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私だけの宇宙船

「株主になりたい」と言っていたらカブ主になった。

言霊というものがなんかちょっと勘違いしてくれたらしいが、迷惑じゃあないしむしろ嬉しいからまあいっかって感じ。

上記の記事で述べたとおり、私はいっぱしの株主になりたいと思っていた。株主優待とかもらってみたいな、なんて。

そして同時進行というかなんというか、私は自分用の原付を探していたところだった。

最初はジャズという古い原付を探していたのだけれど、

実際に買うとなるとそこそこお金がかかる。この間お金を落としてしまったこともあって、私はへたにローンを組むのも躊躇われて「どうしたものか」と思っていた。

そうしていたら、運良くこんな話が舞い込んできた。「廃車寸前のカブで良ければ、まだ乗れるから直してそれに乗るというのはどうか?」、うちの職場がお世話になっている整備工場のOさんからの申し出だった。

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ところで「カウボーイビバップ」のおんぼろ宇宙船「ビバップ号」は、古い漁船を改造したものなのだそうだ。

私はそもそも「バイクにビバップ号と名付けて乗り回したい」という気持ちから、思い切って原付免許取得に至ったのだ。

「ビバップ」というのはジャズの一形態のことを指すらしいので、だからこそバイクもジャズが良かった。でも「古い漁船」というモチーフはそこはかとなく、新聞屋さんで散々っぱら酷使されていた廃車寸前のスーパーカブと、重なるところがある気がした。

これもまたご縁、そう思った。またいつか余裕のある時にジャズに出逢えたなら、その時は「ソードフィッシュ」と命名してかわいがればいいじゃないか—そんな風に思えた。だから私は件のカブを迎え入れることにしたのだ。

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とはいえ、やって来たスーパーカブはいわゆるプレスカブ、つまり「お仕事でめっちゃ使われる系カブ」だ。今日も滑川町だったかのお巡りさんが同じ型のカブに乗っているのをお見かけした。

そして私が受け継いだこのカブは「中華カブ」と呼ばれ、一時期中国で生産していたとかいう、よりにもよって不人気車種とも言われているモデルなのだ。

けれどそこが逆に燃えた。不人気車種、上等じゃあないか。

クラスの男子にひどいことを言われていた頃の自分を彷彿とさせたのだ、なんとなく。みんなが不人気としていたって、私が愛してやればいいのだ、ただそれだけのこと。壊れやすいという話もあるけれど、その時はその時なのだから。

いっそのこと、と思って自分で塗料を用意してペイントを施した。丁度熊谷の八木橋という百貨店で、大北海道展というのをやっていたもんで、水曜どうでしょうのステッカーだって手に入った。どうでしょうといえばカブじゃあないか、だから何の躊躇いもなかった。こうして私のビバップ号の薄紫色の車体には、やけに堂々とした「水曜どうでしょう」の文字が輝いたのだ。

これが、

こうなったのだ。

…結構、違ったものに見えないだろうか?

🏍

昨夜、夜の街をビバップ号とふたりきりで走った。と言ってもうちの近所はすこぶる田舎で、深夜帯は特に車通りがまったく無い。しんとした静かな街をビバップ号と走るのは、途方もない「自由」を感じさせる行為だった。

遠い昔、大学に入って一人暮らしをしていた頃、従姉に譲ってもらった小さな折り畳み自転車で、夜の札幌の街を駆け回ったことを思い出す。ああ、あの時にすごくよく似ている。まるで、どこまでも行けるような気がしていた。どこまでもどこまでも—自分にこんな「自由」があったことを、私はきっとその時まで知らなかったと思う。

そして今朝も、2時前に起きてしし座流星群を観る為にビバップ号と走った。星を観るのに最適な、人のあまり来ないいいスポットを知っているのだ。そこへ一人で向かうのは初めてだった。仕事で行けない夫はというと、ほんの少しだけ羨ましそうにしていた。

薄く雲の張った夜空を、方向も調べずに適当に見上げる。停めたビバップ号に腰掛け、先に走ってゆく人工衛星に目をこらしていると、ふいに大きな流れ星がグンと空を走った。あ、と思ったらもう消えてしまったけれど、そのひとつが見られただけで、もう大満足だった。

帰りに、知人が店長をしているローソンに寄って、フルーツ味のカロリーメイトとホットカルピスを買った。ローソンの駐車場でそれらを口にしてほふほふしていると、大きな通りを様々なトラックが走っていくのが見えた。そこはかとないデコトラ臭のするそれらは、走ってゆく姿がまるで流星みたいにきれいだった。

次は、ビバップ号とどこへ行こう。

ビバップ号となら、どこへでも行ける気がする—嬉しいな、幸せだな。

私は、私だけの宇宙船を手に入れたのだ。


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