なかった。

ある程度ストーリーの翻訳が終わったら、実際にアプリをインストールしてセリフや場面と合っているか、バグは無いかゲームをプレイしながら確認する作業を行う。

一度カフェで作業したが、近くにいた人に携帯の画面を見られ非常に気まづい思いをしたので、それからは家でやるようになった。「違うんです。私これ、仕事でやっています」という看板でも置いておきたかった。

ある程度確認作業が済んだら、グループのリーダーに最終チェックをお願いする。

先輩「じゃ、私ししゃもさんのストーリー確認しておきますね。」

先輩、どんな気持ちで読むんですか。

と、聞いてみたい気持ちをグッとこらえて納品を終える。

こうして、朝から晩までエロゲームのスクリプトを書き起こして過ごし、友人に「今何の仕事してるの?」と聞かれたら非常に答えにくい仕事内容だったが、おかげでコロナ禍の数か月を生き延びることができた。

何でもやってみる気持ちは大切だ。「エロい文章を書けるようになる」という次は人生でいつ使うか分からない謎のスキルも手に入れた。

エロゲームアプリも中々奥が深い。良い勉強になりました。

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