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「生きのびるために/The Breadwinner 」 アフガニスタンとタリバンを改めて知るために

どうも。

今日はこういう話をしましょう。

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つい先日、テロ組織「タリバン」がアフガニスタン政府を武力制圧し、そのニュースが全世界をかけめぐり、世界を震撼とさせましたよね。

  タリバンの名前というのは、2001年の911に、タリバンがビン・ラディンをかくまっていたことでアメリカがアフガニスタンに攻撃を仕掛け、以来、米軍が駐留していたことで知られているかと思います。

 ただ、普段、中東のことを意識しないと、アフガニスタン自体、こうした件以外で知名度のある国では決してないし、タリバンの恐ろしさも普段忘れがちでもあります。

 今はそういうタイミングだからこそ

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この「生きのびるため(原題「The Breadwinner」)」というアニメを見ることをぜひおすすめしたいです。

 この作品ですが、2018年のオスカーの長編アニメ部門にもノミネートされておりまして、その内容から、オスカーに限らず、当時の映画賞レースの際によく名前があがる話題作として知られていました。僕も存在は知っていたんですけど、この当時「見逃したなあ」と思っていたところ、このタイミングで「ネットフリックスで見ることができる」という情報を教えていただいてみることができた次第です。

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話はこんな感じです。ヒロインのパヴァーナは11歳の少女。家計は苦しく、お父さんと一緒に道でものを売って生計を立てています。また、この行為は、タリバンの支配の中、女性が男性を伴わないと外に出れない中、精一杯の外出でした。

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パヴァーナの家は教師だったお父さん、作家だったお母さん、お姉さん、弟のザキで暮らしていました。お父さんは、乱世の世の中であろうが教育や文学の必要性を説く人でした。

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しかしお父さんは、娘に教育を与えていた罪で逮捕され、監獄に入れられます。

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一家の家計の担い手を失い、女性だけが残されたことで外出できず、一家は危機に立たされます。まだ幼いザキにも家族が不安な状態に陥っていることは察知できました。そんなザキに対してパヴァーナは

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自分の作った冒険少年の話を読み聞かせます。その少年は象の悪魔に対して果敢に戦いを挑む勇敢な少年でしたが、この話がザキの話を和ませ、「話の次を聞かせて」とせがまれるようになります。

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そしてパヴァーナは、「自分が男になれば」と思い、髪をバッサリ切ります。家の中には、若くして亡くなった彼女もよくは知らない兄の形見の服があり、彼女はそれに着替えて外出するようになります。

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するとパヴァーナは、自分と似た境遇で男装しているデリワーという少女と出逢います。デリワーは自分の経験値をパヴァーナに教え、金をどう効果的に稼ぐかを学びます。

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やがて、けなげに路上で物を売り続けるパヴァーナにラザクという男性が近づいてきます。ラザクはどうやら監獄での事情に詳しいようです。パヴァーナは彼を伝に、お父さんのいる監獄に行く計画を立てますが、そんな中、パヴァーナのお母さんは市外へと脱出する計画を進行させ・・。

・・という、お話です。

タリバンに関してよく言及される、「女性蔑視がひどい」という話、こういうところでも端的にわかりますよね?

 女性蔑視に関しては「男同伴じゃないと外に出れない」だけでなく、女性への暴力描写や口のきき方も、まあ、これ、ひどいんですよ。

 さらに

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「知識や教養授けると罰せられる」というのも、こうした民主主義が育っていないところの大いなる問題です。

19世紀の黒人差別を描いた「それでも世は明ける」も、「文字が読める黒人が殺されかねない」危機があるわけですけど、為政者にとっては統治する対象が愚かであればあるほど楽なんですね。だからこういうことをするんですけど、こういう側面見てもタリバンのやり方は大いに問題アリです。

あと

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冒頭でアフガニスタンの悲しい歴史についても触れられています。この国はギリシャ帝国にもモンゴルにも支配され、国の自治というものが翻弄され続けているところなんですね。こうした境遇の中、国民が民主国家の樹立に向け動きにくくなっている宿命のようなものも感じさせます。

 この話なんですが、原作がありまして

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原作はこのデボラ・エリスという、カナダ人の作家が書いた児童小説です。

 これ、重要なのは、この本が2000年に出ていることです。

と言いますのは、2001年にときのブッシュ政権がビン・ラディンの身柄引き渡しをタリバンに求めて拒否されて軍事攻撃する以前なんですね。

 よく、タリバンに関して言えば、米軍駐留を右翼寄りの人があたかも共和党の手柄のように語りたがる人がいて、今回の武力制圧もバイデン民主党政権の失態のように言う人がいるものなんですけど、それに対して「引き上げそのものを提案したの、トランプじゃないか」と左翼寄りの人が反論して、話がこんがらがりがちなんですけど、この話はそういう「右か左か」のバイアスでこの件が見られる前に書かれたものです。見る人のイデオロギーがどうであろうと、そういうことに関係なく、アフガニスタンで起こっている現実はただただ絶望的。そのことを理解することが一番大事だと思います。

 彼女はこの話を世界中を旅行して、中東を訪れた際に取材を重ねた末に書いたとのことです。彼女はパヴァーナの話をシリーズで書いたりして、この道の専門家にもなっているのですが、タリバンから威嚇にあっているという話も聞いています。その危険まで冒して自信の文学表現を貫いているわけです。

 あと、僕がこの作品で好きなのは

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やはり、劇中話の存在なんですよね。よく、「苦しい境遇、現実のある中、娯楽なんて実用的でなく邪魔だ」なんて言う人、いますけど、これ見ると、それが逆なの、わかります。小説、映画、音楽。そういうものが失われた世の中がどんなにみじめなものか。そうした、一見、「必要ない」と思われるものが、どんなに人の心を豊かにするのか。この作品は、タリバンでの現実の他に、そうしたことも改めて訴えているから、なおさら愛すべきものになっています。

 そして、こうした話が、多くの人が知るべき、未知の世界や歴史への理解の扉にもなるわけです。いろんな話から何かを学ぶということは、やはり尊いことだと僕は思います。


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