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【第二十八回】           何者にもなれなかった50男の物語

少し仲良くなったころ
ぼくは彼女を食事に誘ってみた

初めての店は普通のイタリアン

でも彼女はそういう店が初めて
らしく緊張していた

ほどなくしてぼくらは結婚した

この時ぼくは貯金どころか
多額の借金があり妻の貯金に
お世話になることになった

散財していた時代の浪費癖は
抜けなくて生活ぶりは相変わらず

借金あるのに高級な外食店へ
行ってたので妻の貯金もすぐ
底をついてしまった

独身が長かったぼくは宵越しの
金は持たないというありさま

生きている今この瞬間こそが
自分の全てだった

お金はあればあるだけ使って
しまうその日暮らしは結婚後も
変わる事はなかった

女性は結婚に経済力を求める
パターンが多い中妻はよくこんな
自分を選んだものだと今でも
不思議に思うときがある

仕事もせずにぶらぶらとしている
わけにもいかないので思い腰をあげ
就職活動をしようと思ったけど
バブル脳のぼくは就職なんて楽勝!

とたかをくくっていた

とりあえず昔付き合いのあった
社長に会い仕事を探していると
話をしてみたが時代は不景気

簡単に採用されると思っていた
けど結局バイト扱いとなった

バイト生活は気楽でいいが朝晩
規則正しく通勤するのが実は
一番いやだった

ぼくのようなだめ男は一般的な
サラリーマンがやっていること
すらまともに出来ていなかった

そのうち社長から東京へ行って
くれないかと打診された

会社はとうとう都内に進出する
らしく東京生まれのぼくに白羽
の矢が立った

地方の人は中々地元を離れたく
ないという人が多いらしい

ぼくは二つ返事でOKしたが
新婚早々妻と離れ離れになる

ぼくは築50年のボロい社宅で
寝泊りを始めた

画像はイメージです

社宅にはもう一人独身の主が居て
彼と二人で電気湯沸かし器の
シャワーを使っていたが二人で
使うといつも最後は水になった

あまりにひどい環境なのでぼくは
しょっちゅう近所に住む友人の家
に泊まりに行っていた

社長は新婚のぼくらに気を使う
はずもなく家賃かからないから
いいでしょと言う始末

そのくせ自分は東京に出張に
来ると寮で寝泊まりしていたが
近所の銭湯に行っていた

耐えきれなくなった妻を東京へ
呼んでボロ家を出ることにした

都内は家賃もそこそこかかり
ワンルームでも10万クラス

築浅だし駅からも近いそこで

やっと
妻との新婚生活が始まった

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