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漁業の強制労働(SDGs14.b その5)

お魚大国日本。1977年までは魚介類の国内自給率は100%でしたが、2020年では57%まで落ち込んできています。(※1)落ち込んだ理由は海外の安くておいしい魚がどんどん入ってくるようになったというのも一理あります。

水産庁 平成29年度 水産白書 水産物需給の動向
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_4_1.html

戦後ボロボロとなった日本は持ち前の粘り強さで高度経済成長と言われる天井知らずの発展期を迎えました。そして日本の発展と一緒に上がったのが日本で流通しているお金、円です。1970年では1ドルを交換するのに360円もかかっていたのに、1977には268円、2022年には115円にまでなるほど、日本の円が強くなっていきました。(※2)円が強くなるということは海外のモノが安く買えるということになります。特にお金の価値が弱い発展途上国は賃金も安いことが多く、いくら輸送費がかかろうとも十分安く商品を提供できるのです。その最たるものが魚です。魚は元手Oで自然にわんさかいるものです。とればとるほど他の国へ売ることができる商品です。そんな安い魚が入ってくれば、魚を食べる習慣のある国にとってはありがたいだけのことです。あっという間に海外の安い魚に人気が集まり、自分の国の高い魚は追いやられてしまうことになってしまうのです。その典型的な例こそ、日本なのです。さらにこの海外の安い魚はお店の売り場面積を増やすだけではなく、日本の漁業自体へ大きなダメージを与えました。例えば同じサバという魚で国産と海外産とが並んでいたとします。日本のサバが1尾500円だとして海外産が250円。味は若干違えどサバはサバ。日本の水産業者としてはこれ以上値上げすると買ってさえもくれなくなるかもしれないといった不安が膨らんできます。その結果ぎりぎりの価格で国産のサバを並べるようになっていきました。こうやって海外の輸入の魚が売り場面積を伸ばし、日本の魚は消費者からは高いと言われながらも儲からない価格で並べざるを得なくなってしまったのです。

なぜ海外の魚が安いのかというと1つには養殖技術の進化が挙げられます。海という資源が少ない海外では養殖として魚を作っていきました。養殖は工場生産のように大量に魚を生産することで価格を下げているわけです。でもそれ以上に魚の価格を下げている大きな理由があります。それが世界の漁業の最大の闇、漁業の強制労働。通称、奴隷労働です。もちろん労働賃金が単に低いという国もあります。でもその労働賃金を0円として働かしている場合があるかもしれません。

ある貧しい国に住んでいるAさんは自分の国では稼ぐことが難しくなってしまい、他の国でお金を稼ごうと出かけました。すると入国早々「今魚が人気で人手が足りないんだよ。3食寝床つきで、もちろん給料もはらうよ!やってみない?」という声を耳にしたのでした。まさに渡りに舟。右も左もわからない国にきて不安な中、こんなにおいしい話はない。少し高額な口利き料ではあるものの、どうせ海に出ているのだし、あっという間に口利き料は稼げるでしょ。ということでいざ船に乗ってみることにしました。船に揺られること数日。目的に漁場につきました。するとそこには大きな船があって、子供から老人までやせこけた漁夫が働いている姿がみえます。Aさんはいきなり、船から降ろされそこで一緒に働くよう指示を受けたのでした。仕事は重労働でした。魚を獲ること20時間。睡眠もままならずたたき起こされ次の漁へ。風呂は1月に2回。飲み水も蒸留水を海水で割ったものを飲まされ、意識がもうろうとしてくると船の管理者にたたき起こされまた働かされる。逃げようしても周りは島影1つ無い海ばかり。たとえ逃げ切れたとしても口利き料の返済も残っていない状況では家族にも迷惑かけてしまう。そんなことを考えてかれこれ20年。いつになったら家族に会えるのだろう?

ちょっと待って!そんな『蟹工船』(※3)のような世界、このSDGsを世界193カ国が取り組んでいる現代に本当にあるの?と思うかもしれません。でも実在している話なのです。実際、このような強制労働者が15年間で4980人も保護されているのです。(※4)魚の人気が高まる中、魚は企業や国にとって打ち出の小づち。お金を稼ぐのに最も手っ取り早く楽な方法なのです。問題はその打ち出の小づちである魚を誰が獲ってくるかという問題です。そこで金銭的にも物理的にも逃げられない状況にした奴隷労働者をタダ働きさせるのです。ある調査では、このような奴隷労働を行っていると疑われている国は世界で50カ国にも及ぶとも言われています。違法漁業と知りながらも密漁を繰り返し、無限にいると勘違いしている稚魚も含めた魚を獲って家畜のえさにしたりしているのです。すべて海は広いということを逆手に取った悪質な犯罪。事実は闇の底に沈んでいるわけです。ところが近年その実態が明るみに出てきたのです。というのも今まではこのような強制労働がされているかどうかを調査する際は、その闇を生んでいる親玉の企業や国自体に問い合わせていたのです。それでは本当の闇は見えてこないのも納得です。ところがフェアトレード(※5)といった問題が注目され、児童労働、強制労働の実態についてより詳しい調査がされるようになってきました。調査は企業や国ではなく、実際の働いている人たちに対して行うようになってきて、そのような人たちの声を重きに置く風潮が世界中に広がってきたのです。こういった背景から、徐々に悪事の実態がわかってきたのです。すべての安い魚が強制労働に関係しているわけではありません。ただ、このような事態が実際に世界で行われていて、苦しんでいる人がいる。そのことに目を背けず、事実をちゃんと知ることが今後の未来への一歩になるのです。

※1、水産庁 令和2年度の水産物自給率
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/24jikyuuritu.files/210825.html
※2、為替レートの変遷 - 戦後昭和史
https://shouwashi.com/transition-exchangerate.html
※3、『小説・蟹工船』はドキュメンタリーかノンフィクションか?
http://hokkaidonobunka.sapolog.com/e4465.html
※4、The Labour Protection Network(通称、LPN)は強制労働されている移民を保護する取り組みを行っており、15年間で4980人の強制労働者を保護した。中には
https://www.lpnfoundation.org/
※5、フェアトレードとは公正な取引という意味。本来その生産物に対する価値を支払われず超低価格で提供されたり、生産者に還元されなかったりすることをやめ、適正価格での取引を行うこと。
FAIRTRADE JAPAN フェアトレードミニ講座
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/course.php
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/course.php
生産者がフェアトレードフィッシュ 生産者の幸せも美味しさのうち
https://times.seafoodlegacy.com/archives/6772

参考文献
児童労働白書 2020 - Deloitte
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/dtc/jp-dtc-child-labour-white-paper-p.pdf
水産業における人権侵害と日本企業の関わりに関する報告
https://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2021/01/56cd5e159a42535186819adf90c1938c.pdf
A-2 サプライチェーンにひそむ違法漁業と人権侵害のリスク
https://sustainableseafoodnow.com/archive/report/tsss2019/1409/
世界の水産業から人権侵害をなくすための新たな方法
https://jp.mongabay.com/2016/05/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E6%B0%B4%E7%94%A3%E6%A5%AD%E3%81%8B%E3%82%89%E4%BA%BA%E6%A8%A9%E4%BE%B5%E5%AE%B3%E3%82%92%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%99%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA/
フェアトレードフィッシュ 生産者の幸せも美味しさのうち
https://times.seafoodlegacy.com/archives/6772
生産者がフェアトレードフィッシュ 生産者の幸せも美味しさのうち
https://times.seafoodlegacy.com/archives/6772


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