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コロナでの死別をどう受けとめたらいいのか。グリーフケアの活動紹介

コロナ下での死別は、多くの方が「あいまいな喪失」を経験しているといいます。隔離によって会えない、亡くなった後もお身体に触れられない、ご葬儀もままならず、遺骨になってかえってきたという話も伺います。

また、コロナに限らず、「あいまいな喪失」を経験することもあります。そのような別れを、我々はどう受けとめたらよいのでしょうか。

今回は、グリーフケア(喪失感情のケア)の認知に取り組む団体、「リヴオン」さんの活動について、紹介をさせていただきます。グリーフを経験するあなたに、少しでもヒントになれば幸いです。


▼この内容は動画でもご覧いただけます

(この内容は、2021年5月18日におこなわれた、お寺の健康習慣プログラム「ヘルシーテンプル@オンライン」での法話を文字起こししたものです)

改めて皆様、本日もようこそお参りくださいました。「ヘルシーテンプル@オンライン」全国版ですね。本日も、177名と多くの方にご参加をいただいております。いつもありがとうございます。

私はいつも、「幸せを育む法話の時間」ということで、ご参加の皆様と法話を通して、人生や幸せについて考えさせていただいております。まず、今日の言葉です。

「死は、そこから立ち直るとか乗り越えていくというものではないのかも」

本日は、こういう言葉を紹介させていただきます。


◆あいまいな喪失

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さて、新型コロナウイルスによる死亡者数は、2021年5月16日現在、日本国内では1万1500人を超えております。

これはただの数字ではなく、亡くなられたお一人おひとりは、誰かにとっての、身近で大切な存在なわけです。つまり、おじいちゃん、おばあちゃん。お父さん、お母さん。お連れ合い、お子さん、親友など、誰かにとっての身近で、大切な方が、新型コロナウイルスで亡くなっているという状況です。

このコロナ禍での死別は、多くの方が「あいまいな喪失」を経験しているといいます。隔離によって会えない、亡くなった後もお身体に触れられない、ご葬儀もままならず、遺骨になってかえってきたという話も伺います。しっかりとお見送りもできない、失った感覚がない、どこにも怒りや悲しみをぶつけようがないなど。多くの方が、このようなあいまいな喪失を経験されています。

そしてまた、新型コロナで亡くなったということは周囲に言いづらい。言いづらいから、周りの人に感情をもらせない、分かってもらえない。そして、場合によっては、つきたくもない嘘をつかないといけない。国内で、1万5000人もの方がコロナで亡くなられ、このようなあいまいな喪失を経験されているような状況です。

そして、新型コロナで亡くなられた場合以外でも、あいまいな喪失は起きています。感染症対策のため、病院や介護施設におられる家族との面会が中々できない。その中で、亡くなっていかれたケース。入院などされていなくても、帰省が中々しづらくて、家族に会えないまま亡くなられたケース。

家族であっても、遠方の都市部に離れて住んでいて、移動が難しく、ご葬儀に参列することができなかったというお話も聞きます。ご葬儀やご法事は、密にならないようにと、人数を絞っておこなわれているような状況です。

コロナ禍の中で、それぞれに一生懸命取り組んでいるので、誰が悪いということではありません。ご葬儀の時に、「コロナが憎い」という言葉を、ご遺族が語られていたことが印象的でした。新型コロナでの死別に関わらず、非常に多くの方が、「あいまいな喪失」を経験しているような状況に今あると言えるかと思います。


◆コロナ下で死別を経験したあなたへ

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そのような中で、リヴオンさんという団体が、行動をおこされました。今お話させていただいた「あいまいな喪失」という言葉やその内容も、このリヴオンさんの取り組みを通じて、私も教えていただきました。

リヴオンさんは、代表の尾角光美(おかくてるみ)さんが、19歳の時にお母様を自殺で亡くされたのをきっかけとして立ち上げたそうです。「いつ、どこで、どのような形で大切な人をなくしても、その人が必要とするサポートを確実に得られる社会の実現」を目指しておられます。

数年前から、喪失による感情のケアの大切さを世に広める活動をしたり、僧侶のためのグリーフケア連続講座を開催したりして、取り組まれています。私も、過去に尾角さんの講演を伺ったり、知り合いの多くのお坊さんが、グリーフケアの講座を受講されたりして、その活動を身近に感じ、学ばせていただいています。

そのリヴオンさんが、コロナ禍の中で、多くの方が「あいまいな喪失」を経験されている、何かできないかとクラウドファンディングをおこなわれました。クラウドファンディングとは何かというと、特に社会課題の改善を目指すような取り組みにおいては、活動する人や団体と、それを応援・支援してくれる方とを結びつけ、活動を前に進めていくための仕組みと考えると分かりやすいかと思います。

活動に共感する色々な方から、応援・支援していただきながら、自分自身が課題に感じていることの改善を進めていく。そのための仕組みが、社会事業系のクラウドファンディングと考えると分かりやすいかと思います。

リヴオンさんの今回のクラウドファンディングでの取り組みは、「コロナ下で身近な人を亡くした人や、医療従事者・僧侶に必要な情報を届けたい」というものでした。

必要な情報とは、「あいまいな喪失」や「公認されない悲嘆」について、死別を経験した方が、それを理解し、それと共にあるための手がかりについて。そしてまた、医療従事者や、僧侶といった、死別の臨床現場にいる人たち向けにも、どんな風に支えを届けていけるのかといったことや、セルフケアの方法について。そうした、それぞれに必要な情報を届けるための書籍や、ウェブサイトをつくりたい。そのための支援を得るために、クラウドファンディングをおこなわれました。

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そして、クラウドファンディングは達成して、329人の方から、560万円を超える支援をいただいたそうです。私も僅かですが、主催している「Bラーニング」という団体を通じて、支援をさせていただきました。そして、支援のリターンとして、写真で尾角さんが持っている『コロナ下で死別を経験したあなたへ』という冊子と、ミニリーフレットを先日送っていただきました。

『コロナ下で死別を経験したあなたへ』というこの冊子は、クラウドファンディングの支援によって、必要であろう対象者へ、一万冊の無料配布ができるような体制が整ったそうです。また、対象者以外の方も、一冊1,000円で冊子を購入することができます。宜しい方はお手にされてみてください。詳細は、リヴオンさんのHPに記載されています。この冊子には、色々な感情をそのまま受け止めていける、優しい言葉が綴ってあります。


◆死別の感情を抱きながら歩む

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改めて、今日の言葉です。

「死は、そこから立ち直るとか乗り越えていくというものではないのかも」。

今日の言葉は、実はリヴオンさんのHPに書かれていた言葉から紹介させていただきました。そしてこの言葉を、グリーフとは何かと伝える中で補足されています。

「グリーフ」は大切な人、ものなどを失うことによって生じる、その人なりの自然な反応、状態、プロセスのことです。どんな感情も反応もおかしなものではありません。怒りも、悲しみも、時に安堵さえも失ったときに感じるのは自然なものです。あなたの感じる「ままに」大切に感じてみることからはじめてみませんか。グリーフはそこから乗り越えるものとか立ち直るものではなく、抱きながら歩むものとして見られるとすこし楽になるかもしれません。

このような言葉で補足をされています。怒り、悲しみ、安堵など、死別だけでも、起こってくる感情や反応は様々です。人によって、亡くなられた状況によって、亡くなった方との関係性によって、まちまちなんですね。

だからこそ、それはおかしなものじゃないんだ、自然なことなんだと受け止めていくこと。自分が感じる「ままに」大切に感じてみることからはじめてみる。そして、乗り越えるものとか立ち直るものではなく、抱きながら歩むものとして受けとめていくことで、すこし楽になるかもしれない。そのようなことが書かれています。


◆愛別離苦

大切な方を失う時に起こる苦しみを、仏教では愛別離苦(あいべつりく)と言います。

「人間の八苦の中に、さきにいふところの愛別離苦、これもつとも切なり」
覚如上人

浄土真宗本願寺派の三代目宗主 覚如上人(かくにょしょうにん)という方は、この愛別離苦とは、苦しみの中でも最も苦しいものであると言われました。

大切な方との別れをどう受けとめていくか。それはおそらく、人間が人間となって以来、とても重要なテーマです。ですから、浄土真宗で言えば、阿弥陀仏の浄土という、仏様の国に生まれていく往くという受けとめ方。大切な方とまた会う世界がある、先に往かれた方が見護ってくださっているというような受けとめ方。

宗派や国によってなど、死の受け止め方は様々ですが、今申し上げたような世界観が昔から大切にされてきたのは、それだけ愛別離苦が大きなものであるからでしょう。

リヴオンさんでは、「大切な人をなくした人のための権利条約」として、死別のうけとめ方について言語化されています。ここに書かれている言葉を読むと、死別による自分の感情や反応はおかしなものではないんだと、自分や現状を受けとめていく助けとなるような、優しく、暖かい言葉が綴ってあります。

今日はご紹介する時間がありませんが、この内容について、いずれまたの機会にご一緒に味わってみたいと思っております。「幸せを育む法話の時間」ということで、本日は、

「死は、そこから立ち直るとか乗り越えていくというものではないのかも」

という言葉を紹介させていただきました。この後、ご参加の皆様の感想も伺いつつ、対話をしてまいりたいと思います。


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最後までご覧いただきありがとうございます。合掌
福岡県糟屋郡宇美町 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生

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#コロナ #グリーフ #死別

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