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違法漁業からの守り方(SDGs14.4その5~海の豊かさの守り方4-1)令和改正漁業法

密漁と取締のいたちごっこはとどまることがありませんでした。このままでは真面目に漁をしている人が苦しめられ、悪いことをしている人だけが私腹を肥やしていく一方です。このような国や漁業管理機関の許可なくまたは国内法や国際法に違反して行なう漁業のことを「違法漁業」(Illegal)と言います。そこで政府も乗り出しました。2018年12月14日、日本の海が変わりました。それが令和改正漁業法です。

抜本的な改革で、条文の第1条から変わっていきました。旧条文が

漁業法 第1条 (令和改正漁業法)

「この法律は、漁業が国民に対して水産物を供給する使命を有し、かつ、漁業者の秩序ある生産活動がその使命の実現に不可欠であることに鑑み、水産資源の保存及び管理のための措置並びに漁業の許可及び免許に関する制度その他の漁業生産に関する基本的制度を定めることにより、水産資源の持続的な利用を確保するとともに、水面の総合的な利用を図り、もつて漁業生産力を発展させることを目的とする。」

ちなみに旧漁業法 第1条は

旧漁業法 第1条 (昭和漁業法)

「この法律は、漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によつて水面を総合的に利用し、もつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的とする」

とあります。小難しく言ってますがつまり、「水産業を商売として発展させよう」から「真面目な漁業をして、海の生き物を未来に残しましょう」となったのです。

特に注目するべき変更点は次の3つ。
(1)魚を獲っていい限度を決める。
(2)きちんと漁業に貢献している人に漁業権を許可する。
(3)密漁などへの罰則の強化

令和改正漁業法

図1 水産庁水産政策の改革について
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-18.pdf

では、それぞれ見てみましょう

(1)魚を獲っていい限度を決める。

日本は魚に恵まれた国です。かといって取りすぎてしまったらどんどん魚は減ってしまいます。そこで魚別に1年間で獲っていい上限を設定する制度を作りました。それが漁獲可能量制度、通称TAC(タック)制度と言われるものです。実はこのTAC制度、1996年から行われていて、(※1)その対象魚種としては2021年9月時点では、8種類(※2)。すごく少なく見えますが、魚の生態を掴むのは非常に難しいのです。しかし、この改正漁業法によって調査対象が50種類から193種類まで増やし、今までのところ2023年までに11種類、2023年にはさらに4種類追加されることになっています。

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図2、TAC魚種拡大に向けたスケジュール(案)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/attach/pdf/210323-5.pdf

そして、本題はここからです。今までのTAC制度であれば、上限までは無差別にとっていいわけで、スタートダッシュでいっぺんに獲ろうとなるわけで、1人でやっているおじいさま漁師には旨みも何もなかったわけです。そこでTACをもとに1隻で取れる限界値をそれぞれの船に割り当てる制度をつくりました。これが漁獲割当制度、IQ制度です。これはヨーロッパが行なっている制度なんですが、いろんな魚がいる日本でピンポイントで制限するのは難しい状況です。未だにしっかり根付いていません。でもこのIQ制度が機能し始めたら、海は豊かになっていくでしょう。


(2)きちんと漁業に貢献している人に漁業権を許可する。
今までは漁業権を持ちながら実際の漁には出ずに配下の漁船に魚を獲らせて、利益だけをもらっている羽織漁師というのがいます。そこで政府は汗水垂らして真面目に魚を獲る人たちに漁業を営む権利をあげることにしたのです。ここまではいいのですが、さらに地域の水産業に貢献する人にも漁業権を渡すとしたのです。これには賛否両論色々あるのですが、海の現場に根ざした改革で、現場の人にこそ還元してほしいです。


(3)密漁などへの罰則の強化
そして最後に密漁対策です。今まではナマコの密輸などは、見つかれば200万円の罰金か3年の懲役だったのですが、今回は罰金3000万円までに膨れ上がりました。密漁品は1kg数十万円と稼げるため、2、3回どころか1回でももとを取れる金額でした。2018年には密漁で捕まった件数は1556件。この日本の広い海でもこれだけ捕まっているのです。儲からないなら危ない橋は渡らないと考える人も増えるでしょう。

この改正はまだ始まったばかり。まだまだ課題もいっぱい残っていますし、きっかりきっかり取り決められるのは漁師の醍醐味を削ってしまうようにも思えてきます。でもこうでもしなければ、陰で悪いことをして、真面目な漁師の利益を吸い上げている犯人を捕まえられないのです。法を破ったって大したことないぐらいの法律ではいみがないのです。現場の批判が出てくることをわかった上で、なかなかメスの入れられなかった漁業の問題に国も正面からぶつかってくれたのは大きな一歩だと思います。


※1、1983年、日本は国連で前年に採択された国連海洋法条約に署名した。1994年の同条約の発効によって、日本も1996年に批准。これを受けて海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(TAC法)が成立する。
※2、TAC魚種の選定条件は、
・漁獲量が多く国民生活上重要な魚種
・資源状況が悪く緊急に管理を行うべき魚種
・日本周辺で外国人により漁獲されている魚種
とされており、2021年現在8魚種とされている。対象魚種は、くろまぐろ、さんま、すけとうだら、まあじ、まいわし、まさば・ごまさば、するめいか、ずわいがに

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