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【海業のススメ】三重県鳥羽市~肩を寄せ合い、ピンチをチャンスに変える海

日本の神社の最高位、伊勢神宮。幾重にも重なる島々。日本を代表する景勝地、伊勢志摩国立公園。その中でも、とある地域が漁業界で注目されています。その地域こそが鳥羽市です。鳥羽市は伊勢湾の西側の入口にあたり、伊勢湾と黒潮がぶつかる栄養豊富な海が広がっています。そのため古くから漁業が栄えた地域でもあります。そんな鳥羽の海が、今熱いのです。


鳥羽の海には、本場伊勢えびはもちろん、豊富な魚も有名ですが、イルカと遊べるイルカ島や真珠養殖発祥のミキモト真珠島、日本で唯一ジュゴンを飼育している鳥羽水族館など海の魅力がこれでもかというくらい豊富な地域です。中でも今一番熱いのが海女(あま)さんです。ボンベを背負わず、自力で海に潜って漁をするのは世界でも日本と韓国しか残っておらず、日本国内としても海女さんがいる地域の数は限られてきています(※1)。そんな数少ない現役海女さんがいる地域こそが鳥羽なのです。今年も国海女サミットがこの鳥羽で行われていたります。海女さんの歴史は5000年にも及ぶと言われていて、根こそぎ取ってくる漁とは違い、1つ1つを大切に扱う海女漁は、まさにサステナブル。そんな環境にも海にも優しい海女漁が今大変な事態になっているのです。海女さんの高齢化や後継者不足で海女文化自体がなくなりかけているのです。そこで鳥羽は海女漁を1つのコンテンツとして観光と結び付けることでビジネス化を進めてきました。答志島(とうしじま)の体験ツアー(※2)や相差(おうさつ)の海女小屋(※3)を使った浜焼き、海女の家の古民家を使ったカフェ(※4)など、海女文化自体を楽しめる、まさに「コト消費」が注目されているのです。(※5)


さらに鳥羽で今力を入れているのが海藻です。海女さんが獲ってくるアワビやウニの大事なえさにもなり、ヒジキやノリ、わかめと1年中収益となる海藻。この海藻が姿を消しているのです。いわゆる磯焼けが広がってきているのです。この難題に取り組む漁港が鳥羽小浜漁港です。というのも、この小浜漁港には鳥羽市水産研究所や三重大学の水産実験所があるのです。そして何より日本に5校しかない商船高専の鳥羽商船高等専門学校が目と鼻の先。この頭脳をもってして海藻の研究を行っているのです。その結果、高潮位、高水温、冷水塊という海の環境の変化が起こっていて、アイゴやブダイ、クロダイといった植食性魚類が増加していることが分かってきたのです。そうして藻場を守るため植食性魚類を利用して商品化するなどの新たな取り組みへとつながっていったのです。その恩恵は海藻の売上に直結し、海女さんの水揚げを増やし、他の魚の産卵場所を増やし、さらにはブルーカーボンとして二酸化炭素吸収にもつながっていくといった1石4丁の役割をはたしてくれるのです。


海女文化の観光コンテンツにしろ、植食性魚類の利活用にしろ、もとはと言えばこのままでは大変なことになるという危機感でした。まさにそのピンチを逆手にとってビジネスにつなげていったのです。そのカギを握っていたのが地域間の情報の共有です。鳥羽では、1つの漁協があれこれ考えるのではなく、地域の学校、企業、協会、NPOといった地域の人たちを受け入れ、話し合い、触れ合う場を数多く作ってきました。そんな情報の共有の場から新たなアイデアを生まれ、1つ1つ行動に移っていったのです。伊勢志摩の肩を寄せ合う島々を見れば、納得の結論です。

※1、現役海女が主に活躍している地域としては、久慈、白浜、輪島、鳥羽、志摩、三国、美波、鐘崎、壱岐、天草が挙げられる。
※2、答志島のランチツアー 島の旅社推進協議会:https://www.shima-tabi.net/index.html
※3、海女さんが体を休める場所。相差かまどHP:https://osatsu.org/
※4、古民家・海女の家 五左屋HP:https://osatsu.org/gozaya/
※5、答志島、相差の取材はまた別途行こうと思っています。


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