自由人がいま最高だな、と思うマンガ5作+α
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自由人がいま最高だな、と思うマンガ5作+α

出版社に所属していたときはあんまり特定の作品について言及したりすることをしていませんでした。ある作品を褒めるっていうことは、また違ったある作品を褒めていないことにもつながるじゃないですか。

でも当然、普段読んでいるマンガでこの作品がめっちゃ好きとか、あるわけです。自分の出版社の本しか読んでないわけじゃないんですそりゃ。

せっかく会社辞めたので、この年末、自分的このマンガがすごい、みたいなnoteでも書いてみようかと。

これもまた自由というものですね。

振り返ってみたらいまめっちゃ好きだなこのマンガ、っていうのが5作品ありました。順番ではないです。順不同。

① リサの食べられない食卓 黒郷ほとり


小学館さんのサンデーうぇぶりで読めます。ぼくはコミックス派なのでこれに限らず連載は追っかけてないですが。

主人公のリサちゃんは吸血鬼です。この作品の中の吸血鬼は食事をしません。栄養補給は人の血のみ。で、人の血を吸うわけですがこの血の味が人間の食べているもので美味しくなったり不味くなったりするらしいんですね。だからリサちゃんはめちゃくちゃ下手な料理を頑張って練習し、血を吸わせてくれる人間たちに振る舞います。人間が「美味しい!」と思えばその血を吸うリサちゃんも「美味しい!」となる構造。だから「リサの食べられない食卓」。

グルメ漫画を捻ったいわゆる上手い!って感じの設定ですが、このマンガがすごいのは「全然そんな話じゃない」ところ。いきなりでなんですが。

多少ネタバレなんですが、この作品、結構ハードなSFになっています。変化球グルメマンガな感じは最初のフックだけ。この作品の本筋は滅びゆく世界における異種間の愛の物語。吸血鬼マンガの中では水城せとな先生の「黒薔薇アリス」に空気感は近いかもです。あそこまでダークではないですけど。

いろいろ上手いんですが特にいいのが「神の視点」を多用しながら「すれ違い」を描いていくテクニック。いろんなキャラがいろんなことを思い、いろんな行動をするのですが、それがすべて明かされているのは読者にだけ。時間によって届かなかった思いや言葉。気持ちのすれ違いを丁寧に描いていくのがもどかしくも切なく泣ける……。

ただいま3巻。ちょうどキャラクターの謎や世界観が徐々に明かされ出しているところ。あと最低20巻は読みたいので皆さん一緒に応援してください……!

② 北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし 白樺魔夜/江本マシメサ/あかねこ

主婦と生活社さんのコミックPASH!さんで読めます。いま4巻。5巻が今月でますね。

北欧ぽい架空の王国で学者肌の文系男子貴族リツハルドと、女子ながらに軍人なカッコイイ系女子ジークリンデがリツハルドの一目惚れから、まずはお試し婚をすることになってはじまる田舎暮らし……という冒頭。

新しめの中世なイメージの世界なので、男女の性差とか古い因習とかはもちろん現代よりあって、そこで固定化されたジェンダーや結婚のイメージに立ち向かう1組のカップルの物語。そう、「逃げ恥」ぽい現代的テーマをファンタジーで包んだ作品となっています。トラディショナルなテクニックですが逆にいまっぽい!

狩りをしたり冬支度をしたりのスローライフ描写がとっても心地よく、ジェンダーも大上段に語られるのではなくて軽やかな筆致でほんの少しだけ読者の心にひっかけていくスタイル。こんな夫婦、結婚生活いいなあというのもヒラマサミクリ的で萌える系。描写の空気感がとっても気持ちいい作品です。

③ 天地創造デザイン部 蛇蔵/鈴木ツタ/たら子

講談社さんのモーニングツーで連載中。年明けからアニメ化なんですね。おお。いま5巻です。

神様の元にいろんな動物を「デザイン」する部隊がいて、という設定で神様からのミッション(無茶ぶり)で毎回巻き起こるザ・ドタバタを経ながら毎回なんとか「本当にいる」生き物を無事デザインするという基本1話完結構成。

ギャグ漫画の伝統的なフォーマットを完璧に踏みながら、めちゃめちゃいまっぽい!なにこれすごい……。

日常系とかシュールとか、現代のコメディが進化した方向から完全に背を背けるスーパー王道ど真ん中ドタバタコメディが読ませてもらえるなんて……しかも科学的根拠の裏付けも完璧にくっつけて、なんと読むと勉強にもなる……そんなこと可能だったのか可能だったんだ……。

とんでもないハイレベルなプロの技だ……と思って読んでるのですが、そんなこと考えなくてもただただ笑えるマンガでもある。その複層構造がさらに高み……。いろんな教科書に載せたい作品です。載っちゃえ。

④ ヘテロゲニアリンギスティコ 瀬野反人

KADOKAWAさんです。ヤングエースだったんだ。いま3巻。

「異種族言語学入門」ということでファンタジー世界を旅する人間の言語学者がワーウルフやらクラーケンやらスライムやらと言語やジェスチャーを駆使してコミュニケーションしていく物語。緩めのギャグマンガです。

4コマ漫画を描いていた作家さんだからか、1ページごとにタイトルがついて、明確なオチがない日常系4コマのスタイルと普通のストーリーマンガのスタイルを混ぜたようなニュールック。またここでもマンガの表現は新たな進化を遂げちゃってる。

とにかく構築力と情報量がやばい。1ページ5コマくらいしかないのに全然読み終わらない。1p完結スタイルにすることによってストーリーマンガみたいにすいすい読み飛ばしていけないから……さらに描いてる内容も文化人類学をきっちり抑えた本格的なやつ。なんて贅沢なマンガなんだろうか。

難しいことをわかりやすく描くのがいちばん難しいという意味ではめちゃくちゃ上手くいっている作品で、またマンガにいちばん重要なのはギャップであるという意味では瀬野さんのキュートな絵柄とハードな内容のギャップは一級品ですよ。

⑤ よふかしのうた コトヤマ

小学館さんの週刊少年サンデー連載中。いま5巻です。これもサンデーうぇぶりで読めるんですね。今回紹介した5作品全てwebで読めるようになってる。時代だなあ。

この作品はもういろんなところでいろんな方が褒めてるのでまあとにかく読んでみてくださいって感じなのですが、あの「若いころ深夜から明け方にかけてなんともなくブラブラしたときのあの感じ」の空気感が完璧にマンガに映しとられていて……もうそれだけで十分に最高なのですが、そこに吸血鬼というギミックとラブコメの要素、さらには「生きる意味」までテーマになってきていて本当に盛りだくさんな作品です。

コトヤマ先生の作品ってろびこ先生と共通点めっちゃあるなって思うんですよね。「となりの怪物くん」の。

他人と違ったらダメなの?とか目立つことは悪いこと?とかそういった現代的テーマをちょっと変わったふたりのラブコメに落とし込んで、なんで生きているの?とか人生の正解はひとりひとりがそれぞれ持っているとかそういった結論まで持っていく。そういったマンガの少年漫画代表がコトヤマ先生で少女漫画代表がろびこ先生じゃないかと。ろびこ先生の今年完結した「僕と君の大切な話」も最高です!

というわけで今年ぼくが推す5作品でした。どれも5巻までなので読み始めるなら今って感じ。年末年始にお時間あればぜひどうぞ。

振り返ってて思ったのですが今って終末的な、一度人類の世界が終わって……という世界観のマンガめっちゃ多いですね。講談社さんの「天国大魔境/石黒正数」にはじまりアルファポリスさんの「廃墟のメシ/ムジハ」、フレックスさんの「鍵付きテラリウム/平沢ゆうな」、スクエニさんの「旅とごはんと終末世界/文ノ椰」、秋田書店さんの「オンノジ/施川ユウキ」とかとか……

全部好きだわー。これ系好きな勢にはたまりませんよね。

それでは良い年末年始のマンガライフを!


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竹村響 Hibiki  Takemura

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そのスキ、染みてます
20年間勤めた竹書房という出版社を退職しました。次の冒険を探しに行こうと思います。