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字幕の無いオペラ映像を見たいときは?~原語の歌詞も大事!

映像はあっても日本語の歌詞が無い

昔と比べたら今はオペラを目にする機会も簡単に手に入るようになりました。
DVDやBlu-ray、YouTube、劇場の公式サイトなど、映像メディアは豊富にあります。
でもここで問題発生!
たいていの動画には日本語の訳が付いていません。

それでなくてもオペラなんてなじみが薄いのに、歌詞がわからなくて誰が見るかーい!って話ですよね。
ネットであらすじだけ頭に入れて、後は勘で見るという猛者もおられるとは思いますが、決してお勧めできるやり方ではありません。結局漠然とした内容しか入って来ず、音楽も耳に残るフレーズしか聴き取れずに終わってしまうからです。
ワーグナーの作品やヴェルディの後期の作品などは当然ですが、モーツァルトの『フィガロの結婚』ですらあらすじを記憶しておくだけでは十分とは言えないでしょう。

そこで「対訳」の出番となります。
有名作品には立派な対訳本が出版されていまして、専門書を扱う書店でなら手に入れることができます。
ですが現代とは便利な時代ですね。ネットで対訳を公開してくれている素晴らしいサイトがあるんです。それが『オペラ対訳プロジェクト』です。

“歌詞がわからない”問題はこれで解決

トップページにはこうあります。

オペラの歌詞をウィキを活用してみんなでコツコツと訳出し、日本語対訳にしてオペラファンに無料で提供するプロジェクトです。お気に入りのアリア一節を訳すだけでも結構です。個人訳の転載も歓迎。翻訳ボランティアのご参加をお待ちしています。
日本語対訳をノートパソコンやディスプレイで表示すると、オペラCDを聴いたり輸入盤オペラDVDを見るときにとても便利です。対訳本は手で支えてページを繰る必要がありますが、ここではクリックひとつで先へ進むことができます。最近はインターネットで欧米放送局のオペラ中継を無料で聴くこともできるので、パソコンで読む日本語対訳の利便性はますます高まっているように思います。

素晴らしいですね。
日本語訳のついた映像メディアはまだまだ少ないし、このサイトにしか日本語訳が存在しないオペラもたくさんあります。
もちろん全てのオペラの日本語訳が上げられているわけではありませんが、かなりのオペラの“歌詞がわからない”問題は解決です。
じゃあ、これで知らないオペラもバッチリ見ていけるでしょうか?

“歌詞を見失う”問題が発生!

実際にやってみるとわかりますが、対訳をPCやスマホの画面を横目で見ながらオペラの映像を見る場合、そうしたことに慣れている人でなければ確実に「今どこを歌っているのか」を見失います。

オペラの歌詞は繰り返し歌われることは多いですから、かなり先を歌っていると思ったらまだ全然前に進んでいないということは頻繁にあります。数行の歌詞を5分以上かけて歌っているなんてことも多々あるのです。
映像も見ながら、音楽も聞きながら、対訳も読みながらと忙しいのに、少し映像に集中していたらすぐに「今どこを歌ってるの?」ってことになります。

独唱、重唱、合唱と一曲ごとに分かれているオペラならわかりやすいですが、19世紀後半の作品あたりからその境目が崩れてきます。
その上、ワーグナーなどのように一幕を通して途切れなく歌われるオペラなんかだと、もうお手上げです。

歌詞をいちいち追わなければならないのか?

「歌詞を一行一行リアルタイムで読まなくても、ある程度の意味が追えればいいのではないか?」

確かに。しかしそれだとオペラを十分に楽しんだとは言えないのです。
高い出費や、長いこと鑑賞に時間をかけたのに元が取れません。

皆さんは歌謡曲をおとなしく耳だけで聞いておられますか?
恐らく心の中で一緒に歌っているか、実際に声に出して歌っていないですか?
実はオペラも同じで、心の中で歌いながら聞いてほしいと私は思っています。

ちなみにオーケストラの演奏会にたまにいて、笑われてしまう人に“自分も指揮をしちゃってる人”がいます。
でも私は気持ちはわかるんです。演奏家と一緒に心で音楽を奏でていたら、そりゃ体も動きますよ。

オペラの観客席で口パクをされたらさすがに気持ち悪いですが、心の中では歌っていてほしい。
オペラの本場の人たちはきっと心で一緒に歌っているから、あんなに熱くなれるんじゃないかと思うんです。

(ここで休憩。観客の熱い反応の例を見てみましょう。)


『フィガロの結婚』で小姓のケルビーノが片思いを歌うアリアを聞いてみてください。
この出だし部分の韻律の美しさには惚れ惚れします。

Non so piu cosa son, cosa faccio,
or di foco, ora sono di ghiaccio,
ogni donna cangiar di colore,
ogni donna mi fa palpitar.

オペラ対訳プロジェクト『フィガロの結婚』Act1
https://w.atwiki.jp/oper/pages/22.html

だから私はオペラを聞くとき、音楽が気に入ったら次はぜひ、原語の歌詞も歌に合わせて読んでほしい。
正確に読めなくてもいいんです。
なんとなくでいい。詩の語感を感じながら聞いてほしいと思います。

私がオペラを聞き始めた頃の聞き方

なかなか難しいことを要求されて皆さんもお困りでしょうから、今度は私の経験をお話しします。

私が高校生の頃、あるオペラを聞く場合はまずNHK FMでチラッと聞いて興味を持つところから始まります。
「もう一度ちゃんと聞いてみたいな」となったら地元の図書館でレコード(CDはまだ無かった)を借りてきました。
当時オペラのレコードには必ず対訳本が付いていました。曲の解説もガッツリ書いてある、かなり専門的な小冊子です。

映像が無い分、音に集中できましたね。
ですがそれでもすぐにどこを歌っているのかわからなくなります。
そもそもオペラはたいていがイタリア語かドイツ語です。発音と文字が上手く一致させられません。
はっきり聞き取れた単語を頼りに必死で歌詞を探します。

そんなことを繰り返しているうちに、イタリア語、ドイツ語、あとフランス語くらいは歌詞が目で追えるようになってきました。
そうなると上記ケルビーノのアリアのように詩のニュアンスもわかるようになりますし、歌がより鮮明に聞こえてくるようになります。
オペラが「音楽」から「歌」に進化してくるわけです。

オペラを耳だけで聞くメリット

私がオペラを聞き始めた時は映像が無かったので耳に集中できました。皆さんももし時間と根気がおありでしたら、ぜひまずは耳だけでオペラを聞いてみてください。
対訳はかなり読みやすくなります。

ヘッドホンで聞いたら細かい音まで聞き取れますから、ライブ録音の場合、歌手や指揮者の息や会場のざわめきまで感じられて臨場感たっぷりです。

あと、最近のオペラ上演では少し変わった演出が多いので、映像は見ずにまず自分で自然なイメージを作っておいた方が良い場合もあります。
音楽はいいのに演出で理解不能という場合が最近増えてきていますので、オペラの「勉強」でしたら耳だけの方が良かったりもします。

オペラの歌詞は詳しく知っていた方が楽しい

『フィガロの結婚』で一番有名な歌「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」の歌詞を例に挙げると、日本語の意味を歌と同時に理解できた方が格段に面白味が増します。

【いたずらが過ぎてご主人様から「兵士になれ」と命令された、小姓のケルビーノをからかってフィガロが歌うアリアの後半部分】

多大な名誉と わずかな給料!
(“わずかな給料”のところだけが惨めっぽく繰り返されます。)

それからファンタンゴを踊る代わりに
ぬかるみの中を行進だ

(ここから伴奏は兵士をバカにするようなおどけた感じになります。)
山に 谷間に
雪でも 猛暑でも
音に合わせて トランペットや
爆弾や大砲の
その激しい砲声は
耳をつんざく

(ここから出だしの一節「もう蝶々のように飛び回ることはできないぞ」と再度歌った後、曲はムダに勇ましい行進曲風になり、兵士になりたくないケルビーノを皮肉ります。)

ケルビーノよ 勝利を目指せ
軍隊の栄光に向かって

オペラ対訳プロジェクト『フィガロの結婚』
Act1https://w.atwiki.jp/oper/pages/22.html

もし生の舞台を見たとき歌詞をわかっていたら、歌手たちがこの場面をどう演じるかも楽しみになりますよね。

もちろん、こうしたことができないとオペラが楽しめないわけではありません。何度もオペラの鑑賞を繰り返していくうちに身に付いてくることだとは思います。
ですが、できた方がきっと楽しさは増します。
知れば知るほど楽しくなる。それがオペラの世界だと思います。

 
今回はここまでです。
オペラのハードルが上がったような気がした方には申し訳ありません。
もっと気楽にオペラと触れ合いたい方には日本語字幕付きのYouTubeチャンネルをご紹介しておきます。

またオペラの魅力をセレまさ流に解説したマガジンも作っていますので、併せて読んでいただけると嬉しいです。
それではまた!


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