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女性監督問題に「So White」問題など・・。 2020年のオスカーのノミネートへの不満を「具体的」に語っていこう

どうも。

オスカー、正式にノミネートされましたね。

ここ数年、ノミネート後に必ずメディアが「ダイバーシティ」の問題の標的にしている側面があるのですが、今年の場合は・・・僕は、まあ、概ね妥当だとは思ったんですけど、不満がまったくないわけではありません。

ただ、

やれ、2015年、2016年のオスカーで大騒ぎになったところの「OscarsSoWhite」とも呼ばれた、黒人アクター、アクトレスのノミネートがゼロだったこととか、「女性が監督賞にノミネートされなかった」とか、ここ最近、毎年、ケチがあがります。

僕はコレに関しては有意義だとは思うけど、好きになれないところがあります。

それはどういうことかというと、

議論に一切の具体性がないところが好きになれないからです。

「監督賞のノミネートに女性がいない」「俳優のノミネートに人種的多様性がない」「今年は、こういう女性監督や黒人やアジア人の俳優もいたのにノミネートされないなんて」・・・。こういうふうに言うのは簡単で、誰だってできます。ただ、こういう議論をふっかけてくるメディアや人に欠けている視点があります。それは

では、そういう人たちがどうやったらノミネートされることが可能だったのか。

この議論になかなかならないからです。

間違っても、こういうことは思ってほしくないのですが、ノミネートされる作品、監督、俳優、女優は間違ってもクソではありません。実力があるから選ばれたのです。そういう実力者たちの力量と比べて、そのマイノリティな監督なり役者たちは、本当に実力的に同等か、上回るだけの力があったのか。ここの議論になかなかならない。僕はそこが非常にもどかしく感じていました。

そして、こうも思っていました。

文句言う人たち、本当に該当作品、全部見た上での比較で言ってる?

それが疑わしいから、なんか嫌だったんですよね。なんか雰囲気の理想だけで言ってるような感じがあって。だから、ちょっと懐疑的だったんです

が!

女性監督や、黒人やアジア人の俳優が多くノミネートされてほしいと願う気持ちは、僕だって本来そうです!

なので、今回、僕は

こうやったら、こういう人たちのノミネートは可能だったんじゃないか

今回、該当作品のほとんどをすでに見ている状態なので、そこで僕なりの判断でもって、問題提起していきたいと思います。では、いきます。

①監督賞 グレタ・ガーウィッグの場合

まず、今年のアメリカの映画メディアでは、このようなことが言われています。

「今年は女性監督目白押しの年だったのに女性監督のノミネートがないなんて」。

その例として、「The Farewell」のルル・ワン、「Beautiful Day In The Neighbourhood」のマリエル・ヘラー、「ハスラーズ」のロレーン・スキャルファリアなどの名前があがっていましたけれど、

この中で、ご存知の監督、作品はありますか?

「見ろ、こんなにあるんだぞ」と言われて、でも、それが知名度がそんなにない。作品賞9作のノミネートならともかく、その作品賞の中でも上位に入らないと監督賞にはノミネートされないのです。

僕自身は「ハスラーズ」はすごく好きな映画だったし、マリエル・ヘラーはこの映画はまだ見てないんですけど、その前の2作が気に入ってたりします。しかし、彼女たちがどんなにいい映画を作ったところで、今年の相手って、

スコセッシにタランティーノにポン・ジュノですよ!

今年がいいだけじゃなくて、もう映画史に名を残すのが確実になってる巨匠ですよ。しかもその人達が、輝かしいキャリアの中でも上位クラスの映画を作ってきた。それ考えると、どんなに力のある女性監督でも、いきなり太刀打ちするのは難しいです。それに、もうひとりのノミニーのサム・メンデスだって、20年前に「アメリカン・ビューティ」で監督賞、作品賞を撮っている人ですよ。そういう人たち相手にノミネートを果たすというのは、並大抵なことではできません。

今年、それが可能だったとしたら、もう彼女しかいませんよ。

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グレタ・ガーウィッグ

グレタといえば、インディ・シーンにおいて長らく女王として君臨してきた女優さんだったんですけど、2017年、「レディバード」で監督デビューするやいなや、いきなりオスカーの監督賞ノミネートの大成功。

今回、作品賞にノミネートされた「若草物語」も、見たんですけど実は僕、

今回の作品賞ノミネート作の中で、この映画が一番好きなんですよ!

 これ、近日中にレビュー書きますけど、画期的なんですよ、この映画。19世紀のアメリカ文学史に残る有名な古典を、現在のフェミニストな視点から大胆に翻案。新たな解釈を加えたことで非常に現代的な作品うぃ作ったし、それぞれのキャラクターの人生の描き方もこれまでの何度か映画化された中でも圧倒的。後世に残す価値は大アリです。

なので、僕自身もグレタにノミネートされてほしかったんですけど、彼女がノミネートされるには、もう、この人を倒すほかはなかったんですよ。

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「ジョーカー」のトッド・フィリップスですね。「ジョーカー」、今回最多の11部門のノミネートです。「ダークナイト」をあれだけ冷遇したオスカーーだったんですけど、今回どうしちゃったんだくらいの勢いで、「ジョーカー」に大盤振る舞いです。

この「ジョーカー」、たしかに考えさせられる問題作でしたよ。でもなあ、「いくら金持ちが憎いからって、そこまでノリで暴力に訴えなくても・・」ってとこでの説得力が強くないんだよなあ。それ、似た題材で今回「パラサイト」があるから余計に目立つんですよ。だから、批評家のレビュー、この作品、かなり割れたんですよ。

一方の「若草物語」は、古典の現代アレンジとリスクを負ったにもかかわらず、オーディエンス評価もレビューも軒並み高い。そう考えると、グレタのノミネートで問題なかった気がするんですけどねえ。現にトッド、監督のギルド・アワードであるDGAのノミネートも逃していたから、監督賞は絶対的な候補だったわけでもないのに。そう考えると、くやしいですよね。

②主演男優賞 エディ・マーフィーとアダム・サンドラーの場合

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共にかつての「サタディ・ナイト・ライヴ」の人気コメディアンのエディ・マーフィーとアダム・サンドラー。この2人も今回、前者が「ルディ・レイ・ムーア」、後者が「Uncut Gems」で共に候補にあがっていました。2人ともめったにノミネートのチャンスがないので、応援してました。

ただ、この場合、ライバルが強かった。「ジョーカー」のホアキン・フェニックス、「マリッジ・ストーリー」のアダム・ドライヴァー、「ワンハリ」のレオ。いずれも作品賞にノミネートされた作品の主役ですよ。まず、この時点できつかった。

だとしたら、残り2つの枠なんですけど、ここで仮に

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仮にノミネートされたのがタロン・エジャトンだったら、僕は確実に怒ってました!

可能性はあったですよ。彼はゴールデン・グローブで主演男優を受賞したし、俳優ギルドのSAGでもノミネートされた。かなり有力だったんです。でも、申し訳ないけど、エルトン・ジョンには正直似てなかったし、歌も自分で歌ったとはいえそこまでうまいわけじゃない。去年の「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレクのような鬼気迫るフレディ・マーキュリーの乗り移りぶりに比べると演技もストーリーも一段落ちた。そういう中で勢いでノミネートされるのは抵抗あったんですよね。

ところが、

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残り2人がアントニオ・バンデラスにジョナサン・プライスと、超演技派の2人で来られてしまった。これだと、言い方は悪いけどまぐれあたりのサンドラー、長らく続いた大スランプからようやく復活のエディには不利です。バンデラスに関しては今回、ペドロ・アルモドバルのスペイン語の映画での演技で、しかもカンヌで主演男優賞受賞してますからね。

これだと、さすがに「人気でなく、実力で選んだんだけど」と言われてしまえば撃沈です。ひいきは最大限したいけど・・・、ここは仕方なかったと思います。だいたい、かのロバート・デニーロさえ今回、落選したんだから!デ・ニーロさしおいてノミネートとかになっても、文句言われてたかもしれないですしね。

③主演女優賞 ルピタ・ニョンゴとアークワフィーナの場合

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今回、不満の声が多く上がったのは、この部門、主演女優賞ですね。

「Us」のルピタ・ニョンゴ、「The Farewell」のアークワフィーナ。共に演技が絶賛され、せっかく、黒人、アジア系でノミネートされ得る決定的なチャンスだったのに、それを逃してしまった。そんなふうに批判されています。

では、ここもノミネートされた人、見てみましょう。

まずは受賞が確実視されている「Judy」のレネー・ゼルウィガー。彼女はかつて助演女優も受賞した実力派で、今回がキャリア史上ベストの呼び声高い演技です。加えて、「マリッジ・ストーリー」のスカーレット・ヨハンソン、「若草物語」のシアーシャ・ローナン。共に作品賞ノミネート作品の主演です。スカージョーは実力派と言われながらも自己ベストの演技で初ノミネート。シアーシャは25歳にして4度目のオスカー・ノミネートと文句なしの実力派です。ノミネートからははずしにくい。

そこで、前述の2人は残り2枠での争いだったわけですが、まずルピタから。

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「Us」での、2つのキャラクターを完全に演じ分ける演技、テクニカル的にはすごいんです。演技の難易度では、彼女が助演女優賞受賞した「それでも夜は明ける」より数段上でしょう。ただ、悲しいかな、オスカーってホラー映画でのノミネート、伝統的に嫌うんですよね。去年、トニ・コレットが「へレディタリー」の演技があれだけ絶賛されたのにノミネートされなかったのも同様の理由です。プラス、「Us」という映画自体が、同じジョーダン・ピール監督の映画でも、「ゲット・アウト」に比べると、ジャンル外でのアピールが弱い、というか、一般にちょっとわかりにくかった。このあたりも響いたんじゃないかな。

だから

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同じ黒人女優でも、「19世紀の黒人奴隷開放のヒロイン」という、歴史的に重要な役を演じたシンシア・エリヴォの方が、審査員的な好感度は買いやすかった、というのはあったんじゃないかと思います。

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ではアークワフィーナを見てみましょう。彼女は2018年に「クレイジー・リッチ・エイジアンズ」のヒットの際に助演で助演でかなり注目を集めて、そのあとのこの主演でさらに知名度を上げ、中国系アメリカ人の女優でかなり将来を嘱望される存在になりました。ゴールデン・グローブでは主演女優賞まで受賞しました。

残るもう1枠の相手は

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「スキャンダル」のシャリーズ・セロンだったわけですが、ごめんなさい。僕、コレ見ましたけど、このノミネート、僕的にはありえません。なぜなら、これ、彼女、メガン・ケリーっていう、アメリカではかなり有名な保守系のアンカーウーマンの役をやってるんですけど、ただのものまねでしかなかったんだもん。この写真見てもソックリでしょ?ただ、それだけじゃなくて、シャリーズ、声もソックリに真似してるんですよ。それ見てなんか違和感があったんですよね。無名の女優さんならそれでうまいと唸らされると思うんですけど、シャリーズ・セロンほど有名な人がそれをやると、なんか違和感があったというか、普段のシャリーズらしい演技での方でむしろ見たかった。この人、普段からオーヴァー・アクティングの毛が強すぎて好みでは決してないんですけど、それだったら、「マッドマックス」のフュリオサの方が断然彼女っぽいし、あのときにむしろノミネートされるべきだったと思います。

しかも、映画の評判自体も、「スキャンダル」って、「まあまあ」の評価で、サンダンス映画祭で絶賛されて配給が決まった「The Farewell」の印象より良いとも思えないし。僕のこの「スキャンダル」の印象、悪くはないんですけど、なんかテレビ映画的と言うか、それこそこれだったら「ネットフリックスのミニ・シリーズでやった方が良かったかも」な思いましたからね。なのでこれ、アークワフィーナは損したなと思いました。

④助演男優賞 ソン・ガンホの場合

続いて助演男優賞見てみましょう。

ここは一瞬、隙がないように見えます。ブラッド・ピット(ワンハリ)、ジョー・ペシとアル・パチーノ(共にアイリッシュマン)、トム・ハンクス(Beautiful Day In The Neighbourhood)にアンソニー・ホプキンス(②人のローマ教皇)。いずれも大きな知名度のある名優ばかり、一見、これでいいように見えます。

が!

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ソン・ガンホの名前の不在を嘆いた人も多かったのは事実です。

なぜなら、今回、一躍フィーヴァーとなった「パラサイト」。アメリカ資本のないアジア映画で初の作品賞、監督賞のノミネートですよ。そんな記念すべき作品がノミネートされた記念に、役者も誰かノミネートされても良かったのではないか。それだったら、ポン・ジュノ作品に欠かせない役者で、韓国映画会を代表する役者でもあるソン・ガンホのノミネートは妥当だったのではないか。そういう感じですね。

僕も、実はコレ、絶好のチャンスを逃したな、という印象です。

ひとりずつ見てみましょう。

ピットは外せません。彼のキャリアの最高の演技の一つで、初のオスカー確実と、いろんな映画祭で証明されてきています。「アイリッシュマン」はあの②人の演技で持ってたわけだからパチーノとペシも外せない。「ワンハリ」「アイリッシュマン」は作品賞争っているわけですから、その意味でも外せない。

なら、後の②人ですけど

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トム・ハンクスとアンソニー・ホプキンス。共に過去にオスカーの主演男優賞を受賞している②人ですけど、今回、ノミネートされねばならない状況でしたでしょうか?どちらも、作品賞はノミネート、逃してる枠品でしょ?彼らのキャリアを語るに、そこまで重要な役になるとも思えないし。一方のソン・ガンホからしてみたら、キャリアで筆頭クラスに思い出されること、確実な役だったのに。だったら、そういう配慮でのノミネートがあっても良かった気がします。上にも書いたように、アントニオ・バンデラスはスペイン語の映画でもノミネートされたわけですからね。

⑤助演女優賞 ジェニファー・ロペスの場合

そして今回、これを最大のサプライズに上げる人が多いですね。

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「ハスラーズ」のJ.Loの落選ですね。これ、だって、オスカーの前哨戦での結果、実は2番めに成績良かったんですよ。なので、「なぜ?」の声は大きかったんです。

ただですね、彼女、これだけじゃなく、SAGとBAFTA(英国アカデミー章)でともに落選してたんですよ。なので、「もしかしたら落選あるかな」と、嫌な予感がしてたんですけど、当たりましたね・・。

彼女の場合は、もう、アダム・サンドラーと同じだと思います。役者としての普段の印象が悪すぎたんです。サンドラーはラジー賞のワースト・アクターに10回ノミネートされてますが、彼女も6回ワースト・アクトレスにノミネートされてます。この印象が響いてしまったかなあ。

この賞のノミニー、見てみましょう。まず、本命のローラ・ダーン(マリッジ・ストーリー)。僕はこの映画だと、そこまで重要だとは思わないのですが、ノミネートなら問題はありません。スカージョーは、「ジョジョ・ラビット」で主演と助演のWノミネート。どっちも作品賞該当作だし、彼女ほどの女優なんだからアリだと思います。マーゴット・ロビーは「スキャンダル」でシャリーズ・セロンを食ってました。「ワンハリ」でもノミネートの可能性もあったので、アリでしょう。さらに「若草物語」のフローレンス・ピュー。今、もっとも注目されている24歳の演技派の女優で、シアーシャ・ローナンにライバル意識を抱く妹の役を互角に演じたことで絶賛されています。彼女ももちろんアリです。

だとしたら残る1人は

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「リチャード・ジュエル」でのキャシー・ベイツです。彼女も実績的にはオスカーの助演女優賞受賞者で、オスカーのノミネートも今回が4回目です。

だけど、この映画自体がノミネート、これだけだし、ノミネートされたところで勝つ見込みもない。だいたい、ノミネート自体がサプライズで扱い的にも5番手。彼女のキャリアの中でも思い出される作品になったかも微妙です。

だったら、いくらこれまでの評価が低かったとはいえ、J.Loに千載一遇のチャンスを与えても良かった気はするんですけどねえ。

・・・といった感じでしょうかね。




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