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沢田太陽2010年代ベスト・アルバム 30〜21位

どうも。

では、2010年代ベスト・アルバム、今日は30位から21位、行きましょう。こんな感じです。

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ここもいいアルバム、多いなあ。ということで30位から行きましょう。

30.ANTI/Rihanna (2016)

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30位はリアーナ。2010sも積極的に、とりわけ前半ですけど、アルバム出してきたリアーナですけど、この年代の彼女の最高傑作はコレでしょう。僕がアイドルだったりEDMだったりKポップに乗れなかった理由の一つに、「でも、それ聞くくらいだったらリアーナ聞いたほうがいいよね」というのがあります。Kポップって、男だったらジャスティン・ティンバーレイク、女だったらリアーナが2000sにやってたこと(ロールモデルとしては正しいと思うんですけど)に延々と追いつけないままトライしてるサウンドの印象が拭えないし、EDMもいつの間にかリアーナみたいな低い鼻声の子ばかりがフィーチャリング・シンガーになってたでしょ。あれが嫌で。ただ、ああいうのが増えすぎたことで、さすがのリアーナも埋もれちゃうかな、と思ってた矢先の「脱EDM作」として、これはすごく好きなアルバムです。冒頭からいきなり、まだアルバム・デビュー前のSZAと共演する先駆性を見せ、トラップ、ダンス・ホール・レゲエ、さらにはロックと、一曲ごとに何が飛び出すかわからない、いい意味で混沌とした作品なんですけど、こういうものはフォロワーじゃ作りようがない。中でも、2010sのデュエットではベストな歌の上でのカップル、ドレイクとの「Work」、そしてあの名曲「アンブレラ」の系譜上にある「リアーナ黄金節再び」の風格もある名曲「Kiss It Better」が秀逸です。 

29.I Like It When You Sleep for You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It/The 1975 (2016)

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29位はTHE 1975のセカンド。このバンドに確変が起きた、ものすごく重要なアルバムです。僕、デビュー作の時はですね、このバンドが一体何をやりたいのか、わかってなかったんですよ。ところが、このファースト・シングルの「Love Me」でマティがいきなりインエクセスのマイケル・ハッチェンスを完璧な形で憑依させた時に「なんてとこに目をつけるんだ!」って衝撃だったんですよね。今の時代に、エイティーズでインエクセスって選択はしないだろ、という感じで。続く「Ugh!」もよく、さらに「The Sound」でしょ。ダフト・パンクのメロディ・センスを取り入れてエレクトロっぽい曲を書こうとしたロックバンドってたくさんいたけど、この曲よりそれを上手く出来た曲は聴いたことがなかった。それでもう、俄然楽しみになってアルバムを聴いたら、「She's American」や「This Must be My Dream」では、今度はプリファブ・スプラウトやスクリティ・ポリティのような、これまた80sのコアなファンしか覚えていないソフィスティケイトされたポップ・ソウルを聞かせてもくれ。「そう!こういうことなんだよ!」と快哉をあげましたね。彼らの前まで、ロックって、HAIMのとこでも書いたような、ヴェルヴェッツとかジョイ・ディヴィジョンとかペイヴメントみたいなインディ・ロックの教科書の模範をなぞるばかりで、地味なルックスでファッションの自己主張もしない華のないバンドばかりになってて。マティには「ロックスターとしての主張の大事さ」とか、「他のバンドと違う音楽ルーツで勝負することの大切さ」がわかってたんだと思います。だからこそ彼らは、インディ・ロックが飽きられ、R&B/ヒップホップが新時代のトレンドセッターになった時代を独自の歩みで生き延びることができたんだと思います。

28.Channel Orange/Frank Ocean (2012)

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28位はフランク・オーシャン。彼もこの時代を語るに欠かせない存在ですよね。「新しい時代のサウンドクリエイターだな」と思う人はいつの時代も何人もいるんですけど、「新しい時代のソングライターだな」と思わせる人は極めて少ない。彼は見事なまでに後者の代表格でしたね。彼のことはまず、カニエとジェイZのアルバムに入ってた「No Church In The Wild」が気に入って、その期待感とともにこれを聞いたんですけど、まず最初に驚いたのは「Sweet  Life」と「Super Rich Kids」でしたね。たとえ90sにも70sのソウルのリバイバルってあったんです。でも、それはサンプリングだとか、断片的にその「雰囲気」を感じさせるものでサウンドは90sのオリジナルだったんですけど、この2曲は、「スティーヴィ・ワンダーにこういう曲、なかったっけ?」と本当に思いたくなるほど、あまりにそのまんまな曲調で。「ここまで特徴を構造的に掴み取った(しかもかなり難易度高し)本物そっくりのオリジナル曲というのはすごいよね」と、まず、ここで息を飲んだでしょ。でも同時に彼が「スティーヴィー版グレタ・ヴァン・フリート」と言うわけでは全くなく、普通に今のテクノロジーを使って「Lost」とか「Forest Gump」みたいな別の基準での好チューンを書き、さらには「Thinking About You」という、LGBT時代の新たなラヴ・バラード・クラシックまで作っちゃって。アレンジがどうこう以前に、「この楽曲の自在さは一体何なんだ」と言う驚きがありましたね。これだけでも十分、後世に語られる価値があると思うんですけど、次でそれをさらに越えてきたのはさらなる衝撃でしたね。

27. Be The Cowboy/Mitski (2018)

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27位はMITSKIの「Be The Cowboy」。2010年代という時代は、エンタメ大国アメリカがアジア系をついに取り込んだ意味で画期的な10年でした。Kポップとか、映画だと「クレイジー・リッチ・エイジアンズ」とか、いろいろありますけど、こと「批評性の高い音楽」でバリアーを破ったのは間違いなく、日本が生んだミツキです。このアルバムの去年の欧米大手メディアの年間ベスト発表時のものすごい評価、それこそテニスの大坂なおみみたく、「日本の誇り」と呼ばれてもいいものだったと思うんですけど、右翼がかった人からそんな評価、耳にします?面倒だから、されない方がいいかな(笑)。彼女がなぜ、そうした成功を手にすることができたか、というと、一つは「出自の意外性」。彼女は元々大学でクラシックを専攻しててロックを知らなかった。それで2枚のアルバムを作った後、ギターを手にしてインディ・ロックに転向。そこからの2枚はわりと真っ当なギター・ロックだったんですけど、通算5枚目のここではより自由な楽曲構成のアルバム作ってます。冒頭の「Geiser」に顕著ですけど、1コーラス作っただけで終わりとか、2コーラス目のヴァースがない、もしくはメロディが違うとか。ライブでも、ギター持たなくなってますしね。こういうところは、別の音楽の基礎の観点からロックのフォーマットを見た結果だと思います。そして、この人にとって重要なのは歌詞。幼い頃から国際的な引越しの連続の関係で自分の人種的な居場所がなく育ったことからくる孤独、疎外感を英語詞に巧みに込めることができ、そこで強い共感を得ていますね。このアルバムだと「Nobody」が代表例ですけど。こういうところに、今後、日本のアーティストが国際的に本当に評価されるためのヒントみたいなものが提示されているような気もしてます。

26.The Suburbs/Arcade Fire (2010)

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26位はアーケイド・ファイア。これも2010sを代表する作品でしたね。だけど、00sから10sの前半のあの誰にも止められなかった勢いを考えると、このアルバムがこの順位で終わったのは問題ですけどね。実は2009年にも僕は「00年代ベスト」をやってて、その時の1位が彼らのデビュー作「Funeral」なんですよ。それくらい僕は彼らに熱を上げていたし、ロック界では不動の裏リーダー格になると信じてました。2011年のグラミーの最優秀アルバムをエミネムに勝って受賞した時、夜中なのに大声をあげて喜びましたからね。このアルバムまでのアーケイド・ファイア、何がすごかったかっていえば、「クラシックの理論と、パンクロックの破壊衝動が両方わかってないとできない音楽」でしたから。楽器編成の多い複雑なアレンジを、メンバーが各楽器を持ち替えてこなし、それをステージで破壊的に表現する。「そんなのどんな教育施したらできるんだ。日本の環境だったら何年かかっても無理だな」と思って「当代最強バンド」だと信じてました。このアルバムも、タイトルの「郊外」をコンセプトに、音楽的多彩さではこれまで以上の作品だと思います。ただ、最初の2枚ほど実は熱狂しなかったんですよね。それは、「ただエレクトロ」「ただパンク」みたいな曲も混ざり始めて、あの大編成との両立を避けた曲も増え始めたから。そしたら、続く2作が、彼らの本来のあの「両極の両立」が発揮できないものになってしまって。思うにウィン・バトラー自身がこの表現に飽きてきてるんじゃないのかな、と思ってます。「ソロ作作って、充電してまた」みたいにした方が良かったタイミングでアーケイズのアルバム作っちゃったのかな。早くあの圧倒的な唯一無二な自身の才能、思い出して欲しいんですけどね。

25.A Moon Shaped Pool/Radiohead (2016)

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25位はレディオヘッドの「A Moon Shaped Pool」。これ、「年代における意義性」みたいなものを考慮するからこの順位なんですけど、そういうものを度外視して純粋に個人の好みで言えば、もっと上に来るアルバムです、本当は。それは、僕がこのバンドのファンになって25年くらい経つ愛情に由来するものでもあるんですけど、それ以上にこのアルバムが持つ、パーソナルな意義においてですね。これ、誰がどんなに否定しようが、僕にはトム・ヨークが亡き妻、レイチェルに捧げた最後のラブレターのアルバムにしか聞こえないから。そして、彼が、こんなにも、自分の個人的な愛情表現を隠せないレベルでやれる人なんだと知って、これまで以上に親近感がわいたから。彼は僕の1学年上でほとんど同世代なんですけど、そういう人が20年以上も連れ添った女性を失うわけです。とても他人事ではいられません。もう「Daydreaming」なんて歌詞見ても、「もう君はいないのか」との空虚感を表したMV見ても、というか、もう見ないようにしてます、涙しか出てこないから。あと、最後の「True Love Waits」は90sからやってる有名曲で、それこそトムがレイチェルと付き合い始めた頃くらいからある曲ですけど、レディオヘッドに似合わずスイートに愛を歌うこの曲で、サビの「Dont Leave, Dont Leave」ってフレーズ聴くと、今書いてても涙出てきちゃってですね(笑)。そんな、精神的にボロボロだったトムを、仲間で支え合って、素敵な演奏とアレンジで作り上げたのが本作ですね。トムのソロ作だと、これまでの作風考えても、ここまで美しくはできなかったと思います。彼らにつきものの、「サウンドの革新性」とかそういうの抜きに、血の通った最高のアルバムだから大好きです。

24.Body Talk/Robyn (2010)

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24位はRobynの「Body Talk」。2010s前半といえば、それはもう「EDM」の時代ですけど、今思い返しても、本当にノレなかった(笑)。そういう人って、僕がそうってわけではないんですけど、エレクトロ聞いてきた人たちにも多くてですね、そういう人たちが「自分たちにはコレがある!」と半ば神格化して愛していたアルバムが本作だったような気がしてます。だから、国際的にチャートの上位に入ったわけでもないのに、いろんなところでかなり長いこと耳にしましたからね。僕もこれはですね、本作がEPだった頃(同名2枚EPと追加収録をまとめたのが本作)から気に入って聞いてました。そうやって聞いてたのは、80sの頃からシンセポップが好きで、アナログ・シンセの振動音の強い彼女の曲にはその頃のテイストがあったし、マドンナやカイリー・ミノーグが90s後半から00sにかけてやってた路線をより鋭角的にした後継者のノリで聞けたから。実際に両者もパワーダウンしたから、Robynが浮上できたとこもありますね。また、声が細いんだけど、眉間にしわ寄せて高いキーを振り絞って出すソウルフルなエモーションも魅力だし、歌メロに出身国のスウェーデンのABBA以来の伝統を感じさせるのもいい。これがアメリカ産だとなんか下世話なアレンジの尾ひれがついて、なんか汚されちゃうんだけど、Robynのプロダクションにはそういうの一切ないですからね。あと、女の子にとってはエンパワメント性が強いのもいい。ドラマ「Girls」でレナ・ダナム扮する主人公ハナが、付き合ってた男性がゲイだと知って一人部屋で落胆してたんですが、パソコンに入れてた本作の代表曲「Dancing On My Own」を聴いて踊って立ち直る、というエピソードがあるんですね。僕の娘の名前がLenaになった直接の理由がまさにソレです(笑)。

23.In Colour/Jamie XX (2015)

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23位はジェイミーXX。今回のリストで本当に惜しいなあと思うのは、The XXのファースト・アルバムが入れられない(2009年8月作品)ことです。あれは2010sのフロアを代表するサウンドであり、しかもバンド・ミュージックの最もカッコいい形の一つだし、実際、みんなが2010年に入ってからだからオマケして欲しいんですけど、そうしたら2019年のもの選べなくなる矛盾も出てくるので、ルールに則りました。ただ、XXの他のアルバムだと1stのあの輝きやはにかんだ内向性はどうしても表現できない。決して悪いアルバムではないんですけどね。「だったら」と思いついたのがこのアルバムです。なぜなら、これ実質、XXの裏アルバムと呼んでいい内容だから。フロントに立つのが、ロミーとオリーのヴォーカルではなく、ジェイミーの作るトラックに変わっただけだから。実際、XXの立役者はジェイミーなんだから、彼の作るトラックが存分に活躍できるアルバムがあったらそれは嬉しいわけで。これ聞いて思うのは、まだ”ダブステップ”と呼ばれていた時代から、この人の作るビートってブレがないなってことですね。なんか90sの、ウータン・クランでRZAが作ってたものとか、それこそアブストラクト・ヒップホップというかトリップホップというか、まさに90sに一世を風靡したヘヴィなグルーヴに近いですけどね。その感覚って、ダブステップの時ハマったとは思うんだけど、むしろ今との相性がいいですね。そして、そのトラックを後ろからヴォーカルで支えるのがロミーとオリーというのがいい!「ああ、本当に強い友情で結ばれているんだな」と感じられて嬉しいものです。デビュー当時のオリーとロミーがコミュ障っぽく見えて個人的に心配していたことを考えると「救い」がある感じがして、そこも良いです。

2222.Trilogy/The Weeknd (2012) 

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22位はザ・ウィーケンド。これは「三部作」というより、EPを足した編集盤ですね。「House Of Balloons」「Thursday」「Echoes Of Silence」という2011年に出た3枚をまとめたものです。EPも1枚当たり曲数も時間もかなりあるんですけど、ただそれをアルバムと捉えるよりは、このEPを立て続けに出してたころの熱狂とか、その後にこの編集盤こそがビルボードでロングセラーとなっていた事実を鑑みて、こちらにしました。ただ、とは言いつつも、僕、最初、実はノレなかったんですよ。だって、すごく新しい物であるかのように評判で聞いてて「従来のR&Bとそんなに変わるの?」という印象の方が強かったので。僕にはテヴィン・キャンベルとか、トニ・トニ・トニとか、ニュー・エディションみたいな80s後半、もし90s前半のR&Bみたく聞こえたから。今考えたらそれ、全部、マイケル・フォロワーなんですけどね。おそらく声質と曲調でそう判断したんだと思います。例えば、「House Of Balloons」でいくらスージー&ザ・バンシーズをサンプリングしてロックとの接点をアピールしようと、僕にはそこまでジャンル横断の感じはしなくて「古き良き90sR&Bを違う感じでやりたいのかな」と思ったんですね。そして、本人も気が変わったのか、「Cant Feel My Face」で「今様のマイケル」で出てきた時にむしろピンときたし、その後の「スターボーイ」でのダフト・パンクとのコラボも上手いなと思いました。ただ、面白いもので、後からこれ、きき返すでしょ。そうしたら、「このダークなセンス、今の時代の方がむしろ合うな」みたいな再発見があるわけです。EPの2枚目、3枚目にその傾向が強いんですけど、なんかポーティスヘッドみたいな雰囲気があって。「曲そのものはやっぱマイケルなんだけど、こっちの方がエッジがあるのは確かだよなあ」とタイムレスな感じもして。今、これにトライしたらどんな感じになるんだろう、と思いつつ、この時期の絶賛との比較に今後も彼は悩み続けるんだろうなと思うと、この時代なりのドラマを感じますけどね。

21.When We All Fall Asleep Where Do We Go/Billie Eilish (2019)

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そして、ビリーが21位です。「もう、入れるのか」という声もあるかもしれませんが、もうすでに歴史に残る記録作ってるので、何の問題もないと思います。だって、例えば90年代の終わりに「90年代の日本のアルバム」って企画があった場合に、そこで宇多田ヒカルを選んだら「早すぎる」とかって言います?早熟ってだけで別にアイドルじゃないんだし、後悔するようなことはないですよ。このアルバムに関しては年間ベストも残っているので、ここで書きすぎることはしたくないんですけど、年代の終わりに、プロデューサーが仕掛けた音楽でない、フィニアスとビリーの男女の兄妹が手作りで作った音楽が近い世代から熱狂的な支持を受けて現象になるなんてことが起きたことは非常に喜ばしいことだと思います。それがどんなものであれ、そういう自然発生したものこそ、ロック的な出来事だし、ましてやそれが、世代の違う人たちからもクールなものとして受け止められるんだから、なおさらですよね。そして、音楽的にも、23位、22位で話したことにもいみじくもつながりますけど、うまい具合に時代の空気に絶妙に乗っているところもすごいと思います。あと、この年代に子供ができた身としては、「子供たちにとっての次の世代に夢中になるスターが出てきたな」という意味でも楽しみだったりします。うちの子も、兄妹の4つ違いというとこでも、かなり親近感があったりするんですよね、実は(笑)。



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