沢田太陽の2022年間ベスト・アルバム 50〜41位
どうも。
今年もいよいよこの季節がやってまいりました。毎年恒例、沢田太陽の年間ベスト・アルバム。例年通り、今年もまた50位からのカウントダウンを5回にわたってお送りします。今日はその最初、50位から41位の発表です。
今年の50〜41位、こうなりました。
はい。素敵なアルバムばかりですが、早速行きましょう。
50.Supernova/Nova Twins
50位はノヴァ・ツインズ。イギリスの黒人女性2人がギターとベースを抱えてラップ・メタルを展開します。今年はアメリカでもヒットしたスティーヴ・レイシーとかd4vdとかウィロウ、黒人のロック表現が注目された年でしたけど、それを象徴する1枚として彼女たちを入れました。全体のイメージは20年位前にはやったニュー・メタルのラップメタルのリバイバル的な雰囲気が強いんですけど、やはりR&B/ヒップホップを習慣的にリアルに聞いて育っている分、白人がいきおいやりがちな「メタルの上にラップを乗っける」感じではなく、構造的にR&B/ヒップホップを吸収した上でメタルを絡めている点が興味深いです。あと、女性の立場から歌われるので差別的かつ排他的に陥りがちだったラップ・メタルのマチョイズムが薄まっている点でも好感が持てます。まだ進化させることが可能だとも思います。
49.How To Let Go/Sigrid
49位はシグリッド。ノルウェーのエレクトロ系女性SSWです。彼女は2018年に「Strangers」っていうかなりキャッチーな1曲で注目されてその年のBBCのSound Of(ブレイクする新人のバロメーター)で1位に選ばれたほど期待されてたんですけど、アルバム制作が1年遅れたりして勢い落としてました。ただ、このセカンド・アルバムではこれまでの天性のメロディメイカーぶりに加えて、サウンドに幅を持たせることに飛躍的に成長しましたね。全体的に70sのソウル〜ディスコの名曲エッセンスをしっかり構造的に体得出来ているのが大きいとは思うのですが、その一方でシングルにもなりました「Bad Life」ではなんとブリング・ミー・ザ・ホライゾンと共演。メタルとの融合をも試みるという、かなり大胆な手法も繰り出しています。まだキャラのアピール上物足らないところはあるものの、素材的にはかなり伸び盛りと見てよいと思います。
48.Crash/Charli XCX
48位はチャーリーXCX。チャーリーの場合、ヒットやツアーを狙ったタイプのポップなアルバムより、ミックステープだったり、個人的な内面に向けたタイプの作品の方が批評的にいい評価される傾向が前からあります。その意味で今作は、これを引っさげてのこれまで以上に大きな規模のツアーに向けた作品なので、どうしても曲が大衆向けに聞こえてしまって彼女のアルバムの中ではよく聞こえなくなるような傾向がリリース当初のレビューで多く見受けられました。実は僕もその一人です(苦笑)。だけど、いざライブのステージでこれらの曲聞くと今ひとつな感じは全然せず、しっかり代表曲っぽく聞こえるんですよね。「Good Ones」とか「Lightning」は長期で人気曲になりうる曲だし、カロリナ・ポラチェックやクリスティーンとの「New Shape」やリナサワヤマとの「Beg for You」も今の女性主体のエレクトロ・ポップの趨勢をうまく表現した曲だし。その意味で「今まで考えすぎてたかなあ」との反省をもとに今回入れてみました。
47.Faith In The Future/Louis Tomlinson
47位は元ワン・ダイレクションのルイ・トムリンソン。いわゆる年間ベストに入るタイプのアーティストではないんですけど、僕、アイドルとかポップなイメージの人が覚醒して本格派になるべく覚醒するアルバムみたいのを逃したくないタイプなんですね。これがまさに、そういうアルバムなんですよ。前から「ルイのライブはかなりロックだ」「ライブの前座はセンスのいいインディ系を起用」なんて話を小耳に挟んでて「へえ」と気になってたら、このソロ第2弾アルバム、思い切りUKインディ・ロック。ちょっとウェットな質感のギターロックだったり、ブロック・パーティみたいなエモいポストパンク調のものがあったり。今や社会現象的な存在になってしまったハリー・スタイルズより、作品のロック度だけなら、こちらの方が上なくらいです。それもそのはず、楽曲制作陣にはザ・ミュージックのロブ・ハーヴィーが4曲で関わってたりと、UKロックファンが見逃さない方がいい要素も実際にあるんです。この流れ、まだ続くとおもってます。
46.Actual Life 3(January 1-September 9 2022)/Fred Again
45位はフレッド・アゲイン。この人は久々に出てきた、フェスやヒットチャートにも器用に対応出来そうなスケールの大きなDJという感じがします。こここ最近の大型フェスで引っ張りだこでしたしね。この、「実録」と題した恋物語をベースにした少々下世話な感じもするアルバムも、そのポップさがウケたか、彼の本国であるイギリスやオーストラリアでトップ10入りましたしね。ただ、とはいえ、あのEDMブームの時みたいな無理矢理なアゲアゲで肝心なダンス・グルーヴが型崩れしてるようなことはないし、2022年のトレンドだったハウス・リヴァイヴァルにクールに対応できてたし、このアルバムには未収録だったんですけど、シングルでThe XXのロミーをフィーチャリングするくらいの趣味の良さはちゃんと示せているし。その意味では、インディ・ロックをベースに築かれていたフェスが本来推奨するべき正統派タイプのDJだと思います。その観点から、この人には期待したいとおもってます。
45.Guitar Music/Courting
45位はコーティング。こういう順位帯では、僕が本来好きな、まだ一般知名度のないタイプのインディのギターバンドを入れたいなとも思うんですけど、そこの枠に今年はまったのがリヴァプールを拠点としたこの4人組ですね。このバンド、いいのは「ギター・ミュージック」とあえて大胆にアルバム名に冠した、その自信っぷりですね。いわゆるXTCとか初期ブラーみたいな、トラディショナルなロウファイでねじれたタイプのUKロックをプレイしてるんですけど、ギターの音色がグリッチ・テクノのフィルター通したみたいな音、表現できるんですよね。ここ10数年、ギターの音色の行き詰まりがロックの停滞の要因のひとつだと思ってるんですが、ここに一つのヒントがありますね。ストロークスが「The New Abnormal」で示したヒントのライン上にはあると思いますが、それをうまく継げているというか。まだ若いし、今後の展開次第ではかなり楽しみです。
44.Reeling/The Mysterines
44位はザ・ミステリーンズ。この人たちもコーティングと同じくリヴァプールの生んだ4人組。このデビュー・アルバムは多少注目度がありまして全英チャートの9位まで上がっています。彼らは女性フロントのリア・メトカルフを主体としたバンドで、パッっと聞きはヘヴィなグランジ・リヴァイヴァルのタイプです。ただ、その一方でちょっと枯れた味わいが出せるところはニック・ケイヴ的なドス黒さも感じさせたりもします。このあたりのセンスが、彼らを来年のアークティック・モンキーズのヨーロッパ・ツアーのオープニング・アクトに抜擢させたのだと思います。まだ、ケラング!みたいなラウドなロックのメディアくらいしか反応してない印象がありますが、センス、楽曲の完成度ともに確実な実力があるし、フェスのシーズンにはすごく映える存在です。もっと注目していいバンドだと思います。
43.King's DiseaseIII/NAS
43位はNAS。彼がこの数年続けている「King's
Disease」のシリーズの第3弾。前作の第2弾はグラミーの最優秀ラップ・アルバムを受賞してますね。「惜しくもランク漏れしたアルバム」のところでブラック・ソウツとデンジャーマウスのこと語りましたけど、ズバリ言ってこのアルバムが抜いてここに入りました。同じ、オールドスクールの70sソウル・ミュージック風のトラックならデンジャーマウスのそれより、ビヨンセ/ジェイZ組のHit-Boyの方がまだ何やってくるかわからない意外性(トラップとかにも対応できます)があってトラックとしてより面白いと判断しまして。このアルバムは全曲Hit-BoyのトラックでNASがラップしてるんですけど、最近の、1曲1曲が細切れのヒップホップの悪しき(とあえて言う)潮流に慣れてると、「1DJ、1MC」のヒップホップ本来の基本形に立ち返ったような作りはやはり嬉しいものです。あとやはり90s最高ラッパーだったNASの完全復活は当時を知る人ならグッときます。00s、10s、パッとしない時期が続きましたからね。
42.Sound Of The Morning/Katy J Pearson
42位はケイティJピアーソン。この人のことはこの夏に初めて知ったんですけど、イギリス南部のブリストルを拠点とする女性シンガーソングライターで、このアルバムが2枚目になります。あまり気づかれてないんですけど、今、イギリスで飛ぶ鳥落とす勢いのプロデューサーのダン・キャリー、フォンテーンズDCとかWet Legとかスキッドとかやってる人ですけど、彼の手がけるアーティストのひとりで、その話題性も手伝ってか全英チャートでも41位まであがってて、それで僕も気になって聞いてみました。彼女の場合は触れ込みはフォークシンガーなんですけど、舌ったらずの高い声がすごくキュートにそそって、90sの頃のスウィンギング・ロンドン・リヴァイヴァルみたいなバロック・ポップ風の曲だったり、案外ストレートなインディ・ロックだったり、UKインディロックの範疇内での幅広い洒落た曲調に対応可能なんですよね。最近だとメトロノミーのシングルにもフィーチャーされてましたけど、声が立つんでエレクトロのフィーチャリングでも重宝されそうな感じもあって今後が楽しみです。
41.Smithereens/Joji
そして41位にJojiです。今年世界で大ブレイクした「日本のアーティスト」のひとりですよ。「Glimpse Of Us」のSpotifyグローバル・チャートの1位は本当に衝撃的でした。このアルバムも、その曲のイメージを踏襲したスローなオルタナティヴR&Bでしたね。彼の場合、前から「フランク・オーシャンになりたいのかな」と思わせるところがあって、それが及んでなく聞こえていたものなんですけど、ここではオーシャンほどの多彩なコード感やメロディ展開の域には達してはいないものの、それでもハーモナイズやコード感はかなり工夫して作ってあって、彼自身の語りかけるような歌声にも説得力が増しています。一部、「デモみたいな作りかけ」みたいな批判もあることはありましたけど、とりわけオーシャンの「Blonde」だったりエモ・ラップ以降はそういうラフな作り方が一つの路線でもあるから、そこを問題にするのもおかしな話でもあり。意外なところからシングルの方が批評より先行して当たった印象ありますけど、R&Bの一つの流れとしてちゃんと評価されて欲しいと思ってます。
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