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沢田太陽2022年間ベスト・アルバム 20〜11位

どうも。

では、年間ベスト・アルバムも残すところあと20枚。

トーナメントとかでも準々決勝くらいが一番面白かったりするんですけど、カウントダウンして面白いのはこのくらいの順位帯のような気もしてます、20位から11位を今日はいきましょう。

こんな感じです。

 はい。これまた素敵な作品が集まっていますが、20位から見ていきましょう。

20.Laurel Hell/Mitski

20位はミツキ。2018年の前作でかつ名作「Be The Cowboy」は2位に選びましたが、今回は20位になります。全くのどインディから浮上してきたミツキが前作で僕のみならず、全世界のメディアから年間ベスト・アルバム・クラスの絶大な評価を獲得。彼女本人も戸惑い一時は引退するんじゃないかと心配もされた彼女ですが、このアルバムで戻ってきました。その本作ですが、これまでの彼女らしいインディ・ギター・サウンドからエレクトロ主体のポップへ鮮やかに移行しています。この路線が前作や人気曲満載の「Bury Me At Makeout Creek」(2014)ほど良いとは思いません。だけど、どんなサウンド・フォーマットになろうが、ソングライティング、歌い回し、に一切のブレがなく、聴いてすぐにミツキだとわかる圧倒的な個性が確認された意味では、さすがだと思わされましたね。あと「サッド・インディの女王」らしい素朴な孤独感の表現も。この強烈な一貫性が全世界で展開中の信じられないくらいの熱狂的なライブの盛り上がりにつながっているのだなと、あの11月の衝撃のプリマヴェーラ・サウンドでのステージで確認した次第です。

19.Muna/Muna

19位はMuna。この3人組も2022年に大きな飛躍を遂げましたよね。これまで人気アーティストのアリーナの前座などには起用されつつもメジャー・レーベルの飼い殺しで終わっていたダークでゴシックなシンセポップ・バンドが、フィービー・ブリッジャーズが自身のレーベルに招き入れたことで大変身。フィービーとの共演となった、ミレニアム時代の名ソングライター、The Matrixを彷彿とさせる「Pink Chiffon」でこれまでの黒いアイシャドーからカラフルにメイクオーバー。ただ、そこでポップな方向にだけ猛進するのではなく、これまで通りのメランコリックなエレクトロ・ポップ路線も忘れたわけではありません。ただ、フォークを身につけたことで赤毛のヴォーカル、ケイティのソングライティングが根底の次元で飛躍。また、2人のギタリスト、ジョゼットとナオミの男前なカッコ良さがブラッシュアップされたことで、彼女たちが当初から打ち出していたLGBTアピールもより前面に出されるようにもなりました。磨き損ねていた原石がようやくダイヤになりかけている感じです。


18.Surrender/Maggie Rogers

18位はマギー・ロジャーズ。彼女の場合は「躍進」というより「大変身」ですね。これまでにない新しいファン層を獲得した1年だったように思います。2019年にデビュー・アルバムを出した際、いきなり全米2位まで上って注目はされてたんですけど、その突然すぎるブレイクと、どこか薄味に聞こえてしまっていた「フォーク&エレクトロ」というのがメジャーの仕込んだ作り物っぽい感じがして、どこかしっくりこなかったんですね。ただ、その違和感自体をどうやら彼女も感じていたのかな、というここでの大胆な変化です。腰近くまであった髪をバッサリとベリーショートにしたルックス上の変化も十分なアピールでしたが、今作で彼女はフレーミング・リップスやテイム・インパーラを彷彿とさせる浮遊感と打ち付けるスネア・ドラムの躍動感に支えられたサイケデリックなサウンドと、エモーショナルな熱唱を展開。これまで彼女の内側で眠っていた何かを確実に覚醒させています。マギーのこうした新たな側面を引き出したのが、ハリー・スタイルズの不可欠なソングライティング・パートナーのキッド・ハープーンであることも見逃さない方がいいでしょう。


17.Hold The Girl/Rina Sawayama

17位はリナサワヤマ。彼女もこの1年で国際的な注目度がグッと高まりましたよね。これまでは「知る人ぞ知る」存在だったものですが、やはりこのアルバムの全英3位という記録は効いています。これまでは、異国の地から見た変形Jポップみたいな異色なサウンドが面白がられていた感じでしたが、このアルバムではかなり正攻法なユーロ・ポップに進化。「レコーディング期間中にケイシー・マスグレイヴスをよく聞いた」とのことですが、ダンス・ポップにカントリー・テイスト混ざるとABBAになりがち。アルバム収録曲全体にどことなくユーロヴィジョンっぽさが濃いのはその影響かもしれませんが、それがゆえか曲、そして彼女の歌い方がこれまでと比較にならないくらい丁寧で、それで眠っていた潜在能力が引き出されたのかもしれません。僕はミツキの熱烈ファンなので本音言うとリナには強いライバル心があるんですけど、くやしいけど今回みたいな路線の音楽なら彼女の方が上です。ただ今作、自身の生い立ちのトラウマなどサッド・ガールっぽいテーマもありつつ、そっち系にはカテゴライズされてないので、そっちならミツキ負けねえぞ、というのはあります(笑)。


16.Being Funny In A Foreign Language/The 1975

16位はThe 1975。ミツキのところで2018年の年間ベストの2位だった話をしましたが、そのときの1位が彼らの「A Brief Inquiry Into Online Relationships」だったものです。今回は共にこの順位帯ですが、両者とも順調に成長して大きくなってるということだと思います。今回の1975、前2作の壮大なコンセプト志向から一転、1曲1曲の完成度を重視した「曲」のアルバムに徹した印象ですね。そこに物足りなさを感じた批評も多少読みましたけど、でも、今、ことメロディックな完成度の高い曲書かせたら、彼らの右に出る存在、そうはいません。変則フォーク調の「Part Of The Band」からシティポップの「Oh Caroline」「I'm  In Love With You」、別名「ケニー・ロギンス」と個人的にあだ名つけてる得意の80s調の「Looking For Somebody」、正統派80sブラコンの「Happiness」、そして黄金期のU2を彷彿させるスケールの大きな名バラードの「About You」。他のアーティストだったらとっくに代表曲になりうるようなものがこれだけポンポン量産できるアーティスト、そうはいません。アルバムの作風にカリスマ性こそないのですが、愛すべき曲がつまってる意味で、長きにわたるファン・フェイヴァリットになりそうな予感が大です。

15.The Forever Story/JID

15位はJID。ジェイアイディー。ここのところ、注目度が急速に上がってるラッパーですね。彼はJコールのやってる非常に良質なR&B/ヒップホップのレーベル、ドリームヴィルの所属で、今年このアルバムで全米12位まであがったの止まらず、イマジン・ドラゴンズのヒット曲「Enemy」でフィーチャーされて知名度を一気に広めました。彼が面白いなと思うのは、70sソウルをはじめとしたウェルメイドなサウンドの典型的なオルタナティヴなヒップホップをやる人なのかなと思わせつつ、トラップ・ナンバーも前者のタイプの曲と全く違和感感じさせることなくキメるんですよね。それを可能にしているのが、アメリカのラッパーにしてはちょっと柔和な、中性的な高めの声でときに声裏返らせたりもする、それでいてかなりテンポのいいフロウで。これが結構クセになるんですよね。そのフロウもさることながら、今作では自身のライフストーリーを余すところなく語っているように、ストーリーテラーとしての評価もすごく高いですね。ケンドリックたちの次の世代がまだ見えにくいだけに楽しみになってきています。

14.Dragon New Warm Mountain I Believe In You/Big Thief

14位はビッグ・シーフ。彼らは2017年に僕がこの年間ベスト・アルバムをリリースして以来、エントリー常連のバンドで毎作入ってます。2019年にその年の年間で「UFOF」を4位にした時から「このバンドは絶対にアメリカで最高のバンドになる。いや、そうならなければいけない」と言い続けてきました。それは2枚組の大作ヴォリュームとなった今作でも明らかです。後期レディオヘッドがアメリカン・ルーツロックに接近したような「フューチャリスティック・アメリカーナ」とでもいうべき路線は今作でマックスに拡張。その結果は、今、様々な国際的な媒体で出ている年間ベスト・アルバムの結果や、グラミー賞での最優秀オルタナティヴ・アルバムへのノミネートなどでも明らかだと思います。ただ、一聴して傑作だと頭では理解しながらも「UFOF」のときほど熱狂しなかった自分がいるのも事実です。それは「UFOF」でエイドリアン・レンカーのすぐにでも壊れてしまいそうなデリケートでセンシティヴな世界観が多少薄れて感じられたことがひとつ。そして、他のアーティストとの絡みやフェス出演などが少ないなど、大物バンドになるにしては世間への積極アピールがまだ弱いことですね。日本にはよく来てるようですけど南米では無風なのでなお、そう感じるんですけどね。


13.Preachers Daughter/Ethel Cain

13位はエセル・ケイン。2022年に一般的に全く知られない状況から一気に頭角を現したという意味では、彼女こそが最大のニュー・カマーだったんじゃないかと僕は思ってます。この今年で24歳のトランス女性は、実家が南部出身の保守色の強い宗教関係家庭の育ち。その環境で「性が違う」などと言おうものならどういう人生が待ち受けているか、想像に難くないのですが、このデビュー作はその人生の苦闘が記されています。そうした話題性も手伝ってか、このアルバムはリリースされるやすぐに絶賛され、実質、自主制作のところからジワリと火がつき始めました。僕もそうして知った口で、最初は「これ、どこまで広がるかな」と少し様子見してたんですけど、いやあ、これ、そうした話題性なくても音楽的才能で度肝抜かれますね。質感としてはシューゲイザー・テイストのシンガーソングライター風ですが、楽曲のドラマティックな構成力がすごいんですよ、この人。クランベリーズのヒット曲みたいな「American Teenager」みたいな爽やかな曲もいいんですけど「Western Nights」「Family Tree」「Ptlomaea」みたいな6分を超える曲でより真価を発揮しますね。ギター・ソロのダイナミックな生かし方がいちいちかっこよかったりもして。この年間ベストのランキングつけてるときに一番ハマった作品で、上げれるところまで上げようと思ったらここまできました。この50枚で最もカルト名作化するポテンシャルがあると思います。

12.Stumpwork/Dry Cleaning

12位はドライ・クリーニング。彼らは去年デビュー・アルバムを出したばかりなんですけど2年連続でもう2枚めのアルバムを作ってしまえるほど、創作意欲満々のようです。僕も昨年、彼らのアルバムを29位に選んでいましたが、今作の方が圧倒的に好きですね。前作は「すごく楽器のパーツの完成度とセンスが非常に高いポスト・パンクだな」という印象だったんですけど、曲調に幅がなくアルバムの半分超えると正直飽きちゃったんですね。ところが今作はジャジーな新境地「Anna Calls from The Arctic」でいきなり度肝を抜き、その後もザ・スミスの初期を思わせる軽快なギターロックから、RATMのトラックに使えそうなファンキーなものまで含めてレンジが広がり、「Gary Ashby」「Don't Press Me」などライブ映えするシングル向きの曲も目立ってます。ギタリストのトム・ダウズの表現力の広がりと、効果的に鼻歌を混ぜられるようになったフローレンス・ショーのポエトリー・リーディングの自由さが光りますね。これ、本当に好きなアルバムで、実は直前までトップ10入れてたんですけど、直前で判断変えて12位に落ち着きました。それがなんだったのかはトップ10の時に話しますね。


11.BADモード/宇多田ヒカル

11位は宇多田ヒカル。この年間ベストでは毎年11位を先行発表することが恒例化してるんですけど、今年こそ、この先行企画をやっておいてよかったと思った年はありません。なんとピッチフォーク・メディアがこのアルバムを31位、「マルセイユ辺り」をシングルの10位にしました。これ聞いて「
助かった〜」と思ったんですよね。僕のこのアルバムが11位であるという発表はすでに11月17日、ピッチフォークよりも2週間以上前に発表してました。普段ディスってるメディアの真似したと思われたくないじゃないですか(笑)。ホッとしましたね。でも、このアルバム、その評価に値しますよ。もう、サウンドの音色、作りに関しては、もう日本のポップ・ミュージックを確実に一段上にあげたというか。フローティング・ポインツやAGクックと作った電子音やグルーヴのセンスは今年出たあらゆるポップ・ミュージックの中でも上位クラスでしたから。このアルバムを1月にレビューしたときに書いた「アデルがインフローとやったときより上」というのは今でもゆるぎなくそう信じてます。その意味で日本のオールタイム・アルバムに今すぐランクインしていい作品だし、後続に対してのハードルをかなり高くあげた作品だと思ってます。ちなみにピッチだけじゃなく、他にも3つほど、年間ベストの30位以内に入れてる海外メディアあるので調べてみるといいですよ。それだけ世界のお墨付きもついているということです。

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