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連載 ロックのヒット曲が出なくなる史(5) 低迷後、また上向きにはなりつつある2020年代

どうも。

連載、「ロックのヒット曲が出なくなる史」、今回が最終回となります。今回はズバリ、2010年代の後半から、まさに現在まで語ることにしましょう。

2015〜16年という年は、もうロックにとって最大の危機の年でした。この年に、ビルボードの集計方法がガラリと変わって、ストリーミングをメインにしたチャートに変わったんですが、これがロックにとって大打撃でした。これ、やられてしまったために、ロックが全く流行らなくなってしまったんです!

 これは、ロックのマーケット的弱点を示された形となりましたね。これによってチャートが、「何枚買われるか」ではなく、「どれだけ消費されるか」、つまり「どれだけ聴かれるか」に代わったんですよね。

 どういうことか。つまり時間も音楽への情熱もある若年層に圧倒的に有利になるんですよね、そのやり方だと。だって若い人、何回もリピートして聴くでしょ?それがさすがに大人になると、そうはいかない。そりゃ中には熱心なリスナーもいますけど、そういう人の割合って年をとればとるほど少なくなるのが自然じゃないですか。

そしてここで、ろっくがもはや若いリスナーに聞かれなくなってしまったことが露呈されてしまうんです。連載の3回目の時に言いましたよね。「エモブームを過小評価したのが痛かった」って。だって、あれこそが10代が最後にロックを聴いたムーヴメントでしたから。あれがなくなって、リスナー層の年齢が上がってしまったんですよね。インディ・ロックだって元来、ティーンのあいだで聴く人は少なめで大学生入ってから聴く人が増え始める音楽ですからね。

 というわけで、本当にロックのヒットが出なくなります。それにひきかえ、R&B/ヒップホップは絶頂を迎えてたんですよね。ケンドリック・ラマー、ビヨンセ、フランク・オーシャン、ソランジュが歴史的傑作出して、チャート的にもウィーケンドとかドレイク、フューチャーあたりが圧倒的に強い時代だったじゃないですか。あのとき、ロックのリスナーもかなりそっちに奪われたんですよね。未だに帰ってこれない人、残念ながら僕も知っってますからね。

①THE 1975に見る、「インディロックの音の多様化」の可能性

 あの当時、唯一の救いといえば、この人たちでしたね。

https://www.youtube.com/watch?v=hXaU0QzByIM


The 1975ですね。2016年のセカンドアルバムの諸々のシングル聴いてびっくりしましたもん!「なんで今のご時世に、プリファブ・スプラウトとかインエクセスを手本にしたようなバンドが出てくるんだ!」ってね。

これ、すごい新鮮だったし、こういう刺激こそを僕は求めてたんですよね。これ聴いて「ああ、やっとヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかジョイ・ディヴィジョンとかペイヴメントみたいじゃないバンドがインディで出てきたんだな」と。

彼ら、欧米のインディ・ファンで理解できない人、多いんです。それは彼らのリスニング・ルーツに、さっき言ったような要素を通ってる人が少ないから「単なるポップ」にしか聞こえないんです。ただ、日本って80sの音楽の聞かれ方が細かくて、プリファブ・スプラウトみたいなソウルフルなソフィスティ・ポップ、結構聞かれてたんですよね。あとAORも強い国だから、洒落たソウル・テイストには理解があって。そこが理解されてるから日本、1975は大人気なんですよね。

 あと、似た傾向がテイム・インパーラの曲にもあって。やっぱり、インディロックのルーツの部分にもっと多様性が求められる時代になったんじゃないかと思うし、そこを拡大することがロックが永らえる時期だと思うんですよね。実際、日本、このあとくらいから明確なシティ・ポップを今の若い邦楽アーティストがやって一代メインストリームにもなったわけですからね。やっぱ、リンクするものはあるんですよね。

②ビリー・アイリッシュ以降に見る、サッド・ガールズたちへのロック拡大の可能性


 そして、THE 1975の次に、「これはロックにとって大きいな」と思ったのがビリー・アイリッシュでしたね。

そして、2019年のビリー・アイリッシュのブームのときに、さらに新しいロックの可能性を感じましたね。

彼女の場合、今現在も「ロックなのか違うのか」と言われがちなんですけど、僕は含むべきだと思います。例としてはブレイク時にデイヴ・グロールが「ニルヴァーナのブレイク時にすごくよく似てる」といった話があるんですけど、あれがどういう意味かがわかれば、納得するはずです。

 僕の解釈はこうです。「ヒットチャートの上位の中に明らかに異質なものが混じっていて、それがすごく悩めるタイプの人たちにとってのカリスマみたいになりえるもの」

ロックって、その側面、ずっとあるじゃないですか。ドアーズとかボウイとか、スミスとかキュアーとか、ニルヴァーナやレディオヘッドだってそういうとこがある。それの女の子版がとうとうわかりやすく出てきた、ということです。

 「フィオナ・アップルとかラナ・デル・レイに似てるな」と最初思ったんですけど、それが社会現象のレベルになったことでようやく一般認知されただけの話なんだと思ってます。

 その需要が出てくるのもわかるんですよ。それが今、女の子に、というのも。女の子の場合、2000sからすごくマスに受けるセレブ・アイコンたくさん出ましたよね。ビヨンセ、リアーナ、ケイティ、ガガ、テイラー。みんなエンパワーするタイプのスターですけど、「彼女たちが自分たちの価値観を代表するわけではない」と感じている女の子、たくさんいると思うんですよね。そんな女の子の心情を象徴するのに、インディ・ロックの需要が出てきてる側面があります。

フィービー・ブリッジャーズ、ミツキ、クレイロ・・。こういう女の子のインディのアーティストが人気出てくるようになりましたけど、彼女たち「サッド・ガールズ」って呼ぶ動きあるんですよ、実際に。

これにラナ・デル・レイにパラモアのヘイリーに、もちろんビリーに・・・ってとこですよね。20数年前にカート・コベインやトム・ヨークにあった需要が今、女の子の方に切実にやってきているところはあると思います。

③放送でも、批評でもなく、tik tokがロックの流行を作る時代に!


そして2020年代に入って、ロックに思わぬ追い風が吹いてきます。それがtik tokです!

 もとは、短い動画に曲をつけるところからはじまっった、いわゆる「遊びのアプリ」のわけですけど、その中からまさか世界を代表するヒットが出ることになるとは誰も想像しませんでした!

オリヴィア・ロドリゴ、グラス・アニマルズ、マネスキン。いずれも2021年に突如として国際的なヒットを飛ばしましたよね。もう、いずれのケースも、何の前触れもなく、突然、tik tokで楽しまれているうちに火がついて、その輪が一気に世界に広がりましたよね。

その中でもマネスキンの存在は、もう完全にシーンに抜け落ちてたものを改めて気がつかせてくれたというか。ちょうど、2016年にデヴィッド・ボウイとプリンスの他界があってロックにポッカリ穴が開き、2018年に「ボヘミアン・ラプソディ」の映画が世界的に特大ヒットとなることで、ああいうクイーンのようなロックスターが今いないことを改めて痛感させられるつらさがあったところに、マネスキンがタイミングよく入ってきたんですよね。「ああ、ロックバンドにやっぱ、華って必要だな」ということを、今まさに多くの人が実感してるとこですね。

 この効果が今後どうなるのか。マネスキン本人も含めて、その行方が楽しみです。

④少しずつ多様性に可能性を見せつつある20年代のロック


 そして、ここのところ徐々にですけど、いろんな方向性からロックの復興を感じさせる動きがやっぱ出てきてますよね。

2022年の今年にtik tok経由で「Bad Habit」が全米1位になったスティーヴ・レイシーだとか、アーロ・パークスだとか、黒人で、クィアで、といったタイプのアーティストがインディ・ロックにもカウントされる形で出てきてることですね。アーロモR&Bってよりは、さっき言ったサッドガールの文脈で解釈されてますね。フィービーに可愛がられてるのをはじめ、その界隈での共演も多いですしね。

ある時期、ロックから本当にいなくなっていた、ちょっとやんちゃな少年少女にフレンドリーなタイプのロックが戻ってきたのもいい傾向だと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=Zd9jeJk2UHQ

UKロックがかなり再活性化してきてるんですよね。かなり無視できないレベルで。それもいろんな方向性で、それぞれに成功しそうな感じで。ここのシーン見てるだけでも充実してて面白いくらいですからね。ロック好きな方は絶対無視しないほうがいいと思います。

⑤スーパースターたちも意識し始めた


あと、決定的だと思わせるのが、いわゆるスーパースターたちがここ最近のロックにかなり接近しはじめてることですね。

それをいち早く実行に移したのがハリー・スタイルズですね。オープニング・アクトにアーロ・パークス、ミツキ、ウルフ・アリスを起用し

彼自身も、これも前座起用したWet Legの「Wet Dream」のカバーを披露したりしています。

ハリー自身の音楽性も、もう立派にインディ・ロックですよね。


テイラー・スウィフトも来年のツアーでのオープニング・アクト、パラモアやフィービー・ブリッジャーズ、HAIM、ガール・イン・レッドとかですからね。

 彼女自身、最近はプロデューサーに、サッド・ガールズ系な人たちを一手に引き受けてるジャック・アントノフだったり、ザ・ナショナルのアーロン・デスナーだったりと、かなりインディ・ロック寄りのアプローチをしてうるようになってますからね。合流してきているイメージはありますよね。

 こう考えると、ロックの将来に関してネガティヴに思う必要ってないんですよね。あとはいかに、アメリカで国産のバンドが流行って、また若い子がバンド組むようになるか。そこにかかってるような気はしてますね。やっぱ、あの国でその勢いがつかないと、元気ないように見えてしまうのは悔しいけど事実ではありますからね。













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