あの時、富岡町から避難した名もなき一人の町民の私が映画『Fukushima50』を見た感想を書いてみる
2020年3月11日。しばらく前から悩んでいた。この日、見ることに意味があるんじゃないか。
『Fukushima50』
イチエフの原発事故を題材にした物語で、富岡町でもロケが行われた映画だ。
でもきっと泣いてしまうだろう。映画館で声を上げて泣いてしまうかもしれない。でも平日だからそんなに人もいないか?でも、万が一、パニックの発作が起きたら?
当日の朝まで悩んでいたけれど、穏やかな天気も手伝って、午前中に15:10上映回の予約を入れた。予約を入れたからには見るしかない。ラッキーなことに今日は水曜レディースデー。
手前の雑貨屋で、涙用のハンドタオルを買った。
そして開始10秒で、今日見たことを後悔することになる。
映画は、2011/3/11の14:46からスタートする。いきなり大地震のシーンに全身が硬直して思わず耳をふさいだ。
率直な感想は幼稚な言葉しか出てこない
率直な感想としては、原発事故のことを追ったこの映画が見れて良かった。
正直、当時の情報はデマも多く、それ以上に偏った意見で塗り固められた情報しか入ってこなかった。知りたかったのは、何が起きて、どうなっているかという事実なだけなのに、ただでさえ避難生活中で心身共に疲れ切った状態で、原発事故のことを追うのを途中からやめたのだ。
だから、今改めて、時系列で、イチエフで何が起きていたのかを知ることができて良かった。
もちろん、事前に見た感想などを目にする機会もあって、やはり色々と批判もあるらしい。実際はそうじゃなかったとか、そんなことありえない、など。
ただこれは映画であって、映画の本質はエンターテインメントにすぎない。
もちろんエンターテインメント(娯楽)という言葉を使うのは不似合いなデリケートな題材なのだけれど、これは前置きとして映画が全ての真実ではないということを、観る人は頭に入れておかなくてはいけない。
今までも過去に起きた出来事や事件などを取り扱った作品は数多く存在する。東日本大震災のこともある。原発事故で避難した人の視点のストーリーもある。
ドキュメンタリーではなく、ドラマとして、事実を縁取り、人間を描いた作品として見てほしいと思った。
ある記事で見かけた言葉で、映画とは、自分に答えをくれるものと、自分になにかを問いかけるものの、2種類存在する。と。この映画は、私にとってまさに両方であった。
声を上げて泣きそうだった
上映中はずっと緊張状態だった。
地震、津波のシーンは、恐怖がフラッシュバック。ちゅうそう(中央操作室=中央制御室)にいる人たちの心情、吉田さんの気持ち、避難所で待っている家族の気持ちも重なるものがあり上映時間の80%はずっと涙が止まらなかった。
とりわけ、涙腺が崩壊したのは、ベントを行う決死隊の2巡目。
ふたりが死んでしまうかもしれないと想像した伊崎(佐藤浩市)に、大森(火野正平)が水を差しだすシーン。
伊崎の極限まで追い詰められたメンタルは、観客として感情移入をしていて、そこに、ふと緩和された一瞬、これが泣けて仕方がなかった。
そしてその直後に、矢野(小倉久寛)と工藤(石井正則)が戻ってきたシーン。無事に戻ってきたけれど、高線量を浴びてしまった二人が、もう一度いかせてください、すみませんでしたと泣きながら叫ぶのだ。
この日本において、民間企業で仕事をしていてそんなことありえますか?!
このシーンに限ったことではないが、そういう命をかけた覚悟のシーンがたくさんあり、私のマスクはびじゃびじゃに濡れたのであった。
とにかくリアルな映像と音に魂が揺さぶられる
当時の本当の映像ですかと驚く。津波も、イチエフの敷地も、原子炉建屋の内部も、爆発も。
パンフレットに制作のインタビューも掲載されていて読んだけれど、現代の映像技術はここまできたんだと。
・・・といつの時代も、ハリーポッターを見たり、スターウォーズを見たりして、その時々で驚いているんだけど。
そして、それを表現しようと思うに至るこの映画にかける制作陣の想いも熱かった。
これは映画を見てもらわないと伝わらないので、本当に見てほしい。
心に残ったシーン
とにかく上げればきりがないぐらいなのだが3選。
トモダチ
伊崎とジョニーが、最後に避難所ですれ違い、一言ずつ言葉を交わすシーン。子供のころに遊んだことがあるなんて思いもしないだろう。この最後の伏線回収に泣いた。
俺たちはなにが間違ったのか?
本っ当に、吉田所長役の渡辺謙さんと伊崎当直長役の佐藤浩市さんが素晴らしかった。この二人で良かった。モニター越しで映る渡辺謙さんに吉田所長の面影が見えて驚いた。
トイレで、吉田所長と伊崎が会話をするシーンのこのセリフ。
泣いた。
夜ノ森の桜並木
事故から2年後の2014年春に、伊崎が訪れる。帰還困難区域に指定されているその場所には通行証をバリケードで見せて車で入場するシーンもきちんと描かれていた。
富岡町のふるさとの風景。満開の桜並木。
そこで、前年に亡くなってしまった吉田所長からの手紙を読む。「なにが間違ったのか?」の答えがそこに。
少し年老いた伊崎。桜を見上げるその表情に、泣いた。
この映画の最後にふさわしいシーンだった。
夜の森桜並木の撮影の日に、夜の森にいた
さて、この最後のシーンに出てきた夜の森の桜並木。
この撮影の日に、夜の森にいたのである。いいや、私は桜の時期になると、夜の森で写真を撮るのがライフワークだったので、その日、行ったらロケをしていたのであった。
いつもの場所にむかったら、車を停められてしまい、この先の奥でロケをしているんでと言われた。
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