見るだけでなく「聴く」ことでも楽しめるJリーグが再開されます!
イングランド・リバプール
ビートルズを生んだ街、
アイルランド文化、
港町の繁栄、
コンテナ化による衰退。
屈強な荷役労働者の系譜は、
スカウスとよばれる独特な言葉や、
フットボールを愛する人々の荒々しい性格
によって受け継がれている。
30年ぶりに
イングランドチャンピオンになったリバプールは、
街の象徴であり、人々のプライドであり、
楽しみであり、心の拠りどころであり、
重要な産業でもある。
15年前、
僕もここの住人でした。
■リバプール
に落ち着くまでは、
イングランド各地を転々。
すばらしい人たちに出会い、
イングランド文化と
フットボールのなんたるかを教えてもらいました。
特にポーツマスの
アンディというおっちゃん。
地元クラブを愛し、
何度も僕をスタジアムに連れていってくれた。
チャント(応援歌のようなもの)
の隠語を解説してくれたり、
屋根がないアウェイサポーターエリア
の座席幅が「ホームより狭い」
という雑学を誇らしげに語る。
ホームゲームの後は、
グレービーソースをたっぷりかけた
Bangers and mashをたべながら
ビールを飲んで、
遅くまでつきあってくれました。
そういえば、
愛用のラジオがあった。
応援するクラブが敵地で戦うとき、
彼は好んでラジオを聴いていました。
■スタジアムやパブでは、
アンディをはじめとする
地元住民がフットボールを語らうわけですが、
僕の英語力に
問題があることを差し置いても、
みんな語彙が豊富すぎて
ついていくのが大変でした。
大人だけではなく
子どもも女性だって、
解説者のようなコメント
をしていたのは驚きました。
アンディによると
「テレビが普及する前だったから」だと。
フットボールは
「聴くスポーツ」
だったんだと
ドヤ顔されたときはイラっとしましたが、
「そういうことか!」
と妙に納得がいったことを
覚えています。
■一昔前、
今のようにテレビがなくて、
スタジアムに行くことができない人たちにとっては、
地元クラブのプレーぶりを知る手段は
「文字」または「音」しかありませんでした。
動きが多くて速いプレー
を描写したり、
スタジアムの様子、
お客さんの雰囲気、天候も含めて
瞬時に、的確な言葉をえらんで
解説することで、
「フットボールの言語」
が洗練されていったのでしょう。
高度で複雑な言語は、
聴く人にとっても
そのリテラシーの向上をもたらし、
豊かな言語空間が形成されていきました。
ラジオを通して生まれた
芳醇な言語は、
新聞に転用される過程において
さまざまな角度から重層的に
書き換えられる。
長い歴史のなかで積み重ねられた
「フットボールの言語」
「伝えて、伝えられる」文化は、
今も日常生活の中で
厳然と生き長らえているのです。
■イングランド
だけではありませんが、
やたらと辛らつで批判的
な言葉が飛び交うヨーロッパの報道に比べて、
日本のスポーツ報道は
やさしくて、ソフトで、
ドラマチックで、情緒的。
選手の生い立ちや
家族なんかが登場したりして、
過去の苦労話など、
今に至る背景をつづって感動を誘います。
スポーツの「今」
を切り取って語るだけではなく、
背後にあるさまざまな構成要素
を含めた表現は、
僕もそうですが、
日本人ウケするのでしょう。
■反して
フットボールの「背景」を脇に置き
フットボールの「今」に徹底的にフォーカスする。
そんな姿勢は、
イングランド人の
フットボールに対するリスペクトであり、
いわば、
伝統文化や芸能、
歴史や文学を楽しむことと同じ。
テクノロジーの進化によって
無言語で臨場感を楽しむ流れ
は避けられないとしても、
あまりにも安易に、
情緒的になりすぎることは、
対象をじっくりと観察し、
深く考察するきっかけを排除し、
スポーツの言語そのものを
脆弱化させてしまわないだろうか。
■リバプールがチャンピオンに。
あさイチで飛び込んできた
ビッグニュースに、
イングランドで生活した日々を
回顧せずにはいられませんでした。
そしてはからずも思い出されたのは、
日英の違い。
フットボールは、
きわめて高度で卓越した言語
によって表現される営みでもあること。
そしてそれは
日本にはない、
というかもうちょっとがんばる必要がある
「挑戦」
であるべきではないかと。
フットボールがより一層、
日本においてたくさんのファンを獲得していくとき、
その言語化への格闘プロセスは
不可欠であり、不可避である。
一日中そんなことを
グルグル考え続けて、
ようやくまとまりました。
■明日はいよいよ
Jリーグが再開されます。
スタジアムには行けませんが
家でDAZNを楽しむことができます。
久しぶりに見るプレーや選手に
高揚感を抑えることはできないでしょう。
そして、あらためて
フットボールの言語が
どのように使われているのか。
意外な、楽しめるポイントとして
注目してみたいと思います。
今日も最後まで読んでくれて
ありがとうございます!
それではまた明日。
おつかれっした!
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