見出し画像

沢田太陽の2019年年間ベスト・アルバム40位〜31位

どうも。

では、2019年の年間ベスト・アルバム、続き行きましょう。

今回は40位から31位ですが、こんな感じです。

画像11

はい。こんな風になりましたけれど、早速40位から見てみましょう。

40.Pang/Caroline Polachek

画像1

40位はキャロライン・ポラチェック。この人は、覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、2000sの終わり頃にブルックリンにチェアリフトっていうエレクトロ・ポップのバンドがあったんですけど、そこでフロントつとめてました。その頃からソングライター、プロデューサーとしての実力派評価されてまして、ビヨンセの2013年の「Beyonce」やチャーリーXCXのアルバムに参加したりもしてましたけど、そんな彼女のこれが実質3枚目で、ポラチェック名義では初のアルバムです。すごくオーソドックスなエレポップ・アルバムなんですけど、余計なウケ狙いの尾ひれ的なアレンジが一切なく、無駄が全くないエレポップなので、すごく聞きやすいです。EDM以降、一見作りやすそうで、意外と作るのが難しいタイプになってるかもしれませんね。作り方そのものは凄くシンプルなんだけど、それが一番いいという。つまりは、その根本のソングライティングがしっかりしてないと、こういうのは作れないということなんでしょうけどね。プロデューサー・タイプの人がヴォーカル取るときにありがちな声の弱さとか、そういうのもないし。もう少し評価されてもいい人だと思います。

39.Jimmy Lee/Raphael Saadiq

画像2

39位はラファエル・サディーク。80sの終わり頃から90sにかけてはトニ!トニ!トニ!のリードシンガーとして、それ以降はソロと並行してディアンジェロやソランジュのクリエイティヴ・パートナーをつとめていることでR&Bにとってはこの30年近く、すごく重要な人です。この人といえば、60sとか70sのトラディショナルでオーガニックなソウル・ミュージックのエッセンスを作らせたら天下一品の人なんですけど、今回のソロは、その方向性とも少し違ってて、これ僕思うに、彼本人的には”ロック”を意識して作ったんじゃないかな。コード進行の妙だったり、スネアとキックのリズムのタメみたいなソウル・テイストより、激しめのエレキギターとシンセがより前面に出て、歌そのものもかなり熱いんですよね、今回。「こういうロック、ああったらもっと聞きたいよ」と、黒人創作者目線の現状のロック批評にも聞こえて興味深かったですね。リリックも冒頭から「罪人の祈り」という曲からはじまり、世界の狂気や、過ちも多かった自分の人生を歌い、最後はケンドリック・ラマーをを迎えて「自分が変えられないのに、どうやって世の中を変えろというのか」という、おそらく本作を通じて訴えたかったと思しき、ヘヴィなメッセージを投げかけています。

38.We Are Not Your Kind/Slipknot

画像3

38位はスリップノット。僕が年間ベスト関係で彼ら入れるの、はじめてじゃないかな。これ、なんでそうなったかというと、このアルバムが出た頃、TOOLの新作に期待してたところ、いざ、ふたを開けてみたら「良いけど、予想の範囲内」だったTOOLよりも、予想を遥かに超えて良くてびっくりした、というのがあります。このバンドが、案外バランスが凄く良いバンドであることはかねてから知ってはいました。この一つ前のアルバム「5 The Gray Chapter」は、コリー・テイラーのソングライターとしての魅力がよく出たアルバムだったので、割と好きだったんですけど、今作は「前作くらいのハードさじゃ満足できなかったコア・ファンを喜ばせるハードさで、なおかつ良いメロディの曲が多い」上に、彼らの昔からのトレードマークであるポリリズムと、さらに今後を見据えたエレクトロの実験路線まであって、このバンドが円熟しつつもまだ伸びしろも感じさせた意味で、長い目で見て「中後期の傑作」と位置づけられそうな感じがしたんですよね。実験路線の曲はコリー自身が「デヴィッド・ボウイを意識した」と認めているんですけど、中でも「Spiders」は、「Outside」とか「Earthling」でボウイがインダストリアル・ロックに接近した、やや過小評価されていた時代の再評価を促すようで興味深かったですね。

37.Zuu/Denzel Curry

画像4

37位はデンゼル・カリー。今年のアメリカの、オルタナティヴな感じのしない、最近のメインストリームなタイプのラッパーとしては、この人のこのアルバムが一番良かったかな。トラップであることには変わりはないんですけど、やはり拠点がフロリダということからか、本場のアトランタのトラップとはトラックで「もうひとつ先をいってやろう」という気鋭の先進性みたいなものをトラックからはしっかり感じられる(中でも一番楽曲数の多いFinatic N Zacのトラックは、ベースのグルーヴにつけるキーボードとかスティール・パンみたいな音のグルーヴがかっこいい)し、デンゼル本人のラップも、最近どこにでもいそうなフューチャーのものまねみたいな感じとはまるで違う感じが好感持てます。リリックがまだありきたりなギャングスタ・ラップの域を出ていないので、なにか工夫がでてくれば面白いんですけどね。

36.Remind Me Tomorrow/Sharon Van Etten

画像5

36位はシャロン・ヴァン・エッテン。去年、今年と良質な女性インディ・ロッカー、SSWが台頭してきてシーンも急速に層の厚さを見せつける感じになっていますけれど、2010sにこの動きを牽引していた人のひとりがシャロン・ヴァン・エッテンでしたよね。この頃に彼女はインディで話題作を連発して、それで所属レーベルのジャグジャグウォーの知名度も上がって。僕も2015年の2月に彼女のライブ、サンパウロで見てて、すごく次を待っていたらなかなか出なくて、今回、4年ぶりの新作となりました。そこまで遅れた理由は、その間に彼女が出産を経験したからですけど、それが影響したか、ガラッと別人みたいになって帰って来ました。それまでは、無造作なショートヘアにすっぴん、Tシャツとスキニー・ジーンズだった人が、髪が胸元まで伸びてMVによってはかなりキツめにメイクまでして。サウンドも、これまでのロウファイなロックからエレクトロが加わって「えっ!」と思いました。ただ、そうでありながらも、根本がこの人らしい、エモーショナルの余韻の残る力強い歌いっぷりが健在などころか、むしろさらに屈強になっているのを聴いてホッとしましたね。抑制すべきところと、泣きながら訴えかけてくるかのような「動」のところのヴォーカルの出し入れのコントラストは今回も本当に見事でしたね。

35.Rammstein/Rammstein

画像6

35位はラムシュタイン。実は2019年のロックの隠れた話題の一つに、「ラムシュタインのアルバムが実はヨーロッパで10数カ国でナンバーワンになっていた」というものがあります。すごかったんですよ、これ!ドイツ語圏と東欧、北欧、そしてフランスでも1位。スペイン、スウェーデンで2位、イギリス3位、イタリアとオーストラリア5位でアメリカでも9位でしたからね!このリアクションは誰も予想できず、業界でもかなり驚かれていました。TOOLが13年ぶりで話題になっていましたがラムシュタインも11年ぶりで、かなり国際的には待望感強かったんですよね。そして、「期待を上回った感」では、僕は実はTOOLよりも上だったと判断してます。彼らって、「メタル&テクノ」という、いかにもドイツな2つの音楽を組み合わせて、そこに極端な巻き舌とため息というドイツ語の特性を活かした唯一無二の音楽性してるじゃないですか。もう、その時点でオリジナリティの塊なんですけど、今回はそのワン&オンリーな魅力を利用しつつも、曲のフックの抜群の掴みやすさとメロディのキレが抜群でしたね。ぶっちゃけ、過去の曲やらなくても、ここからの曲中心にツアー・セット組んでも大丈夫なくらい、新たな代表曲が目白押しでした。歌詞も、ドイツの正と負の歴史に対しての複雑な愛国心を歌った「ドイッツェランド」や昨今の移民問題への言及を思わせる「Auslander」など、ヨーロッパ全体に歴史への理解や問題意識を投げかけるようなものになっていますね。

34.WHO/The Who

画像7

34位はザ・フー。これも13年ぶりのアルバムですが、その前のアルバム「Endless Wire」があの当時で24年ぶりのアルバムだったことを考えると、こうやって新作が届けられることそのものが奇跡ですよね。僕がロックを聞き始めて間もなく解散したバンドだったので、長きにわたって”伝説”で語られたバンドだったわけですからね。それが21世紀に入って「最強のツアー・バンド」として復活したのは良かったものの、「Endless〜」がいまひとつさえない出来で。なので、もう新作は期待しないでいたのですが、ピート、ロジャーが75歳が近くなったタイミングでまさかの力作登場ですよ!興奮しないわけにはいきません。曲の作りとしては、彼らの黄金期に、「フーズ・ネクスト」(71年)、「四重人格」(73年)を彷彿とさせる、ピートの切れ味鋭いリフを主体に、プリミティヴなアナログ・シンセが乗る必殺のスタイルですね。何年経とうがピートのギターは相変わらずシャープで、ロジャーの荒削りな咆哮も衰えない、亡きキースとジョンのリズムは、ツアーを支え続けたピノ・パラディーノとザック・スターキー、引退したラビットに代わるシンセを、元トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのベンモント・テンチがしっかりと穴埋めしています。本人たちいわく「四重人格以来の出来」だそうですが、仮にそこまでではないにせよ、僕としては「フー・アー・ゆー」(78年)以来の傑作だと思っています。すべてが終わるまでにフーがこういうタイプのアルバムを出せたこと自体が素直に嬉しいです。

33.Heavy Is The Head/Stormzy

画像8

33位はストームジー。対象期間ギリギリの12/13のリリースでしたが、駆け込みでランクインしました。ストームジーといえば、今現在のイギリスのヒップホップ界では圧倒的な人気で、今やグラストのヘッドライナーもつとめてしまうほどの存在です。そんな存在の割に、なぜかUKヒップホップの名盤はディジー・ラスカル、スケプタ、Jハスが出してるインでょうが強いのですが、僕は彼の前作「Gang Signs & Prayer」(2017)も今作もそれに並ぶ出来だと思うし、安定した力量で言えば彼ら以上だと思っています。裏返りやすい独特の声質でのラップは一回聴いたら忘れない強烈な個性だし、歌もうまく歌える。今作は、その持てる力量を存分に発揮させている点でも立派なのですが、そこに加えて、「成功するのも楽じゃない」という、自身の内面の苦悩を吐露したリリックが歴史のまだ浅いUKヒップホップとしては貴重なテーマとなっていること、そして、前作があそこまで成功したにもかかわらず、アメリカ進出を狙ってセルアウトすること一切なく、古くからのグライムのトレードマークだったハウス色の強いトラックで「イギリス代表」を改めて印象づけているところでも好感が持てます。今年のヒップホップは、トラップ、エモ・ラップの拡大再生産が勢い目立ってしまうアメリカよりは、UKの方が総合的に見て面白かったと思います。

32.Cheap Queen/King Princess

画像9

32位はキング・プリンセス。今年はビリー・アイリッシュ、ラナ・デル・レイと、ダークなポップ・クイーンの活躍が取り沙汰された1年でしたが、フィオナ・アップルをその元祖として注目しようとする動きがありました。当のフィオナはインタビューでそれを露骨に嫌がっていましたが、そんなフィオナ自身が気に入って共演までしてしまったのがキング・プリンセス。ニューヨークはブルックリン出身の、今週で21歳になる俊英です。彼女の才能は早くから評価され、もう昨年の末くらいにはもう、「Later With Jools」をはじめとした英米でのテレビ出演もやっていたし、かなり注目もされていました。ロックにも、エレクトロにも、アコースティックにも対応できる柔軟な楽曲を自分で作れ、かすれた声でソウルフルに歌える高い歌唱力がある。さらには、早速レズビアンのあいだで非常にモテモテになっているその美貌(相手、アマンドラ・スタンバーグだったんですね!さっき知った)と、スターになるには申し分のない資質をいくつももっています。比較して申し訳ないですけど、センスの高さと美少女であることは認めるものの、声域の狭さゆえに曲調の広がりに欠ける同世代のクライロより素質そのものはだいぶ上です。ただ、そんな彼女が途中からプロモーションされなくなり、このアルバムも評判が良かったにもかかわらずあまり宣伝されずにヒットしなかったのは、すごく謎です。裏でなにかあったんじゃないかと僕は睨んでいるのですが、だとしたらそれは解消してほしい問題ですね。せっかくの才能がもったいないですから。

31.IGOR/Tyler The Creator

画像10

そして31位はタイラー・ザ・クリエイター。チャンス、カニエと、期待にこたえられなかったアルバムが続いた今年のヒップホップで、期待に応え、今年のヒップホップではナンバーワンの評価だったのが今作ですよね。それを考えると、僕のこの順位は低いとも思うんですけど、良い言い方をすれば、この人の持つ素質、キャラクターから考えれば、「まだ、最高傑作は作っていない」と言えるし、僕が彼に求めるレベルには達していません。彼の場合、以前が「面白いキャラしてるのに、いざ作品出すときに”正統派なのはわかるけど”フツー”」になってしまうのがどうしても物足りなくて。2010年代ベストに彼のアルバム選ばなかったのもそれが理由です。で、今作は、遂に殻を破ってかなり斬新なあるばむを作りました。ソランジュの今年のアルバムのフィーリングに近い、70s後半のスティーヴィー・ワンダーやアース・ウィンド&ファイアを思わせる、ヴィンテージなシンセを主体としたフュージョン感覚は僕も好きです。トラックメイカーとしての今回の彼は評価します。ただ、とはいえ、彼、ラッパーでしょ。その割に肝心なラップ・パートが少ないのが、やっぱ、何回聴いても気になるんですよねえ。なんか、聴いてて、最盛期のアンドレ3000(アウトキャスト)のちょっと弱いヴァージョンを思い出してしまうところがあるというか。まあ、「アンドレ」というのが、ものすごく高いハードルであることは認めるんですけど、そこに到達できる素質があると思う分、今回はあえてここらの順位にしておきます。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?