品切れ重版未定とは品切れじゃないんだよ

字面で見るとそんなに不思議な言葉ではないと思うんですよ、品切れ重版未定
全然知らなくても日本語的に品切れてて重版する予定もないんだなーと解釈してくれると思うし、それで間違ってはいないです。

でもですね、これが実務的にはそうでもないんです。
だって本当は品切れてないんだもん。

あ、最初に自分の立場を説明しておくと、20年前に竹書房っていう中くらいの出版社(だいたい売り上げ的に30〜40位くらいだと思われます)に編集として入って途中で電子書籍黎明期の立ち上げに関わり4年前、急に紙も含めた営業を全部みましょーと思いたってこうだったらいいのになー、というのを無邪気にやってたら今に至ってる感じです。おかげさまで竹書房、苦しい市場のなかでもぼちぼちやれておりますのでそんなに間違っていないかなあ、と。

ので、これは竹書房という出版社で最近営業に関わった素人から見る一面的な見方にすぎません。それは違う、とかもっとこうすりゃいいんじゃ、とかめっちゃあると思うんでそんくらいの感じで聞いてくださいね。

さてさて本題です。
そもそも出版社は何をしてるんだ、って話ですよね。
まずは流通と小売の部分に絞ってちょっと具体的に説明してみましょう。

1冊の新刊があるとします。
いわゆる「本」ですよね。僕ら的にいうと大きく本は「雑誌、コミック、書籍」の3つにわかれるんですがその中の書籍だとします。竹書房だと高校野球(先日、夏の甲子園で優勝した履正社の岡田監督の書籍は竹書房から発売されたばかりなんですよ)とか麻雀(読んだらめっちゃ強くなる戦術書が毎月出てます)とか落語の本(もうすぐ闘病中の円楽師匠の自伝が発売予定です)とかまあいろいろやってます。

初版(最初に作る数)は5000部ということにしましょう。うちではいまだいたいこれくらいがベースです。
その数だとだいたい1500部が初期在庫と言って発売日以降の書店さんからの注文へそなえるために自分のところの倉庫に入れて持っておくぶんです。本屋さんで売れた時の補充のためのものですね。売れたから補充してくれるとは限らないのですが

で、3000部くらいを書店さんに取次さんを通してお渡しします。これがまず店頭に並ぶわけです。
残りの500部は取次さんの倉庫に入ります。これも書店さんからの注文に備えるものです。本は取次さんが運んでいるので、書店さんが注文した時、取次さんの倉庫にあったほうが早く届きます。出版社の倉庫から出すとなると1〜2日多くかかっちゃうのです。

さて発売です。毎日全国の書店でたくさんだったり少しだったり売れて行きます。いっぱい売れると重版になるのですが、ここでは重版がかからず初版止まりだったことにしましょう。ギリギリ重版がかからないのが…そうですね3ヶ月で45%くらいのときかな。2000冊くらいの実売。これくらいだと重版がためらわれたりするかもしれません(実売数で決めているというよりは追加の注文数で決めているんですがここでは割愛)。

で、売れた分は順調に追加注文がもらえたとして、最終的には5000冊すべてが出庫され店頭に届いたとします。売れたのは2000冊なので3000冊がどこかしらの店頭にある状態(書店さんのバックヤードから出されていないこともあるのですが)です。

ですが、本は委託販売制なので本屋さんの事情で返品がされてきます。書籍の返品がいちばん多くなるのはだいたい発売から6ヶ月後なので、この本の場合発売から6ヶ月後にはたぶん合計で1500冊くらいが返品されてきてます。返品率30%ってやつです。そんで2500冊くらいが売れてくれたとします。すると残りは1000冊。これを僕らは市中在庫と呼んでいます。全国のいろんな書店で合計1000冊がバラバラと(だいたい1軒1冊です)棚に挿さっているイメージですね。

そして出版社は返品されてきた1500冊を改装します(実は僕ら竹書房はこの改装というやつをあまりしなくなっています。が、多くの一般的な出版社はしっかりやっていると思うのでここでは改装したことにしますね)。汚れてしまった本は捨てたり、カバーを新しいものにしたり。書籍だったら1200冊くらいが手元に新しく在庫として残ります

で、この後はだいぶちょっとずつになってはいますが毎日くる書店さんからの注文に対して手元の1200冊から出庫していきます。この規模だとそうですね、月50冊くらいかなあ。それをぼちぼちやっていくと24ヶ月後、この1200冊はすべて出庫され出版社の倉庫からなくなりますよね。発売から2年半がたったころです。

さあついにやってきました。
その本のステータスが

品切れ重版未定

になる瞬間です。

つまりですね、この「品切れ」は「出版社の倉庫からなくなった」の意味なんです。でもこの本の場合、全国におそらく500〜1000冊程度が「販売中」です。
だから、この品切れというのは「書店さん」に対して言ってるんですね。すいませんもう注文をもらっても出せる在庫がなくなりました、あとは皆さんがまだ持っているぶんをどうぞ売り切ってください…そんな感じの状態です。

本当は品切れ重版未定なんてめちゃくちゃ業界用語なわけです。それが読者さんたちに対して言葉として届いちゃったことが不幸な感じはします。でも僕らも本当はもっとちゃんとこうした実情を読者さんにも作家さんにも説明してくればよかったんですよね。反省点です…。でもいまこうやって説明するよ!

ですので、読者さんたちから見た状態としては発売当初と比べて「その本を見つけるのが困難になっている」ということだと思います。でも不可能ではない。これが「品切れ重版未定」の正体です。そして絶版との大きな違いでもあります。品切重版未定の本は必ず、日本のどこかの書店で売っています。必ずです。少なくともうちには市中在庫がゼロの本はほぼありません。探せば必ずあるのです。そしてこれが絶版とのいちばん大きな違いです。絶版にした時は市中在庫がゼロになっていくわけですから。

というわけで品切重版未定の本が欲しいという読者さんには大変ご苦労をかけるのですが、書店さんを一生懸命探してください…という答えになってしまうのです。

です。
…ですが。

そんな無茶言うなと。
全国に散らばってる1000冊の本探し出せってか?と。
いやもうその通りです。

実は私ひとつ嘘をつきました

本当はね…まだ持ってるんです在庫

それが隠しステータス「品切れ重版未定(客注のみ可)」というオペレーションです。

さきほど、1200冊を2年かけて出庫したと申し上げました。しかし実は1100冊くらいが出荷されたところでもう品切重版未定にステータスを移していたのです。こっそり100冊を隠し持つのですね。うちでは取り置き在庫なんて呼んでいます。

なんでそんなことをするのかというと、ここでずっと言ってきた書店さんの注文とは委託の注文なんですね。店頭に並ぶけれども売れるかどうかはわからない。それにはちょっと今の状態だとお渡しできないけど「客注」つまりお客さんがすぐ買うつもりで書店さんに頼んだものは委託ではなくほぼ買い切りに近いものだから特別に出庫する、というオペレーションです。逆に本当に欲しい人に確実に届けられるよう考えられたオペレーションなんだと思いますね。

これをやる出版社、やらない出版社、やる本、やらない本、いろんなケースがあると思うのですが、どんな本にもこの可能性が存在すると思いますので、欲しい本があってどこかで品切重版未定ですと書いてあったり、ネット書店で在庫切れって書いてあったりしてもワンチャン、お近くの書店に頼んでみてください。ひょっとしたら…があるかもしれません。ない可能性のほうが高いのであくまでもワンチャンということで。うちもすべての本がこうなっているわけではありません。

まとめると欲しいけれどなかなか手に入らない本がある時は、とにかく書店さんに行ってみてください。そして書店員さんに相談してみてください。なんとかならないときも多くあるでしょうが、世間にはこういう出版社の隠し在庫を探し出してくるのがめちゃくちゃ上手い書店員さんたちがいらっしゃいます。そういう人に当たると奇跡みたいなことが起こります。すごいんです。(何度もしつこいですがないことのほうが多いは多いですから出てこなくても怒らないでくださいね…)

これまで積み上がってきたシステムの都合で我々出版社はいわゆるメーカー直販、読者さんたちに直接我々から本を販売することをほとんどしないことになっています。我々は作った本をすべて必ず書店さんに預け、売ってもらうというルールでありマナーなのです。ですので我々がもし在庫を持っていても直接みなさんにお渡しすることはできません。面倒くさいかもしれませんが書店さんで頼んでいただかないといけないのです。でもこうやって出版社と読者さんが直接繋がれる時代、なんだか回りくどいやり方にはなってしまいましたね…。

あ、最後にもう一回ちょっと謝らなければならないことが。

実は私もうひとつ嘘をついていました。
上記のケース、いまの竹書房なら重版です。4年前、こういった注文いただいているのに渡せないというのにすごくモヤモヤした自分はもう足りなくなったら重版かけちゃえ、という方針にシフトさせました。おかげさまで4年前以降、竹書房の品切れ商品は激減しています。お気軽に、いや積極的にご注文いただけると幸いです

究極に簡便に手に入れる方法、電子書籍なんてのもあります。
この4年間の竹書房から発売になった本の電子化率はほぼ100%に近いです。発売から5年以上とかたっちゃうと探し本の困難度はめちゃくちゃ上がってしまうのですが(ものによっては全国に50冊くらいしかないことも…)そういうのでも読もうと思えば読める、そんな時代になりました。たぶんもう少したつとそれをさらにオンデマンドで本の状態にして届けられる時代がやってきます(あと5年以内くらいですかね)。
過渡期ながら我々もいろいろ頑張っております。
どうかご理解いただけると…嬉しいです。

というわけで4年前感じたモヤモヤとそのあとどうしたかのお話でした。モヤモヤ詰まってますからね。長くなりましたねー。

まあでもせっかく書きました。
どこかの誰かに届いて、
なんかのお役に立てるといいなあ。


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360
竹書房という出版社でいろいろやってます。マンガで10位、全体だと40位、電子書籍は10位以内。そんな竹書房を知って欲しいのと、出版社のアップデートのためあれこれについて解説するnoteを書こうと思いたったのでぃす。

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コメント2件

非常に興味深く、面白い記事でした。どうもありがとうございます。
出版社の不信が募る中、竹書房さんは読者や執筆者のために柔軟に動いているなと感心させられました。業界がもっとこういう感じで分かりやすく、取次しやすなればいいですね。
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