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鳥のフン

私は小さい頃から鳥のフンの被害に遭っていた。

鳥のフンが落ちてくる確率はかなり低く、
それ故に運がつくということで幸運だという。

しかし私は言いたい。

それならば過去に50回は落とされている私は、
とっくに億万長者じゃないかと!!

私はそれはひどい被害だった。

覚えている記憶では、
小学校の頃だった…。

その日は外の授業があり、
校庭でみんなで集まって何かをしていた。

私が腕を上げると、
手の甲に鳥のフンが落ちてきた。

「きったねー、みんな逃げろ!!」

と、同級生に傷つくような言葉を言われ、
私の周りからみんなが離れたのを覚えている。

その時私は、
なんでこんなタイミングで落ちてくるのだろうかと悲しくなった。

それから信じられないようなタイミングがずっと続くことになる。

校庭のうんていを渡っていたら手にビチャッ!

登校中に肩にベチャッ!

中学では乗れない自転車通学で、
頭やカバン、制服や自転車のサドルなどにビチャビチャ付いていた。

高校ではバス通学だったので、
比較的少なかったが、
それでも待ち合わせしたかのように外に出れば落ちてきた。

それは大学に入っても続いた。

アパートから出たらビチャッ。

スクールバスを待っていたら、
長蛇の列なのに私の頭にビチャッ!

バスのおじさんたちも、
哀れな顔をしていた。

そのため帽子をかぶって対策をすることになった。

私が帽子好きだと言っていたのは、
頭をフンから守るためだったのだった。

ある日、
私のアパートの窓の柵に、
見慣れない鳥がやってきた。

「あらキレイ」

飛んでる鳥は苦手だが、
見ているぶんには嫌いじゃない。

その鳥は真っ白で、
確かどこかにブルーのラインが入っていた。

その日からその鳥は毎日来るようになった。

私は餌付けしようと、
柵の上にちぎったパンを定間隔で置いておいた。

次の日見てみると、
全部なくなっていた。

食べてくれたんだと私は嬉しくなり、
またちぎったパンを柵の上に置いてみた。

そしてまた次の日にはなくなっていた。

それを何日かしたとき、
私はその瞬間を見たいと思い、
待つことにした。

もうすでに飼っていると思っていた私は、
可愛い鳥の食べている姿を一目見たかったのだ。

私の住んでいたアパートは古く、
カーテンではなく障子だったので、
障子に穴を開けてその時をジッと待っていた。

しばらくするとあの鳥がやってきた。

すると衝撃の行動をした。

私が置いておいたパンを全て蹴り落としていったのだ。

「ま、まさか!!」

私は2階から下を見下ろしてみた。

そこには悲しいほどのちぎれたパンの残骸が1週間分散らばっていた。

「あのヤロー…」

私は勘違いをしていた。

あんなに可愛い顔をして実は悪魔のようなヤツだったのだ。

やはり鳥は私にとって宿敵なのかもしれない。

そう思うようになっていたある日、
窓からドンドンと叩く音がした。

私は怖くなった。

引っ越してから毎日金縛りにあい、
お姉さんと男の子の霊が住み、
鳥のフンの被害にも遭い、
鳥には冷たくされ、
それに加えて今度は泥棒でも入るのだろうかと絶望さえも感じていた。

その日からその音は毎日のように早朝に鳴り響いた。

ある日、
勇気を出して以前穴を開けておいた障子から外を覗いた。

するとなんということだ!!

あの白い鳥がいるではないか。

そして、なんということだ!!

あの鳥が窓をドロップキックしているじゃないか!!

私は震えた。

一体何をしたというんだ。

そりゃ私は卵と鶏肉が大好きで、
飲み屋では唐揚げと焼き鳥ばかり食べているが、
そこまでされる覚えはない。

それから近くにいる鳥をよく観察してみると、
ジッと見られていることに気付いた。

早朝にごみ収集場で漁っているカラスも、
私がその横を通るときには漁るのをやめ、
私をジッと見ていた。

私はますます怖くなった。

その頃には精神的不安がひどくなり、
毎日大きなリュックに、
着替えや食料、暑さ寒さ対策用品、身分証明書、印鑑などを持ち歩いて、
いつでも帰れない状況を予測していた。

鳥がいる場所は動けなくなるので、
いなくなるまで帰れない。

だからしょっ中帰りが遅くなっていた。

それは引っ越しても続いた。

何度引っ越そうがそこにはいつも鳥がいて、
まるで私を見張っているかのようだった。

ある日、あまり会話をしない父が実家へ帰っていたとき車で送ってくれた。

そこで亡くなった祖父の話になった。

祖父は昔から色々と起業したそうだ。

その中で、
養鶏の仕事もしたそうなのだ。

その当時、
今で言う鳥インフルエンザが流行し、
元気だった鶏たちを殺処分しなければならなくなった。

何百羽飼っていたのかは忘れたが、
祖父は全て殺処分して会社をたたんだ。

ん、待てよ?

もしかしてその恨みが代々引き継がれているのか?!

それなのに私は死ぬほど卵と唐揚げと焼き鳥を食べているから恨まれているのか?!

そう思うとなんだか申し訳ないと思った。

鶏からしたら、
元気なのに、
もっと卵産めるのに、
殺しやがってと思う。

私は心の中でそのことをお詫びした。

そして、
ありがたく食べることを誓った。

これできっと、
あの鶏たちも鳥たちも、
私を許してくれるだろう。

これで普通に歩けるだろう。

そこに気づくまで長い時間がかかった。

気持ちはとても晴々しくて、
私はついに帽子をかぶるのをやめた。

そしていつのまにかリュックもやめていた。

今日から鳥たちに感謝をしながら歩こう、
そして上を向いて歩こう。

そう誓った矢先、
私の足にはフンが落とされていた…。





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