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【第二十五回】何者にもなれなかった50男の物語

それから取引先と現金での
付き合いが始まった

相変わらず商売は順調だがお客は
酒癖が悪かった

ウチで飲みなおしになって早く寝て
くれと祈りこめグレープフルーツ
ジュース1滴のブルドックを
作っても全然倒れなかった

毎晩そんな感じの接待に社員は
ストレスがたまっていた

ウチの幹部社員は当時リビング用に
買った75インチのソニーに酒瓶を
投げつけ壊してしまった

ビジネスは好調だったがメンタル
と肝臓はホスト級にぼろぼろ

取引先の社長は数字が読めない
ぼくに教えようとしてくれてた

それなのにぼくは勉強すること
から逃げ出してしまった

決算書めんどくせぇ

そう思ったぼくは営業用スマホの
電源をオフにし社長を無視した


現地で付き合っていたメーカーと
の付き合いは暫く続いたけど
新しく知り合った台湾人社長と
付き合うようになっていた

中国人は共に食事をして酒を
酌み交わすことで信頼関係が
作られる

中国語でいう乾杯はその字の
通り杯を空けるという意味で
「乾杯」と言ったら全部飲む
のが中国の基本的なマナー

ぼくはメーカーからすると客人
扱いになるのである日メーカー
の創業祭に呼ばれた

創業祭は全工員が円卓を囲み
すごく盛り上がっていたが
突然社長がスピーチしてくれと
無茶ぶりしてきた

突然で何を言ったらいいのかも
わからず全工員の前で中国語で
スピーチすることになった

大体ぼくは人前で話すのは苦手

なんとかスピーチを終わらせ
ホッとしたがきっと工員は目の
前のご馳走に夢中でぼくの話
なんか聞いてなかっただろうな

それからが大変だった

メーカー幹部や工員の有志が
代わる代わる乾杯に来る

酌み交わす酒は白酒という
度数が38度以上あるもの

若さにまかせ勢いでどんどん
ショットグラスを空けた


ぽちゃん....

ぽちゃん....

なんだこの湖は?

白酒クセ―湖だな

目が覚めるとぼくは寝ながら
白酒をもどしていた

ほとんど食べずに乾杯していた
ので吐いたのはほとんどが白酒

どうやら運転手が倒れたぼくを
抱え家に送ってくれたようだ

当然ぼくは全然記憶がない

当時仕事で使っていたグッチの
黒いトートバッグの中も大量の
吐しゃ物で汚れていた

気に入っていたがこれは捨てる
しかないな

そして布団

これは洗濯しようと洗濯機へ
放り込んだが結局吐いたものが
詰まって洗濯機も使えず

マンションは一階だったので
そのまま窓から外へ汚れた布団
を投げ捨てた

そのうち清掃業者が持って行く
のでそのまま放っておいた

そして洗濯機を買い替えバッグは
帰国した時大黒屋で中古のLVを
購入した

中国で「乾杯!」と来た時は
「随意」と言って逃げるのが
お約束

今の事業に飽きていたぼく

今度は潤沢な資金を使って中国で
飲食チェーンを作りたかった

留学時代に食べたローカルフード

広大な中国全土に張り巡らす
マーケットに夢は踊った


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