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BADモード/宇多田ヒカル・・・傑作!今こそが本当の日本の音楽の牽引者

どうも。

昨日、僕のツイッターのTLはこれで覆われました。

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はい。宇多田ヒカルのニュー・アルバム「BADモード」です。話題ですよね。

 今回、僕も解禁のその瞬間から、このアルバム、待ち構えて聴きました。

というのはですね、僕、彼女に関しては、最近まで正直、「嫌い」だとか思ったことはないんですけど、そこまで強い興味を持って聞いたことがなかったんですね。それは、日本を離れて今年で11年になるんですけど、日本にいるとき、「インディ・ロック聴く人が好きなアーティスト」という印象が全くなかったから。僕の周囲でも、椎名林檎を聴く人というのは極めて多かったものですけど、宇多田というチョイスはあまり聞かなかったですからね。

 僕の場合はR&Bも聴くので、その観点から、「10代にしてはすごくよくできてるな」とかUTADA名義で国際デビューした際も「それなりの作品に仕上がってるな」とか「For Youとか光とか、たまに好きな曲あるな」とか、そういうことは思ってたんですけど、熱心に聴こうとはしてませんでした。

が!

 2019年にツイッターはじめて以来、僕のTLで宇多田、非常に熱いんですよね。しかも、普段、洋楽のインディ・ロック聴いてる男性に特に

 僕の人気記事になってる一昨年の「みんなで選ぶ邦楽オールタイム・アルバム」でも、まだ「First Love」が強くはあったんですけど、それでも複数のアルバムがむしろミスチルとかアジカンより高い順位にランクインしてたのを見て、「へえ、そういうもんなんだ」と驚いたんですね。それが最初だったかな。

 それからちょっとして、三択アンケートで、「邦楽オールタイム」の主催者の方が三択アンケートで「宇多田、林檎、aikoで誰が一番好き?」というのをやった時に、1位になったのが宇多田で、その次がaikoで林檎が負けたんですよね。これを見たときに「あっ、今のこだわって聴くインディのクラスタの趣味、シフトしてるんだな」と思って、そのときにかなり気になるようになりましたね。

で、今回のアルバムの前のシングルでも、出るたび喜んでる人が多くてですね。なので、「これは次のアルバム・タイミングで、全作リスニングやらないとな」と思って準備進めてたんですね。

で、そのマラソン・リスニングも、例えば「First Love」で「思ったより90s色濃厚だな。あの頃のリアルだな」とか「あの当時の日本人のR&B、声張る人がほとんどのところ、抜くことでかえって本場に近くなってるな」とかの発見があったり「Deep Riverでの和テイストはかなり新鮮だな」とか思いはしたんですけど

 えっ、この人、こんな風になってたの?!


って思ってびっくりしたのが、これでしたね。

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この2016年の「Fantome」ですね。ここで彼女、アコースティックの素描に近い、むき出しの表現になって、そこにほのかにエレクトロのリズムを添えるような作風にシフトしてるんですけど、スカスカした空間の隙間を使うことが巧みになったことで聞こえ方がガラリと変わったんですよね。ここを起点にして聞くと、これまでのサウンドが平面的な聞こえ方をするのに対し、ここから先の曲はすごく立体的でね。これ、驚いた人、多かったんじゃないかな。というか、この時、確かにこのアルバムは地球の裏でも聞こえては来てたのを思い出しました。

 加えてこのアルバムはゲスト選択の旬な感じだったり、加えてお母様との別れを描いたエモーショナルな作品でもあるので、やはりもつ意味重要ですよね。続く2018年の「初恋」も基本線はここに近いけど、より全作で導入したストリングスの使い方が上手くなったり、あの頃に洋楽で流行ってたトラップのヴォーカル・スタイルであるスコッチ・スナップス使ってみたり、さらなる進化を見せていましたね。

僕の今回のアルバム前に全作聴いた結果、ランク付けすると以下のような感じです。

Fantome
First Love
初恋
Deep River
Exodus
Heart Station
Distance
Ultra Blue
This Is The One

 やっぱり、「Fantome」以降が、あのデビューの際にハッと思わせてくれたことをしのぐ形でキャリアが進んでいる印象を受けましたね。

 こういうことを頭に置きつつ、アルバムへの楽しみを取っておく目的で、今回、シングルの曲はあえて事前には聞かずに「BADモード」に臨んだところ

・・・すごっ!

とにかく1曲めから3曲くらい進むたびに、予想超えすぎて思わず笑っちゃいましたね(笑)。

 今回のアルバム、より「うた」に力を入れていた前2作で目立っていたストリングスをUKのクラブ・サウンドに置き換えてますね。

 でも、「Fantome」で培った削ぎ落とした生身のサウンドはしっかり活かされてて、空いた隙間の中で、エレクトロのリズムとグルーヴが後ろから曲そのものの骨格、陰影を補強するためにジワジワ効いてくる感じですね。

 特にそれが強いのが「君に夢中」かな。空いた空間の中で響くピアノのリフが印象的なんですけど、それがだんだん進むうちにアンビエントの広がりが出てきて、電子音が細部に渡って蠢めくさままでが細かく聞こえるというか。

 あと、歌詞にしても、すごく柔らかい直接的な言葉になってて、それがすごく温かく響いてくるというか。この辺りはパンデミックの影響が濃いとは思うんですけど、テイラー・スウィフトの「Folklore」あたりとも近いと言えるかもしれません。でも、宇多田の方が小さなお子さん育ててることもあって、よりメッセージの向け方が家庭的でより内面に向いてる感じでもありますけどね。

 そしてエレクトロの電子音のチョイスの仕方にしても、かなり考えられた使い方をしてますね。音色そのものをかなり選んで使っているというか。言うなれば、自然音にも近い感じのもの。これがサウンドの骨格を成している、アコースティックな歌表現にすごく合ってるんですよね。

 あと、全体に音が削ぎ落とされているのに、それに反して音楽の情報量はすごく多い。ここも特徴です。それから、彼女の曲そのものの嗜好も、より普遍的な渋みが増してるというか。コンテンポラリーなアメリカのR&Bてきなものが皆無で普遍的なソウル・ミュージックに向かっているし。曲によってあ=はスティーリー・ダンみたいなものもありますしね。

 今回、彼女はプロデューサー陣に、PCミュージックの主催者でチャーリーXCXの共作者でもあるAGクック、前々作からの小袋成彬がメインではあるんですけど、今回最も大きいのは

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フローティング・ポインツですよ!


これ、驚きましたね。だって、フローティング・ポインツって言ったら

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去年、多くのメディアが年間ベスト・アルバムにあげた、この「Promises」ってアルバムをジャズの巨人ファラオ・サンダースとロンドン交響楽団と作り上げた人ですよ。僕の去年の年間ベストの12位です。

この人も、ジャズやクラシックのような他ジャンルに対応できつつエレクトロを展開するアプローチの取れる才人なんですけど、「普遍」「自然」と対峙させつつ未来的な音を志向できる意味で、宇多田とは波長があったのかな。彼が手がけた3曲がすごく意味を持っています。僕は「気分じゃないの」っていう6局目が好きなんですけど、やはりラスト、12分の大曲「マルセイユ辺り」はこのアルバムのトータルの構成と完成度を一気に引き上げてます。彼女史上にとってずっと語られることは間違いないでしょう。

 これ聞いて思い出したのが、アデルがアルバム「30」で共演したインフロのことですね。インフロっていうと、リトル・シムズとかSAULTとかマイケル・キワヌカのプロデュースで知られる今、イギリスで一番のプロデューサーですけど、アデルが彼と共演しても、正直「背伸びしてるな」としか思わなく、インフロからも曲の本気度を正直感じなかったんですね。

 だが、今回の宇多田とフローティング・ポインツに関して言うなら、違和感がまったくなく、曲の手抜き感も全くない。贔屓目抜きにケミストリーをすごく感じるんですよね。そこ、とにかく驚きました!他の曲も、どれも完成度高いんですけど、フローティング・ポインツの3曲が持つ牽引力がとにかく圧巻ですね。

 世界的な権威との共演が、アデルの新作よりインパクトがすごい。そんな側面があるだけでも、このアルバム、すでに桁違いですよね。

いやあ、こんなすごい表現が日本人から出てくるんだな。そう思うだけでも、これ、すごいですよ。いや、日本人だからすごいんじゃなく、これ、

僕がここ数年、年間ベストアルバムで上位に置く、すごいレベルの女性アーティスト並みに優れてますよ、これ!


 その名前がフィービー・ブリッジャーズでもラナ・デル・レイでも、ビリー・アイリッシュでも、クリスティーン&ザ・クイーンズでもリトル・シムズでもセイント・ヴィンセントでもミツキでもチャーリーXCXでもロザリーアでもケイシー・マスグレイヴスでも誰でもいいんですけど、そういう人たちのアルバムと聞き比べても、これ、決して負けてないレベルです

 そう言えるものが日本人から出てきたことが僕はとても嬉しいです。

というか、今こそこの人、世界的に聴かれるべきですね。2000sのアメリカ進出がいろいろあってうまくいってないですからね。UTADAでの2枚目なんて市場に無理やりマーケッティングされたみたいな内容でしたしね。

 でも、今の彼女こそ、世界的に見て本当に聴かれる価値のある音楽に成長してるし、これでこそ判断されて欲しいんですよね。










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